特にオチのない話(メイリン編3)
◆ ほんとうにおちがない ◆



 「アスランと、ジュール隊長が?」
 「そうよ。あたしは見たのよ」
 メイリンは握り締めた拳をぶるぶる震わせる。
 「へー。・・・まあ、ビジュアル的にはアリなんじゃない?」
 「なっ、何言ってんのよ、おねえちゃんっっ」
 「確かに・・・アリのような気がしなくもないけど」
 「シンまで!・・・さっきからどうしてそう落ち着いてられるのよ!?
ジュール隊長まで、ホモなのよ?
 もっと真面目にリアクションしてよ!あたしが馬鹿みたいじゃないっっ!」
 眼を血走らせてわめき散らすメイリン。
 シンとルナマリアはむしろ彼女の形相の方にびびりつつ、おずおずと口を開く。

 「・・・知ってる」

 「は?」
 「だから、ジュール隊長がその・・・だって、知ってる」
 「なんですってぇ!!?」
 テーブルから身を乗り出したメイリンに、シンたちはヒィィッ、と身を寄せ合った。
 そんな子じゃなかった・・・(ルナマリア談)
 「知ってたの!!?いつから・・・ッッ、アスランさんとジュール隊長は付き合ってたの?
 お姉ちゃんはそれ知っててアスランにアプローチしてたわけ?」
 「め、メイリンッ、落ち着いて!」
 「そうだぞっ。お前、誤解してる!」
 「だって知ってたんでしょ?アスランさんとジュール隊長が恋人だったって!
 ・・・もしかして、皆であたしのこと馬鹿にしてたの!?」
 「だから、違うのよ!ジュール隊長は確かに、その・・・だけど、相手はアスランさんじゃないの」
 「・・・?」
 不動明王もびっくりの顔をしていたメイリンが、そこでようやく肩の力を抜く。
 すかさずシンが畳み掛けた。
 「っていうか、情報通のお前がどうして知らないんだよ。ジュール隊長はずっと前からレイと付き合ってたんだぞ」
 「レイと?レイ・ザ・バレル?」
 
 ここで戦後のレイ・ザ・バレルについて説明しておく。
 彼は死んでない
 終戦直後にメサイアから議長たちと共に助け出され、現在入院中だ。
 当然のごとくメイリンは会っていない。
 ラクスたちと共に新世界創設を夢見る今、彼女にとって彼は負け犬だからだ。
 確かに顔はいいことは認めるが、もうエリートじゃないから興味もない。
 そんな彼と、ラクス側のイザークが付き合っているということか?
 
 ・・・いや、ちょっと待て。

 「それってもしかして・・・ジュール隊長が二股かけてるってこと?」
 「それだ」
 メイリンの言葉に、シンがびしっと人差し指を立てる。
 「ジュール隊長はそんな人じゃないよ。今だって仕事の合間にレイを見舞ってるんだぞ」
 「そうよ、ほとんど毎日ね。目も当てられないくらいラブラブ」
 ルナマリアが、こぉんなにハートマークが飛んでたのよーと手を広げてみせた。
 「大体さぁ、どうしてアスランさんとジュール隊長がデキてるなんてことになるわけ?」
 「・・・そういえば、さっき『あたしは見た』って言ってたわね」

 「そうよ、見たのよ」

 「見たのか?」
 「見ちゃったの!?」
 思わずシンとルナマリアの目が光る。
 ノーマルなこのカップルだが、オトコとオトコのその現場に興味がないと言えば嘘になる。
 「アスランさんが、ジュール隊長に無理矢理・・・」
 「「無理矢理・・・!?」」

 「ベロチューしてた」

 どすんっ、と床が振れる。
 シンとルナマリアがこけた音だが、心なしか他のテーブルの下からも同じような音がした。
 立ち上がった二人がぶーたれる。
 「それだけかよー」
 「つまんなーいっ」
 「なに言ってんのよ!それだけで充分よ!アスランさんは、ホモだったのよ」
 「・・・」
 そういえば、最初の論点はそっちだった。
 はっきり言って、シンとルナマリアにはどうでもいいことだ。
 「それに、まだあるのよ!」
 「「なになに?」」
 再びシンとルナマリアの瞳に光が灯る。
 二人のその様子に、メイリンは何となく胸を張った。

 「アスランさんが、最高評議会場の中心で愛を叫んでたわ!」
 

 そういえば、「
アスラン・ザラ、議会場で愛の大告白 お相手は誰?
 の見出しが今日の夕刊にあったかもしれない・・・と、シンとルナマリアは遠い目をした。




 「まったく・・・何を考えているんだ、あの馬鹿は」

 しゅるるっ、と器用に赤い皮を剥きながら、イザークはため息を吐いた。
 隣でしゃりしゃりとリンゴをかじっているレイは、今日の夕刊を読んでいる。
 「でも良かったじゃないですか、イザークの名前は出なかったんですし」
 「よか無いわ!・・・まったく、シホが手回ししてくれなかったらどうなっていたことか」
 「それで?評議会場の中心で愛を叫んだアスラン・ザラはどうなったんですか?」
 「ピンクのお姫様に引っ張っていかれた」
 「・・・それは怖いですね」
 「まあ殺しはしないだろう」
 「心配ですか?」

 意地悪く聞く恋人に、イザークは「まさか」と口を尖らせて。
 その口に、新たなリンゴを押し込んだ。
  
2006/12/06
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