タタカイ 01




 重い扉が音をたてながら閉まって。
 溜めていた息を吐ききった。
 それだけで全ての力が抜けてしまいそうで、イザークは唇をかみ締める。
 懐かしい声。
 懐かしい顔。
 いつも優しげだった、あの緑の瞳・・・。
 
 「・・・ク、イザーク、大丈夫ですか?」
 「・・・ッ!」
 ひゅっ、と。
 喉の奥が鳴った。
 いつの間に息を止めていたのだろう。
 ぐらりと視界が傾いた。
 よろけたイザークの痩身を、レイの腕が抱きとめる。
 さらりとした金の髪がイザークの白い頬をなでた。
 「・・・あ」
 「イザーク・・・?」
 「だ、大丈夫だ」
 口では強がったものの、イザークは身体が震えていることを自覚する。
 寒くもないのに小刻みにぶれる、「彼」に向かって敬礼をしていた右手。
 それをもう一方の手で押さえようとして、失敗してしまった。
 「・・・・・・ッ」
 しばらく一人で奮闘するも、震えは止まってくれない。
 すると。
 それを見守っていたレイが、さらに自分の手のひらを彼女のそれへ重ねた。
 柔らかい暖かさが伝わってくる。
 ゆっくりと緊張がほぐれていき、ようやく震えは治まった。
 「・・・すまない」
 「いえ」

 自分の心の弱さが悔しい。
 三年前のあの時、全てを奪われ、見捨てられ、ぼろぼろになった。
 だというのに、まだ心を乱されるものがあるなんて・・・。
 イザークはそんな自分を認めたくなかった。
 でも、さっきのアスランの瞳。
 怒りを帯びたのに気付いた時、イザークを支配したのは恐怖だった。
 怖い。
 怖い。
 怖い、と。

 認めない・・・!
 もう二度と、あんなみじめな思いはしない。

 イザークはレイの手をぎゅっと握り締め、今度はわざと強く突き放した。
 強い、といっても男のレイにとっては大した力ではなかったが。
 「・・・行くぞ」
 もうレイに視線を向けることなく、艦内に戻ろうとするイザーク。
 何が何だか分からず、もしかしたら怒らせたのだろうかとレイはきょとんとする。
 そして慌てて彼女の背中を追いかけた。
 



 ミネルバの整えられた回廊を歩く。
 艦長室を出た後、アスランは艦内の構図を確認するのと頭を冷やす意味で部屋までの道を遠回っていた。

 数分前にアスランを迎えたタリアは、このミネルバに在艦する限りアスランがMS隊の隊長であることを告げた。
 アスランに異論があろうはずもない。
 それより、先ほど邂逅したイザークの方が気になった。
 タリアにそれとなく聞いてみたのだ、彼女はどういう経緯でこの艦に来たのだと。
 応えは「何も知らない」だった。
 
 「・・・ッ、一体どうなっているんだ」
 唇を噛む。

 イザークの、あの反応が受け入れ難かった。
 敵味方に分かれたことがあるといっても、三年前の激しい戦いを共に乗り越えた仲間と思っていた。
 それなのにあのわざとらしいほどの他人行儀な態度は一体どういうつもりなのだ。
 さらに気に入らないのが、レイとタリアだ。
 イザークに深く関わるな。
 暗にそう言われている気がしてならない。
 タリアのイザークの事情を何も知らないというのもおそらくは嘘だろう。

 この三年の間に君に何があったんだ。 
 そう尋ねれば彼女は応えてくれるだろうか・・・?
 いいや、あの頑なな様子では徒労に終わる気がする。
 「・・・」
 もう一度、大きく息を吐いた。

 ―――そうやって、貴様は実にならないことを一人でもんもんと考えるんだな。

 年下の自分を「ガキ」、と言って。
 偉そうな態度の彼女の言葉が浮かんで消える。

 実にならないこと、か。
 そうなのか、イザーク?


 視界の端に何かが過ったのはその時だった。
 窓の外、だ。
 気付いたのはアスランだけではなく、同じく廊下を歩いていた一般兵たちもざわつきながら窓の向こう側を覗いている。
 アスランもすぐに近くの窓に貼りついた。
 艦頭に近かったそこからは、MS等を射出するカタパルトを見下ろす形になっている。

 それが稼働展開している、ということに気付いた瞬間、ものすごい速さでそこから飛び出したものがあった。
 遠くなっていくそれを目で追いかけながら、アスランは驚愕する。
 インパルス・・・!?
 思わず身を乗り出す。
 間違いなく、データにあったインパルスのチェストフライヤーだった。
 間を置かずにもう一つのパーツのレッグフライヤー、そして装備らしきものも射出される。
 どういうことだ?
 演習かもしれないとも思ったが、浸水式を明日に控えているというのにそんなことをするはずがない。

 何かが起こったのだろうか。



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ブログ掲載 2006/5/18
2006/12/27