タタカイ 05



 レイはいつものようにノックをして部屋の主の返事を待った。
 しかし二度三度ノックをしても、彼からの応えはない。
 留守・・・なのだろうか。
 それともまだ寝ている?
 いいや、そんなはずはない。
 彼はいつも早起きで、きちんとしている人だ。
 レイは最後のつもりでもう一度ノックをした。
 やはり応答は、ない。

 レイはドアを開けた。

 「ギル・・・?お留守ですか?」
 中は薄暗かった。
 カーテンが閉められ電気もついていない。
 やはり留守なのか・・・と思ったが、レイは奥のベッドに人の気配があることに気づいた。
 歩み寄ると、シーツに包まるようにして誰かが寝ている。
 レイは慌てた。
 誰かといっても、今いるこの屋敷に出入りできるのはレイを除いてたった一人しかいない。
 「ギル、どうしたんです!?気分でも悪いんですか?」
 いない・・・はずだったのだが。

 昼間からベッドにうずくまるその人物。
 それが、自分の保護者ギルバート・デュランダルが働きすぎでもして体調でも崩したのかもしれない、
 とシーツを引っぺがしたレイは。
 そのまま、固まった。

 「う・・・ん?」

 シーツを剥ぎ取られたことでようやく覚醒したのか。
 悩ましげな声を上げながら身体を起こしたのは・・・。
 「お・・・んな?」
 銀の髪に白磁の肌をした女性だった。
 しかも美人だ。
 人形のように精巧で、整った美貌。
 にもかかわらず濡れた蒼い瞳と桜色の唇が、生き人であるという生々しさを強調している。
 レイはその女性の美しさに見とれた。
 そして絶対に夢を見ているのだと思った。
 彼女のこの世のものとは思えない美しさのせいもある。
 ギルバートと自分しかいないはずの屋敷に彼女が突然現れたせいもある。
 だが、一番の理由は・・・。 
 彼女は全裸だった。

 困ったな、とレイは途方にくれた。
 誤解だと弁明することも、はがしてしまったシーツを裸の彼女にかけ直してやることもできない。
 だって、金縛りにあったように身体が動かないのだ。
 声も出ないし瞬きすらできない・・・もったいなくて。
 ああ、本当に夢であってくれればいいのに。

 本当に、困った。




 イザークがレイを見つけた場所。
 それは、彼の自室でも休憩室でもトレーニングルームでもなかった。

 「レイ!」
 格納庫を見下ろすフロアで白いザクファントムを認めたイザークは、
 迷うことなく手すりを乗り越えて身を躍らせた。
 痩身は無重力を漂い、スタンバイを待つザクファントムへと向かう。
 下にいる整備士たちが驚いた顔をしていた。
 それを気に留めることもなく、イザークは機体の端を掴んで器用にコクピットの手前に身体を滑らせる。
 ハッチはまだしまっておらず、中には最終調整をしていたレイが座っていた。
 パイロットスーツをまとっている。
 出撃・・・のはずがない。
 演習なんて呑気なことができる事態でもない。
 柳眉を寄せて困ったようにこちらを見上げるレイは、さながらいたずらを見つけられた子供だった。
 そんな彼をアイスブルーでにらみつけ、イザークはコクピットの奥へと身を乗り出す。
 「どこへ行くつもりだ?」
 「・・・言えません」
 「隊長の命令でもか?」
 「もう隊長ではないでしょう」
 「・・・そうだったな」
 と、イザークは一度口を切り、再び眼光を強める。
 逆にレイの視線はゆらゆらと揺れた。
 「どいてください。時間が押しているんです」
 「『あの人』の命令か?」
 「・・・どいてください」
 「応えろ」
 「イザークが俺の恋人になってくれるのなら教えますよ」
 「・・・ッ」
 「なってくれます?」
 「・・・嫌だ」
 「裸を見た仲じゃないですか」
 「・・・絶対に、イヤ、だ!」
 苦々しく、声を漏らした。
 
 イザークは誰のものにもならない。
 誰にも心を預けたりしない。
 たとえ、それがレイであっても。

 完全に口を閉ざしてしまったイザークを、レイはしばらく見つめていた。
 「イザーク、離れてください。もう行きます」
 「・・・」
 「そんなに危険な任務じゃありません。某フェイス殿が気づく前に戻ってきますよ」
 「・・・そうか」
 イザークは顔をうつむけたまま、ハッチを手で押した。
 彼女の痩身が見る間にザクから離れていく。
 その背中には、つかの間の別れの言葉も、身を案じる言葉もない。

 イザークにとって、レイは同じ隊に所属する同僚にしか過ぎないのだから。

 ハッチを閉めたレイは、画面の端に映るイザークの背中を追う。
 彼女は振り返ろうともしなかった。
 画面越しのその姿を、レイの指がなぞる。

 「・・・愛しています、イザーク」
 
 一欠けらもないかもしれない彼女からの愛を。
 夢見ている。
 
 

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ブログ掲載 2006/6/17
2006/12/27