パンドラボックス 〜エピローグ〜
金髪の、小さな子供が泣いている。
迷子になったのだろうか。
歩み寄り、どうしたんだ、と声をかけた。
子供はびくりと顔を上げる。
セロリアンブルー。
ああ、綺麗な瞳だな。
空の色だ。
涙に濡れたその大きな瞳は、ビー玉のように透き通っている。
思わず手を差し伸べていた。
戸惑いながら、子供はその手を取る。
小さなその手は、とても柔らかで、暖かい。
微笑むと、子供の方も微笑み返した。
いつの間にか、彼の涙は止まっている。
彼?
どうして自分はこの子を男の子などと思ったのだろう。
女の子と見間違えてもおかしくないほどの可愛らしさなのに。
レイ・・・。
口に出して、またはっとした。
どうして自分はこの子の名前を知っているのだ?
会ったことが・・・あった?
首をかしげる自分をよそに、レイは「はい」と返事をした。
イザーク。
イザーク、どこに行ってたんですか?
ああ、自分はやはりこの子を知っているのだ。
膝を追って視線を合わせれば、レイは腕の中に飛び込んできた。
暖かい・・・。
懐かしい暖かさだった。
急に胸が締め付けられた。
どうしてこんな心地よいものを忘れていたのだろう、自分は。
どうして。
ぽろり、と。
瞳から熱いものがこぼれる。
泣いている、自分が?
それに気付いたレイも、驚いたようにイザークを見つめた。
イザーク、泣いてるの?
悲しいの?
どこか痛いの?
イザークは首を振る。
悲しいわけがない。
だって、レイはここにいるもの。
でも。
でも痛い・・・かもしれない。
少しだけ、胸の奥が。
ああ。
でももうきっと、痛くなくなるよ。
だってレイがここにいる。
自分の腕の中で笑って、生きている。
・・・生きて?
そうだ。
生きている。
この子は誰よりも、ただ生きたかった。
死にたくなどなかった。
生きたかった。
ただそれだけ。
新たな涙がこぼれる。
ああ、もう。
泣きたくなどないのに。
レイを心配させたくないのに。
涙でぼやけた視界。
レイ・・・。
まだ、そこにいる?
いますよ、とレイが応えた。
先程までの幼い声とは違う。
声変わりをとうに果たした青年の声。
涙を拭いて、視界を開いた。
いつの間にか背の伸びたレイが目の前にいる。
そして・・・笑っていた。
笑顔だけはあどけない。
良かった。
イザークも、笑う。
そして、もう一度強くレイを抱きしめた。
ごめんな、遅くなって。
そうしたらレイは言うのだ。
本当ですよ。
ずっと待ってたんですからね、と。
END
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2006/03/19