ブラインド・スポット 〜策士〜
ふと目が覚める。
視界が薄青かった。
―――ここ、どこだ?
シンは一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
少し顔をずらすと、額に乗せられていたタオルがずるりと枕元に落ちる。
ああ、そうだ。
自分は熱を出し、イザークよってジュール邸に運び込まれたのだった。
はっきりしない頭で昨日のことを思い起こす。
レイに着替えを手伝ってもらったりイザークに看病された気もするが、
どこまでが現実なのかいまいち判断できなかった。
静かに深呼吸する。
気分は・・・大分いい。
体もそれほど熱くない。
治ってきているようだ。
そこでゆっくりと辺りを見回す。
人の気配はなかった。
イザークに手を握っていてもらったような気がするのだが・・・。
イザークとレイはどこにいるのか酷く気になった。
しかし、体を動かすのが億劫だ。
さらに襲ってきた眠気に、シンは逆らわずに目を閉じてしまう。
すぐに意識は、闇に堕ちていった。
18禁。反転してください
行為のはじめこそシンに声が聞こえてしまうと嬌声を堪えていたイザークだったが、
今ではひっきりなしに甘い声を上げていた。
ベッドに腰掛けたレイを跨ぐような格好で、下から突き上げられる。
乱れて体に引っかかっているだけのポロシャツや汗で上気している肌、潤んだ瞳。
普段の清潔なイザークのイメージからは想像もつかない艶やかな姿に、レイは喉を鳴らした。
正常位より深く相手を向かい入れているその体位は、最奥の粘膜まで擦ってしまい、
イザークは首をうち振るいながら感極まったように啼いている。
銀髪が数本汗ばんだ額に張り付いているのが目に留まった。
レイは一度動きを止めると、それをそっと払ってやる。
気だるげに潤んだ蒼い瞳を見ながら、触れるだけのキス。
何度かついばむようなキスを繰り返すと、イザークの体の緊張が緩んでいくのが分かった。
それを感じながら、予告なく、ぐっと腰を上げる。
途端に膝の上の痩身が跳ね上がった。
反り上がる体が倒れてしまわないように両手で支えながら、律動を激しくする。
再び肉の混ざり合う音と荒い息遣いが部屋に響いた。
乱暴に揺さぶられながらイザークは快感に喘ぎ、レイもそのイザークにそそられ溺れていく。
やがて一気にたまらない痺れが体を駆け巡り、甲高い嬌声がイザークの口を割った。
同時に締め付けられ、レイもその熱を解放する。
倒れこんでくる相手の重みを感じながら、ゆっくりとベッドの上に倒れこんだ。
しばらくの間、二人は無言で荒い息を繰り返していた。
喉が渇いた・・・。
そんなことを思いながらレイがイザークを見ると、白磁の喉が目に付いた。
あまりに白く無防備なそれに、レイは食いつきたい衝動に駆られる。
唇を寄せようとした、が。
一瞬早くイザークの手がレイの額を鷲掴みにした。
「今・・・何時だ?」
「まだ早いですよ」
しかしイザークは起き上がり、レイから体を離す。
レイは追いすがるように腰に腕を巻きつけた。
「もう満足しただろう」
「二回しかやってないじゃないですか」
「二回で充分だ!」
「嫌です、もっと!」
そのままイザークの体を引き寄せようとしたが、頭をすぱーんとはたかれた。
「・・・っ、何するんです!」
「こっちのセリフだ。なに発情してやがる!」
「どうせ万年発情ですよ!大体この前にやったのは半月前じゃないですか」
「・・・あー、もう!とにかく離せ!」
イザークが眉を吊り上げると、レイはようやく腕を離した。
素早くベッドから降り、下に散らばった衣服をまとう。
「後始末・・・」
「後で自分でする。・・・いいからお前は寝ろ」
レイはむっとした顔でイザークをにらんだが、あっさり無視された。
どうもイザークは性行為に関しては淡白だ。
レイだって体を重ねることだけが愛を確かめる唯一の行為だと思っているわけではないが、
欲しいものは仕方ないではないか。
キスをして、抱きしめて、それでレイが満足できれば互いにとって良いにこしたことはない。
分かっているものの、残念ながら体というものはそうそう良心の思い通りになるものではないのだ。
服をまとったイザークが足早に部屋をあとにする。
シンが眠っているレイの部屋に行くのだろう。
それがさらにレイの機嫌を降下させた。
さっきだって、かいがいしくシンの看病をするイザークに苛立ち、
10分だけだと言ってイザークの部屋に引きずり込んだのだった。
時計を見れば、それから30分以上経っている。
「・・・だからって」
シンのことばかり気にして。
目の前にいるのは自分なのに。
ばふっ。
レイは思いっきり枕を殴りつけていた。
ドアが開く音に身じろぎする。
少し首を起こせばイザークがこちらに歩いてくるのが見えた。
「起きていたのか。気分は?」
「もう大丈夫・・・」
「食欲は?」
「あんまり」
弱くはあったがはっきりしたシンの声音に安心し、イザークは持ってきたスポーツドリンクを手渡す。
上半身を起こしたシンは、喉が渇いていたのかすぐ口をつけて飲みだした。
「何か作ってきてやろうか、何がいい?粥?」
腰を上げたイザークに、シンははっとしてボトルから口を離した。
そしてぐいっとイザークの袖を掴む。
「いいです!食欲ないですから・・・」
「でもお前、何か食べておいた方が」
「ここにいてくださいよ」
「・・・おいおい、レイと同じこと言うなよ」
イザークは呆れ顔をしながらも椅子に座りなおす。
シンはしめたとばかりに腕に手を回した。
「レイがそんなわがまま言うなんて意外・・・」
「俺もだ。あいつもここに来たばかりのときは・・・いや、最初からあんなだったか」
「レイといつから一緒にいるんですか?」
「かれこれ1年だな」
「へー、うらやましいな」
「何が?」
「隊長とずっと一緒にいられるなんて」
シンが猫のようにイザークに擦り寄る。
きょとんとしながらもイザークが寝癖のついた黒い髪を、なでようとしたその時。
轟音。
「・・・」
「・・・」
ばきっ、とか、どかんっ、とか。
そういった感じの擬音語が相応しかった。
身をすくめた二人が音のした方に目をやれば、開け放たれたドアの先にレイが立っている。
シンはいつにないレイの険悪なオーラに青ざめ、
一方のイザークは開けられたドアが歪んでいることに気付いて眉を寄せた。
「レイ、お前・・・」
「イザーク!!」
「な、なんだ・・・?」
ドアを壊したことを注意しようと思ったのに、目尻を吊り上げてこちらをにらんでいるレイに逆に気圧される。
するとレイはずかずかと足を踏み鳴らして部屋の中へと入ってきた。
「シンの着替えを持ってきました。着替えさせますからイザークは朝食をお願いします」
「・・・あ、ああ」
イザークが言われるままに席を立とうとする。
それにシンがええーっ、とあからさまに不満を示して回した手の力を強めようとした。
が、スカイブルーの眼光を突き刺され、ぎょっとして固まる。
何だか険悪な雰囲気にイザークは戸惑うが、レイとシンはルームメイトだし、
どうやら自宅と職場では性格が微妙に違うようからこんなものなのかもしれないと勝手に自己完結する。
じゃあ頼んだぞ、と言って朝食を作るためにさっさと出て行ってしまった。
「あ、ああ・・・隊長・・・」
涙声で最後の足掻きをするシンだが、さっとレイの体がその先を遮り、言葉を飲み込む。
シンの顔が引きつった。
ところが。
逆にレイはにっこり微笑む。
シンが今までに見たことがないような笑みだった。
男のシンから見てもなかなかに魅力的な顔なのだが、
本能的に薄ら寒いものを感じてベッドの中で無意味な後ずさりをする。
「おはよう、シン」
「お、・・・おお、おは、よう・・・ございます」
回らぬ口で何とか挨拶を返せば、レイが着替え一式を差し出す。
レイのパジャマのようだ。
「一人で着替えられるか?それとも手伝おうか?」
「い、いや・・・一人で」
「そうか」
申し出を断られてもレイはさして気を悪くした様子もなく、あっさりパジャマを手渡した。
そうして受け取った着替えだが。
「・・・?」
手に伝わるずしりとした重み。
シンは怪訝な顔をしてそれを見つめた。
「そうだ、シン。実はこの家には俺の他にも居候がいてな」
「・・・は、え?居候?」
「ああ。紹介しようと思ってずっと探しているんだが見つからないんだ」
「へ・・・え」
「そいつは俺に似て独占欲が強くて、性格が悪い」
「・・・」
「ついでに狭いところに潜みたがる・・・さらに」
「さ、らに?」
「顔を引っかくのが好きだ」
「は・・・ええええっ!!!?」
もぞもぞ。
シンの腕の中の着替えの中で何かがうごめいたかと思うと。
ふぎゃーーーーッ!
グレイの猫が、シンの眼前に飛び掛った。
出来上がった粥を器に盛り付けていると、二階から降りてきたレイが運びます、と言って盆を手に取った。
イザークは頷きつつシンのための粥をその上に乗せる。
「・・・あ、そうだ。レイ、後でドア直しとけよ」
「はい。食事が終わったらやります。シンの看病もかねて」
「別にそこまでしなくていいぞ」
「いいえ。大切なルームメイトですから」
「?・・・そうか」
「ルームメイト」というところに力が入っていたことが少々気になるのだが・・・。
と、イザークは思い出したように口を開く。
「そういえばさっきそっちが騒がしかったようだが?」
「ああ、それなら問題ありません。シンにリリィを紹介していただけです」
「リリィを?」
「ええ。リリィと俺の目的が珍しく一致しましたから」
「・・・?」
微妙なレイの笑顔に、イザークは首を傾げるしかなかった。
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2005/06/05