タタカイ 02
アスランがブリッジに駆け込んだとき、すでに事態は深刻化していた。
「ルナマリア機、航行不能の模様!」
「戻らせろ!レイとの通信は?」
「カオスと戦闘中です。呼びかけに応じません!」
「司令部への呼びかけ続けろ。市街地に被害は出ていないだろうな!?」
オペレーターの少女に怒鳴り声に近い形で状況確認をしているのはイザークだった。
甲板であんな再会をしてから二時間も経っていない。
一瞬彼女の姿にどきりとしたアスランだったが、鬼気迫っているブリッジの雰囲気に気持ちを押し込める。
正面のスクリーンには、数機のMSが対戦していた。
そのうち一つはインパルスだったが、他は・・・。
「ガイア、カオス、アビス?」
他ならぬこのミネルバに搬入されるはずだったセカンドシリーズではないか。
それがインパルスと、そして応戦するザクに攻撃を仕掛けている。
どう見ても演習には見えなかった。
「これはいった・・・」
「状況はどうなっている!?」
アスランの声を遮るようにして響いた声。
ブリッジの全員がはじかれるように振り返った。
「デュランダル議員!?」
険しい形相で、大股でブリッジに入ってきたのは、
セントラルビルにいるはずのギルバート・デュランダルだった。
アスランだけでなく、タリアやイザークまでも唖然としている。
まさかこんなところに来るとは。
「あの三機は?奪還できたのか?」
その言葉にアスランは息を呑んだ。
奪還・・・?
あの三機が奪われたということだろうか。
デュランダルは迷うことなく艦長席のタリアの傍らへと歩み寄る。
しかし肝心のタリアは、すぐにデュランダルから視線をはずしてしまった。
「艦長、インパルスは・・・」
「ご覧になればお分かりでしょ!」
あなたにかまっている場合じゃないのよ、少し黙りなさい。
ぴしゃりと言われ、デュランダルは困ったように眉を寄せる。
そのまますがるような目でイザークを見るが、これまた素気無く無視されてしまった。
美女二人に邪険にされ、さすがのデュランダルも少々情けない顔つきになる。
と、視線を泳がせていた彼は、ようやくアスランの存在に気が付いたようだった。
こちらに目を向け、歩み寄る。
「これはザラ殿」
ようやく我に返ったアスランも、訊きたくてたまらなかった疑問をぶつけた。
「デュランダル議員、これは一体どういうことです?」
「・・・は?」
本当に驚いた様子で目を丸くされる。
「どういう・・・とは?」
「この状況です!どうして新型MS同士が撃ち合いなど・・・!」
「知っていてここにいるのでは?」
「インパルスが発進したのを見て何かあったのかと思ったんです。私には何も・・・」
「テロよ!あの新型三機を奪われたの!いちいち訊かなきゃ分からないの、あなたは!!?」
「・・・え」
金切り声に近い声で怒鳴ったのはタリアだ。
どうやら冷静な表情とは裏腹に相当苛立っているようだ。
アスランは一瞬気圧されるが、ただ黙って突っ立っていてもこの艦に来た意味がない。
デュランダルに向き直り、噛み付いた。
「どうしてこんなことになったんです?警備は万全のはずだったでしょう!?」
「ザラ殿・・・」
「クライン議長があれほど外交に気を使っておられるのにこの不始末は!」
「落ち着いてください。今はそんなことを論じている場合では・・・」
「おだまり!!」
びりびり、と響いた今までで一番の一喝。
アスランとデュランダルだけでなく、ブリッジの全員が縮み上がった。
「おだ・・・」
「・・・まり」
念のために明記しておくが、デュランダルとアスランは上官、タリアは部下である。
唖然とするアスランたちに向け、タリアが水色の瞳を吊り上げる。
「そんな無駄なこと議論するだけならブリッジから出なさい、邪魔ですわ!」
「し、しかしだね、タリア・・・」
「立場上、そういう、わけには・・・」
口では反論する上司二人だが、タリアの迫力に言葉はしどろもどろ。
その上腰が引けているのだからはっきり言って格好悪い。
彼らのその情けなさが火に油を注いだらしく、肩をいからせたタリアは席から立ち上がった。
「叩き出されたいの・・・!!?」
「か、艦長!落ち着いて、落ち着いてぇ!!」
掴みかかりそうな勢いのタリアをアーサーが慌てて押しとどめる。
他のクルーたちは唖然とし、イザークは呆れて額を押さえていた。
外のMS戦とは別の意味で厄介な状況になってしまっている。
そんなアスランとデュランダルを救ったのは、オペレーターの少女の報告だった。
「艦長、インパルスとザクが!!」
「・・・!どうしたの!?」
オペレーターの声から感じ取った切羽詰ったものに、タリアはすぐ軍人の顔に戻る。
イザークも身を乗り出して官製画面を覗き込んだ。
「シェルターの一部が破損・・・奪われた三機はそこから脱出・・・ッ」
「シンとレイは?」
「やはり共にプラントの外に出た模様です。通信が完全に途絶えました」
「艦長!」
「・・・ええ。インパルスまで失うわけにはいきません。
これよりミネルバは出航、テロリストを追います。議員、よろしいですわね?」
「ああ。君に任せるよ」
毅然とした声で許可を求めたタリアに、デュランダルもまた先程とは違う真摯な表情だ。
オブザーバーの許可が下りると同時にイザークはオペレーターに声をかけた。
「司令部とはまだ繋がらないのか?」
「あ、はい。応答ありません」
「ならせめてセントラルの方へ電信しろ。・・・ルナマリアは戻ったか?」
「ルナマリア機、収納完了しています」
「よし、出航と同時に私のザクを・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
てきぱきと指示を出していたイザークの言葉を遮ったのは、アスラン。
イザークは麗美な顔を歪め、うるさそうにアスランを見た。
しかし相手がフェイスである以上無視するわけにもいかないのだろう。
タリアも他のクルーたちも、今度は何だとでも言うようにアスランをにらんでいる。
「そんな安易に戦闘を決めないでくれ!この騒ぎが外交に影響でもしたら・・・」
「それでは・・・あの三機をテロリストに渡してもいいと?」
「そんなことは言っていない!」
「アスランッ」
「!」
「アスラン・・・」
イザークに名前を呼ばれ、アスランは思わず押し黙ってしまった。
アイスブルーが有無を言わさぬ様子でこちらを捕らえている。
その瞳は一瞬・・・ほんの一瞬だけ、物悲しそうな色を浮かべた。
硬質の結晶のようだった心に、まるで波紋ができたように。
「ザラ殿、ラクス・クライン議長は平和を愛すると同時にテロは断じて許さない姿勢であったはず」
「・・・」
「我々は、テロリストを討ちに行くのです」
その通り、だ。
ラクスの政策を支持するアスランが、「テロリスト」の暴挙を許すわけには行かない。
「それでもフェイスの権限で我々の行動に反対されますか?」
畳み掛けるように尋ねたイザークに、アスランは首を横に振った。
「・・・いいや」
「それなら・・・」
「その代わり」
「俺も出撃する」
ブログ掲載 2006/5/28
2006/12/27