レイピア
コトノハ
はじめまして。
私、マックス・ワイルドと申します。
歳は16、性別は女で、これでも軍人です。
片手の指で足りる回数ですが、MSに乗って出撃したこともあります。
ただ今、ジュール隊に弟のメイズと所属しております。
あ、メイズとは双子です。
双子のコーディネイターは別に珍しくないんですよ。
出生率低下問題で人工授精が推奨されてますから。
ジュール隊が結成されたときに姉弟そろって入隊できたときは本当にうれしかったです。
・・・話がそれてしまいました。
さて、私マックス・ワイルドと弟メイズ・ワイルドが、タカ派だと指差されるジュール隊に残っている最大の理由は私たちの父です。
父はヒラの議員だったのですが、かなり熱烈なパトリック・ザラのシンパでした。
ですから休戦直後にエザリア・ジュール様とともに軟禁されてしまったのです。
軍の中で私とメイズを受け入れてくれる場所はジュール隊しかありませんでした。
隊長は脱退をすすめてくださいましたが、私たちがこれからもプラントのために尽くしたいという意志を告げると残留を認めてくれました。
ちなみにマニ・クロイツェルさんもお父様がザラ派の活動家だったとかであっさり残留でした。
隊長はマニさんを信頼しておられるようです。
一番もめたのはキキ・ウォーターハウス君のときですね。
あのときのキキ君は怖かったです。
隊長の腰が引けていたように見えたのは私の気のせいではないはずです。
私は今、ジュール隊のために用意された部屋にいます。
先程メイズ、キキ君と交代したところです。
シホ・ハーネンフースさんは別にお仕事を頼まれたようで、お昼前から見かけていません。
マニさんは今部屋を出て自室に戻ったところです。
彼のお話だと、隊長もすぐに戻られるそうです。
マニさんと一緒に会館の下見をしに行かれたはずですが、何か別の用事でもできたのでしょう。
したがって。
現在この部屋に私と一緒にいるのはフェイ・フォルミュラーさんです。
特務隊に所属されていたはずですが、先日、なぜかこの隊に入隊して来られました。
この人ってハンサムなんですよね。
背も高いし。
あ、勘違いしないでください。
私はジュール隊長一筋です。
キキ君ほど積極的にはなれないんですけどね。
実はメイズと一緒に隠し撮りしたジュール隊長の写真を集めてます。
着替え中のプレミア写真も焼き増ししてもらいました。
・・・これは内緒ですよ?
あと言っておきますが、シャッター押すのは私じゃないです。
買うだけです。
と言うか、誰がどうして気付かれずにこんな写真取れるのか教えてほしいくらいです。
知るのが怖い気もしますが。
と、ジュール隊長が戻ってこられまし・・・あれ?
どうされたんでしょうか。
顔色が悪いような・・・。
死人のような顔をして部屋に入ってきたイザークに、フェイとマックスは驚く。
「イザーク、おい!どうしたんだ?」
「うるさいっ!触るな!!」
体の具合でも悪いのかとフェイがイザークに近寄ろうとするのだが、イザークは必死に拒んだ。
「落ち着けって!」
フェイは何とかしてイザークを取り押さえようとする。
それでもイザークは子供のように抵抗した。
追い詰められた獣のようにフェイを威嚇し、近くに寄らせない。
入ってきたときには青白かった顔もいつの間にか紅潮している。
完全に頭に血が上っているようだ。
初めて見る上官の取り乱した姿にマックスはおろおろするばかり。
すると、僅かな隙を見てフェイがイザークの腕を掴んだ。
「!」
こうなっては体格差のあるフェイにイザークがかなうはずもない。
あっという間に抱き寄せられ・・・。
「・・・んっ」
「・・・」
マックスは自分の見ているものが信じられず、水色の瞳を丸くする。
イザークのわめき散らす声でうるさかった部屋は嘘のように静まり返り、時折くぐもるようなため息。
「あ、あの・・・」
マックスはそこまで言いかけたが、止めた。
この状況で、「何をなさっているんですか?」なんていう問いは大いに馬鹿げている。
しかし、まさか男同士のキスをナマで見られるなんて・・・。
イザークは最初、何が起こっているのか全くわからなかった。
白くぼやけていた視界が一瞬で暗くなり、誰かの影が落ちたのだと分かる。
そこでようやく唇に生暖かい感触があることに気付いた。
一瞬で頭がクリアになる。
「んっ、んんっ!」
イザークは必死に自分を抱きこんでいる腕を引き離そうとするが、憎らしいことにびくとも動かない。
「離せ!」と叫びたくても口をふさがれているので全く無駄な行為だ。
そのうち、口の中に舌が入り込んできた。
ざらりとした感触に鳥肌が立ち、完全に固まる。
再び、思考が停止した。
完全に大人しくなったイザークに、フェイはようやく体を離す。
信じられない、といった顔で突っ立ているイザークににっこりと微笑んだ。
「落ち着いただろ?」
「き、き・・・」
イザークの肩がわなわなと震える。
「・・・きさ、きさ、・・・きさ、まぁ・・・ッ!」
耳まで赤い。
頭から本当に湯気でも出てきそうだ。
「この、・・・恥知らずがぁ!!」
こぶしを振り上げ、フェイに殴りかかる。
しかし頭に血が上っているせいか攻撃は単調で、フェイは難なくかわした。
一度は黙らせることに成功したものの、それは一瞬のこと。
また別の怒りを呼び込んでしまった。
フェイは内心苦笑いする。
マックスは相変わらずおろおろするばかり。
一方のイザークは、至近距離にも関わらず攻撃が当たらないことにさらに苛立ちを募らせる。
と、思い切り振り上げた拳をすんでのところでフェイにかわされ、イザークの体の重心が崩れた。
そのまま背の低い戸棚にぶつかる。
がっしゃーーん。
「・・・きゃっ、隊長!」
マックスの悲鳴とほぼ同時に、派手な硬質の音が響き渡った。
「くッ・・・」
「あーらら」
床の上に、ガラスの破片が散乱していた。
戸棚の上に置かれていた花瓶が、イザークがぶつかったときに落ちてしまったのだ。
一瞬ひやりとしたフェイだが、イザークは特に怪我はしていないようだ。
棚にぶつかったときに背中を強く打っただろうが。
そしてこの花瓶の犠牲が、沸騰した彼の心を落ち着けるに絶大な効果を要した。
イザークはガラスの欠片をしばらく見つめ、そして肩の力を抜く。
そのままフェイに視線を向けた。
フェイはほっと息を吐く。
どうやら今度こそ頭が冷えたらしい。
フェイを見るアイスブルーにはまだ怒りが灯っていたが。
「隊長!」
しばしの沈黙の後、それまで傍観に徹していたマックスがイザークに駆け寄った。
「危ないです。さ、こっちに」
「・・・ああ」
イザークは驚くほど素直にマックスに従った。
先程の激昂振りが嘘のようだ。
手を引かれ、花瓶の残骸から離れたソファーまで連れられてそこに腰掛けた。
それを確認し、フェイはマックスに声をかける。
「どーします?これ」
これ、とはもちろん花瓶のこと。
「決まってるじゃないですか。片付けてください」
「俺がやるの?」
「隊長を怒らせたのはフェイさんじゃないですか。責任とってくださいよ」
「はいはい」
年上とは言っても「ジュール隊」という枠の中では一番の新参者、フェイである。
しかもマックスの言い分には一理あるので言い返せない。
ほうきは何処へ行けば借りられるんだっけ?と頭をかきながら部屋を出ようとした。
「隊長!!!!」
「うわっ!」
開け放しのドアから弾丸のように飛び出してきた者がいた。
フェイは抜群の運動神経でそれをよける。
直撃されていたら間違いなく二メートルは吹っ飛ばされていたであろうというほどの勢いだった。
そしてその姿を認め、フェイの顔が引きつった。
「キ、キキ・・・」
まだ、混乱は続きそうである。
「隊長!!大丈夫ですか!?」
キキは一瞬足元にぶち巻かれているガラスの残骸に驚いたようだが、ソファーに座るイザークの姿を認めて飛ぶように移動した。
「いったい何があったんです!?」
「ああ、いやその・・・」
キキの勢いにイザークだけでなくマックスも気圧される。
そしてフェイは気まずそうに視線をはずした。
いたずら心とはいえイザークにキスをしたなんて言おうものなら冗談抜きでキキに半殺しにされる。
「フェイ、どうしたの?」
「あー、・・・お、俺が花瓶おっことしちまって」
きっとにらみつけられ、フェイは必死で言い訳を探す。
キキは不審げに金の瞳を眇め、そのまま隣にいるマックスに無言で問いかけた。
視線を向けられたマックスはびくっと震え、次いでフェイの言い訳を肯定する意味でこくこくと首を縦に振る。
イザークもフェイもマックスも、キキと対等にやり合えるシホの存在を今ほどありがたく思ったことはなかった。
シホ・・・早く帰ってきてくれ!!(3人の心の声)
「うわー、どうしたんです、これ?」
そう言いながら次に入ってきたのはマニだった。
騒ぎを聞きつけたのだろう。
シホでなかったことに多少失望するも、いないよりはまし、だと思う。
イザークたちはとりあえず肩の力を抜いた。
フェイはマニを部屋の中に通すと、自分は通路に出る。
「俺、片付けるもの借りてくる」
「手伝いましょうか?」
「いや、いい・・・」
マニの申し出を断り、ひらひらと手を振りながらフェイは部屋を出ていった。
それを見送り、マニがイザークたちの方に向き直ると・・・。
「・・・キキ、ちょっと離れてくれ」
例のごとく、キキがイザークに抱きついていた。
「顔色悪いみたいですよ。大丈夫ですか?」
「ああ、なんでもない。だから離れてくれ」
「どこも怪我してませんよね?」
「だから平気・・・って、こ、こら〜〜!服を脱がすな!!」
見るとキキがイザークの軍服の襟をいじり始めている。
いつも以上に積極的なキキにイザークは慌てた。
抵抗しようとしたが、バランスを崩してそのままソファに倒れこむ。
キキはしめたとばかりにその上に体重をかけた。
「やめんかーーー!!」
「身体検査です。怪我してないかどうか」
「どうしてうれしそうなんだ!!」
「そんなことありません」
「嘘つけ!」
傍目には結構刺激的な構図である。
マックスは好奇心に瞳を輝かせ、マニはイザークに同情しながらも傍観を決め込んでいる。
イザークの受難は続く・・・。
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2005/02/14改