プロローグ 〜見えない光〜




 AAのドック。
 捜し求めていた機体を見つけ、アスランは胸を高鳴らせた。
 ディアッカからイザークがAAにとどまっていることを聞き、エターナルから飛んできたのだ。
 後ろから整備士たちの離れろ、危ない、などいう声がしたが、聞こえないふりをする。
 デュエルはまさにハンガーから下ろされようとしていたところだったらしい。
 バカヤロー!という整備士の声を背に、床を蹴ったアスランはデュエルのコクピットへと近づいた。
 開けてくれるだろうか・・・と一瞬不安になったが、
 大した時間を置かず、コクピットはエアの音と共にゆっくりと開く。
 思ったとおり、不機嫌な顔をしたイザークがこちらを見返していた。
 「何をしているんだ、このコシヌケが・・・」
 そのぶっきらぼうな言い方があまりに懐かしくて、アスランの胸がつまった。

 イザーク。

 名前を呼ぼうとして、言葉を失った。
 彼女に・・・何を言ったらいいだろう。
 ザフトを捨てて、かつての敵と行動を共にして。
 イザークはきっと怒っているだろうと思った。
 彼女は誰よりもプラントを愛しているから。

 許して、と?
 それともプラントを裏切った訳ではない、と?
 あるいは・・・。

 そんなことを考えているうちに、イザークが仕方ないなという顔でコクピットから出てきた。
 固まっているアスランに痺れを切らしたようだ。
 コクピットのハッチに手をかけていたアスランが、シートを蹴ってやって来た体を受け止める。
 折れるかと思うほど細いくせに、とても柔らかいその感触にどきりとした。
 そのままイザークがヘルメットを脱ぐ。
 アスランの目の前で、銀の髪がふんわりと光の粉を散らした。
 瞬きも忘れてそれに見入る。
 かつては毎日のように見ていた目の前の存在。
 それが今目の前にあることが嘘のように思えた。

 「なに人の顔じろじろ見ている?」
 イザークが苦笑する。
 アスランは自分の心を見透かされたような気がして気恥ずかしくなった。
 「イザーク・・・その、元気?」
 「まあな」
 イザークは肩をすくめて見せる。
 それを見て、アスランは彼女が大分痩せたのではないかと思った。
 パイロットスーツを着ているからこそ分かる、以前との違い。
 肩のライン、そして顎のラインが尖っている。
 肌も白いというよりは青白く、血の気がないようだ。

 「イザーク・・・」
 名前を呼べば、イザークが首をかしげて先を促す。
 ちゃんと食べているのか。
 無理はしていないのか。
 どこか悪いんじゃないのか。

 しかし。
 アスランの口から出てきたのは別の言葉だった。
 「あ、その・・・もう、行くのか?」
 「ああ。部下が待ってる」
 「そ、そう・・・」
 俺の馬鹿・・・と自分をののしりながら、アスランはイザークの応えに軽く驚いていた。
 そうか、彼女は部下を持つほどになったのか。
 自分がいない間に軍で出世したのだろう。
 それだけの実力と向上心があったのは知っていた。
 たった一人残されても努力を怠らず、軍に奉仕し続けていたに違いない。
 それにしても共に赤服を着て、クルーゼ隊に入隊したのが遠い過去のように思えてきた。

 と、イザークが上目遣いにこちらをのぞきこんでくる。
 「・・・で、お前はこれから、どうするんだ?」
 今度は逆に質問され、アスランは瞳を瞬く。
 イザークは真剣な顔をしていた。
 自分の身を心配してくれているのだろうか。
 だったら嬉しいのだけれど。
 「臨時議会の反応待ち、かな?戻れるようなら戻るつもりだ」
 「プラントに?」
 「当たり前だ」
 プラント以外のどこに戻るのだ、と眉をひそめれば、蒼い瞳が居心地悪そうに逸らされる。
 「オーブに・・・行くのだと思っていた」
 「え、どうして?」
 「ディアッカから、聞いた。オーブの姫と付き合っているんだろう」
 「え、あ・・・まあ」
 疑いようもなく、カガリのことを言っているのだろう。
 付き合っている、のだろうか。
 大体なんでそんなことをディアッカのやつが知っているのだか。

 ・・・確かにカガリとは抱き合って、キスをした。
 好きだから。
 そう、自分はカガリが好きなのだ。
 「カガリのことは・・・好き、だけど」
 「・・・」
 「だからオーブに行くとか、そんなことは考えてない。
 プラントは故郷だし、できることなら父を止められなかったことの償いもしたい」
 「そうか」
 
 アスランだけではない。
 ラクスの号令の元に第三勢力として戦った者たちは、故郷どころかどの国からも拒絶されるかもしれない。
 それでも。
 それでもアスランは、許されるならばプラントに戻ってやり直したかった。
 やり直す・・・いろいろなものを。

 カガリは間違いなくオーブに戻るだろうが、離れていても大丈夫だ。
 彼女は強い。
 自分も多少は強くなったと思う。
 むしろ別の国で同じ志を持って支えあえれば素晴しいと思う。
 夢物語のようなそれも、今では可能のような気がするのだ。

 


 白と青のツートーンの機体が、AAから飛び立った。

 アスランは希望を持って、星屑の宇宙に消えていくデュエルを見守る。
 デブリの先に見えるプラントは、とても輝いているように見えた。

 戦争が終わった。
 だから、全てが。
 良い方向に向かっていると・・・そう、信じていた。






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ブログ掲載 2006/3/28
2006/12/27