ハジマリ 04



 彼女は軍服の踵をそろえ、アスランに向かって完璧な敬礼をする。
 長い銀髪が動きに合わせて揺れた。
 「ミネルバ所属、MS隊隊長イザーク・ジュールであります」
 「・・・あ」
 あの三人のザフト・レッドたちの、隊長?
 彼女、イザークが?
 「本来私がMS隊を率いる立場ありますが、先ほど艦長よりザラ特務隊員の支持に従うよう命令を受けました」
 何?
 彼女は一体何を言っている・・・?
 だって、ここにいるのはイザークだろう?
 ずっと行方不明で。
 ずっと捜していた。
 だから抱きしめて、再会を喜びあって。
 今までどうしていたんだ、って・・・心配してたんだよ、って・・・。
 MS隊とか、命令とか・・・そうじゃない。
 そうじゃないだろう?


 その再会は、最低だった。

 
 「イ、ザーク・・・」
 「何でしょうか、ザラ殿」
 イザークは顔色も変えずに応える。
 その淡々とした様子に苛立った。
 「君と俺は、会ったことが・・・」
 「はい。前大戦の折には同じクルーゼ隊でした。覚えていてくださって光栄です」

 覚えていて、光栄?
 ますます分からない。
 アスランがイザークのことを忘れるはずがない。
 アカデミーの時から常にトップを争い、何かと突っかかってきたイザーク。
 アスランはさも迷惑だという振りをして、彼女が勝負を挑んでくることを内心楽しみにしていた。
 イザークだって、それに気づいていた様子があった。
 いいや、それ以前に・・・。
 今度は私が部下にしてやる、と。
 それまで死ぬな、と。
 そう言ってくれたのは彼女だったのに・・・!

 アスランは改めてイザークを真っ直ぐに見つめる。
 身長は少し伸びたようだ。
 だが、痩せぎすが変わらないのは軍服を着ていてもはっきり分かった。
 女性だというのに、ふくよかさの感じられない細い手足、腰、首筋。
 それでも、昔は活動的な彼女にふさわしい瑞々しい雰囲気があった。
 アスランの記憶の中の、あの勝気で生命力にあふれていた少女。
 三年の時を経た彼女は、退廃的な艶をまとった女性へと脱皮していた。
 
 アスランの胸に、急激に怒りが湧き起こる。
 いや、怒りとは少し違うかもしれない。
 自分にとっての不条理に対する苛立ちか、悲しみか。
 とにかくそれは凶暴な感情だった。
 一歩を踏み出す。
 ・・・また一歩。
 大股でイザークへと歩み寄る。
 アスランの顔からただならぬものを読み取ったのか、無機質だったイザークの顔に初めて動揺が浮かんだ。
 あと数歩の距離まで近づいて。
 手を伸ばす。
 その細い腕をつかもうと・・・。

 がたん。

 イザークの真横にあった扉。
 それが音を立てて開いた。
 まるで図ったかのようなタイミングのそれに、アスランも・・・イザークですら息を止めてそちらに顔を向ける。
 甲板と艦内をつなぐ二重扉の向こうに立っていたのは、先ほどの赤服パイロットのうちの一人だった。
 レイ・ザ・バレル。
 「レイ・・・」
 イザークが名前を呼ぶ。
 それには心なしか、ほっとしたようなものが含まれていた。
 扉を閉めて甲板に出たレイは、上司二人に敬礼をする。
 イザーク同様、感情が透かし見えない表情だった。
 「ザラ隊長」
 「・・・え?あ」
 「隊長になられたと伺いました」
 「あ、ああ」
 レイの登場ですっかり気を抜かれてしまったアスランに、
 今更ながらイザークから隊長役を譲り受けた事実がひしひしと伝わってくる。
 自分は彼ら二人の上官になったのだ。
 何故だかその事実に実感が沸いてこなかった。
 「ザラ隊長、グラディス艦長がお呼びです」
 「艦長が?」
 「はい。至急ブリッジにと」
 「・・・」
 レイは扉の取っ手を持ったまま、イザークの横に並ぶ。
 さっさと行ってしまえ、ということか。
 いや、別にレイは失礼なことはしていない・・・一応。
 ただアスランがそう感じているだけなのかも。
 吸い寄せられるように、再びイザークの顔を見る。
 怜悧な無表情は戻っていたものの、彼女の顔色は真っ青だった。
 話しかけようとして、ぐっと堪える。
 数瞬前の自分の言いえぬ感情に戸惑っているのかとも思ったし、
 レイがいる手前、あまりみっともないことはしたくなかった。
 

 今のアスランにできたことは。
 ただ無言で開け示された扉をくぐることだけだった。
 


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ブログ掲載 2006/5/14
2006/12/27