スピードアップ 〜メール〜
レイへ
調子はどうだ?元気でやっているだろうか。
アカデミーにも慣れたようだな。
ルームメイトとも上手くいっているようで安心している。
先週は休みが取れなくてすまなかった。
どうしてもはずせない用事ができてしまって・・・悪いことをしたな。
俺の方から帰って来いと言っていたのに・・・。
初めての週末はどうやって過ごしていた?
お前のことだから資料室で本を読みあさっていたんだろうか。
今週こそちゃんと休みをもらうつもりだ。
急な仕事が入ってもディアッカに押し付けるから心配ないぞ。
だから顔を出せ。
お前がいなくなってから、リリィの元気がないんだ。
あんなにお前のことを嫌っていたのに・・・どうしたんだろうな。
それから、久しぶりに母のところに顔を出そうと思っている。
お前にも一緒に来て欲しいんだ。
母がきっと喜ぶ。
まだ身柄の解放のめどがつかないから・・・元気付けて差し上げてくれ。
ドウッ。
鈍い音。
手に伝わる圧力。
思わず止めてしまった息を吐き出す。
構えた銃口の先。
確認すると、正確に狙った的の中心に命中していた。
「すっごーい、レイってば!」
興奮した声が鼓膜に直撃し、レイはぎょっとして首をめぐらす。
誰もいないと思っていたのに、いつの間にか赤い髪の少女が隣に立っていた。
「ルナマリア・・・おどかすな」
「すごいすごい!ど真ん中じゃない。アタシなんか的にさえなかなか当たらないのに」
くったくない賛辞の言葉に、何だか気恥ずかしくなる。
レイは顔を赤らめ、視線を宙に浮かせた。
「大したことない。まだ静止した状態じゃないとあんなに上手くいかないし・・・」
「この分じゃ、明日の射撃のテスト、レイが一番じゃない?」
「・・・そうか?」
「そうよ」
「でも・・・。過去の記録を見たら、俺の点数なんか前年の卒業生の最低ラインだ」
こもるような口調で言うと、ルナマリアが片眉を上げてにらんできた。
「何それ、アンタより下手なアタシのこと、遠回りに馬鹿にしてない?」
「な・・・、そんなことっ」
周りからはクールだと言われるレイの無表情が崩れる。
素で困り果てるその様子に、ルナマリアははあっ、と大きなため息をついた。
「あっ、二人ともここにいたんだ」
「シンー、聞いてよ!レイってば酷いのよ」
「・・・おい、俺が何をした」
レイの不平に耳を貸さず、ルナマリアは射撃場に入ってきたシンに向かって先程の会話の内容をまくし立てる。
「大体、前の卒業生って言ったらクルーゼ隊の人たちじゃないの?」
クルーゼ隊って何?とお約束のように聞いてくるシンに気を良くし、ルナマリアは得意げに話し始めた。
レイも興味があったので銃を片付けながら耳を傾ける。
「前の戦争で活躍したエリート部隊よ。アカデミーでも常に上位の成績を独占してたんですって」
「・・・どっからそんな情報を」
「隊長のクルーゼって人はヤキン・ドゥーエでMIAになっちゃったみたいだけど・・・。
ええと、一番有名なのはアスラン・ザラ。前議長の息子でヤキン・ドゥーエの英雄。
アカデミーの成績のトップは全部あの人の名前が並んでるわ」
「・・・射撃は別の人だった」
レイがぽつりとつぶやく。
一瞬独り言かと思ったルナマリアとシンだが、レイは珍しく怒ったような顔をしていた。
驚く二人に対し、レイはさらに言葉を継ぐ。
「アスラン・ザラは、射撃は2位だった」
「そうだったかしら?」
「そうだ!」
「レイ、何ムキになってるの?」
「・・・なってない」
呆然とする二人をよそに、レイは大股で射撃場を出て行ってしまった。
その後姿を見送り、シンがおずおずと口を開く。
「俺、レイのあんな顔初めて見た」
「アタシも」
「何怒ってたのかな?・・・ま、いいか。それよりルナ、そのアスランって人はまだザフトにいるの?
俺、会ったことあるかな?」
しかしルナマリアはその言葉に首を振った。
「詳しいことはよく分からないけど、軍を脱走したらしいわ。今は行方不明よ」
レイは廊下を歩きながらルナマリアの話を思い出していた。
アカデミーの記録を見たときに、レイも「アスラン・ザラ」の名前は確認している。
だが、射撃の成績でトップに名を残していたのは、レイが良く知るあの人・・・イザークだった。
あの時、彼の名前を出してでもルナマリアの言葉を修正しようと思ったのだが、直前で思い直したのだ。
イザークの名前を出すのが、何だかもったいなく感じてしまった。
別にレイはシンとルナマリアのことが嫌いではない。
というか、どちらかと言えば好きだ。
シンは自分を慕ってくれてかわいいと思っているし、ルナマリアのさばさばした性格は見ていて気持ちがいい。
それでも、イザークのことを教えたくなかった。
いずれ、二人も彼の存在を知ることになるだろう。
そのときまで。
「イザーク・ジュール」を独り占めしたかった。
上手く時間を繰り合わすことができたらアカデミーまで迎えに行こう。
そのときに訓練の結果を見せてもらうからな。
2週間も経てばテストのひとつくらいするだろう。
恥ずかしくない結果をよこせよ。
またメールする。
体に気をつけて。
イザーク・ジュール
親愛なるイザークへ
ご無沙汰してます。お元気ですか?
仕事が忙しいからと言って食事を抜いたりしていませんか?
まあ、ディアッカさんがついているから大丈夫だと思いますが・・・。
これ以上減量しないでくださいよ。
入学して10日。
ようやく迷わずに校舎と寮を行き来できるようになりました。
広すぎです、この建物。
でも、迷ったおかげでいい所を見つけることができたんです。
ご存知ですか?5階の貴賓室にピアノが置いてあるんです。
自由に使って良いと言われたので、休日はずっとピアノを弾いていました。
エザリア様の所には是非同行させてください。
何もして差し上げられませんが、久しぶりに会ってお話したいです。
お母上の解放を、俺も心から願っています。
「やあ、イザーク」
名前を呼ばれて振り返ると、ギルバートが笑みを浮かべて歩み寄ってくるところだった。
軍人だった頃の名残で敬礼しかけ、慌てて会釈に切り替える。
「調子はどうだい?」
「何とかやっています。周りの者が何かと手伝ってくれていますし」
「それはよかった」
周りの者、とは言うまでもなくディアッカのことだ。
イザークが望んだこともあるが、彼が自分の下で働けるよう取り計らってくれたのはやはりギルバートだった。
あの後も色々世話を焼いてくれているのだ。
ギルバートはロビーのソファーへとイザークを促し、共に座った。
「レイとはどうしてるかね?」
やはり養い子が気になるのだろう。
尋ねられると予期していたイザークは淡々と語る。
「メールのやり取りはしています。アカデミーで友人もできたようで・・・随分慣れたようですよ」
「うん。やはりな」
満足したように頷くギルバートに、イザークが首をかしげる。
「実は・・・昨日あの子に会ったんだよ」
「そうなのですか?」
「ああ。様子が知りたくてね。呼び出そうと思ったら、あの子の方から気付いて来てくれた」
そう語るギルバートの顔が本当に悦に入っていたので、イザークは危うく吹き出しかけた。
レイはギルバートを盲目的に慕っているが、こちらもこちらで真剣にかわいがってるようだ。
微笑ましいと感じるイザークだったが、次の瞬間、微笑が引きつった。
「あの子が笑ってくれたんだ」
「・・・はあ」
思わず間の抜けた声を出してしまう。
ギルバートが、うっとりとした目つきをしていた。
そのレイが見せたという笑顔を思い出しているらしい。
柔和ながらもすきのない雰囲気を漂わせるギルバートのらしくない様子に、イザークの笑いが乾く。
「うん。やはり君に任せたのは正解だったな。レイのあんなにかわいい笑顔を見ることができるなんて。
・・・いやね、もともとかわいかったのだよ。
『ギル、ギル』と言いながら私が行くところにはどこにでも着いてきて、抱きついたりしてくれるんだ。
でもそういうときでも無表情のときが多くてね。
まあそれもそれでいいかもな、なんて思ったこともあるんだが。
いや、やはりあのキュートな笑顔は何にも変えがたい・・・」
熱を帯びた少し・・・いや、かなり怪しい目つきで語るギルバート。
もしかしたら、議会中の議論のときより真剣にしゃべっているのでは・・・。
なかなか戻らないイザークを心配したディアッカがやってくるまで、デュランダルの話は終わらなかった。
「・・・それで、デュランダル議員になかなか解放してもらえなかったわけ?」
運転席でハンドルを握るディアッカが苦笑いする。
それに対し、イザークは疲れた顔で髪をかき上げた。
「いや、それもあるんだが・・・。いつもの彼と全然印象が違って・・・というかかなり怪しくて」
「はは・・・『あっちの世界』に行ってた、ってやつ?」
「そんなところだ。金縛りみたいのを感じて動けなかった」
「・・・」
空気が少し重くなったのを感じ、ディアッカが話題を切り替える。
「お前さ、髪伸びたんじゃない?」
「ああ。こんなに伸ばしたのは幼年学校以来だな」
停戦直後からまったく手をつけていないイザークの髪。
それは肩までかかる長さになっていた。
今はそのままにしているが、執務などでデスクに向かうときなどはくくっている。
「うっとうしいんじゃない?切れよ」
「いや、今週末までは駄目だ」
「今週末?何で?」
「レイに切らないで欲しいと言われた」
「・・・それだけ?」
「綺麗だって言われたんだ。いいだろ。別に急いで切る理由もない」
馬鹿馬鹿しくなったディアッカは、あーそう、とだけ言って運転に集中することにした。
レイを猫可愛がりしているやつが、もう一人ここにいるではないか。
訓練の結果ですか?
確かに今週のうちに射撃と筆記のテストがあったはずですが・・・。
まあ、イザークさんにひっぱたかれない程度の結果を出せるよう頑張ります。
それでは、週末にお会いしましょう。
リリィのことをよろしくお願いします。
レイ・ザ・バレル
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2005/03/03