イブニング 〜オマケ〜



 執務室に入った途端。

 「えええーーッ!?」
 「嘘ーーー!」
 「そんなぁ・・・」
 「何でですか、ジュールさん!?」

 部下たちの口から漏れる、悲鳴とも取れるため息の数々。
 全く反応がないと思っていたわけではないが、イザークは顔をしかめてしまった。
 「またいきなり切っちゃったなぁ」
 ディアッカも肩をすくめてみせるが、やはり驚いた顔をしている。
 イザークが、その髪を戦中のように肩口でばっさりと切ってしまったのだった。
 見事なプラチナブロンドであるがゆえに、彼の部下たちは自分のことのように残念がっているのだ。
 「別にいいだろ。俺の髪だ」
 「まあ、そうだけど」
 
 「私はどちらも似合うと思うけどね」

 「・・・」
 この執務室にはありえない声に、イザークは動きを止めた。
 ディアッカが忘れてた・・・と小さくつぶやくのが聞こえる。
 ぎこちなく首を回し、休憩用に小さく作られたスペースを見やる。
 ソファの上で足を組み、優雅に紅茶を飲むギルバート・デュランダルの姿があった。

 「ぎ、議長!?」
 「やあ、勝手にお邪魔しているよ」
 「・・・」
 ギルバートはにこにこ笑いながら立ち上がり、絶句しているイザークへと歩み寄る。
 そしてイザークの両手を取った。
 周囲がおおっ、と息をのむ。
 引き寄せられ、ようやく我に返ったイザークが顔をひきつらせた。
 「あ・・・あの、議長」
 「先日の会談、途中で調子が悪かったようだから気になってね」
 「あ、それは・・・」
 「聞けば昨日は仕事を休んだとか。大丈夫かね?」
 「だ、大丈夫です!大丈夫ですから!!」
 イザークは体を離そうとするのだが、相手が相手である以上、振り払うわけにも行かない。
 ギルバートはそんなこと気付いているだろうに、笑ったまま手を離そうとしなかった。
 部下たちはどこか期待の入り混じった視線で二人を見守っている。
 当然ディアッカだけが渋面でギルバートをにらんでいたが。

 「レイとは上手くやっているのかい?もしかして髪を切ったのは・・・」
 「いや、レイは全然関係ありませんから」
 げんなりしながら返すが、やはりギルバートは離してくれそうもない。
 その時。
 「ああっ!レイ!」
 「何!?」
 窓の外を指差したディアッカに、ギルバートがぎょっと姿勢を正し、イザークから体を離す。
 その隙にディアッカが素早く自分の背後にイザークを引き寄せた。
 「ど、どこだね?」
 「ほら・・・あそこ!」
 窓の外を指差すと、ギルバートはきょろきょろと首を動かす。
 イザークも窓の外を見るが、そこから映る隣の棟に、レイらしき人影などない。
 大体、今日彼をアカデミーに送り届けたのはイザークだ。
 ここに彼がいるはずない。
 「見えないが・・・どの辺だね?」
 「あれ?すみません!人違いだったみたいです」
 けろっとした顔で言ったディアッカに、ギルバートはようやく騙されていたことに気付いたらしい。
 周りのイザークの部下たちが必死に笑いをこらえているのに、気まずそうな顔をした。

 こほん、と咳払いすると、ギルバートはドアへと向かう。
 「その・・・まあ何事もなくてよかったよ」
 「はあ。ご心配おかけしました」
 ディアッカにかばわれながら、イザークが疲れた声で言う。
 

 後日。
 この一幕はディアッカからしっかりとレイに伝えられ、ギルバートはその言い訳に苦心するはめになったらしい。



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2005/05/05