プロローグ 〜綺麗な時間〜
何がいいかな。
そう訊かれ、レイは言葉につまった。
あなたになら何だって似合います。
そう言いたかったが、それではどうでもいいと思っているととらえられるかもしれない。
散々迷い、ホリズンブルーのワンピースがいいと応えた。
すると、彼女ははにかんだように微笑む。
じゃあ着てみようかな、と言ってくれた。
それはまだ、レイが綺麗なものしか知らなかった頃。
ワンピースの裾がゆるい風になぶられるたび、彼女は神経質にそれを手で押さえる。
こんなものを着るのは幼年学校に入る以前のことだから落ち着かないんだ、と照れ臭そうに笑った。
そんな彼女は少女のようで・・・。
守ってあげたい。
レイはそう思った。
日が高くなってきた。
彼女の白い肌が日に焼けてはいけないとレイは日傘を手渡そうとする。
だが彼女は相変わらずワンピースの裾を気にしていて、こちらに気付かなかった。
傘を渡す手を持て余しているうちに、人工太陽はますます強く照りつける。
ワンピースはノースリーブで、白磁の肩がむき出しだ。
彼女が日に焼けてはいけない。
はやく日傘の中に入れてあげないと。
・・・それだけだったのに。
気が付くと。
彼女を胸の中に抱き寄せていた。
驚きに見開かれたアイスブルーの瞳がレイを覗き込んでいる。
でも、それ以上に驚いていたのはレイの方だった。
拒まれないだろうか。
嫌がられないだろうか。
緊張のあまり、口の中が干上がった。
やがて。
アイスブルーがそっと伏せられる。
レイは拒まれなかった。
そうすると気が付く、彼女からほのかに香る甘い香りや密着した肌の柔らかさ。
思考がくらくらする。
蒼玉を覆い隠すけぶるような睫が、とても長い。
レイはせっかく彼女のために手にしている日傘を、危うく取り落とすところだった。
ああ、この時間が永遠に続けばいいのに。
長い、長い沈黙の後。
彼女の桜色の唇が開いた。
ただ一言。
レイの腕は、暖かいな・・・。
それはまだ、彼女が全てを諦めていた頃。
ブログ掲載2006/3/10
2006/12/27