タタカイ 06
お久しぶりです、と声をかけられて。
思わず足を止めてしまった自分に、イザークは内心で舌打ちした。
会わずに済めばいい。
そう思っていたが、その通りにはなかなかいかないものだ。
・・・いや、案外待ち伏せでもしていたのかもしれない。
友好国首脳の側近と言う相手の立場上無視するわけにもいかず、イザークはやむなく後ろを振り返る。
キラ・ヤマトが、極上の笑みをたたえてそこにいた。
自分を映す、底の見えない黒い瞳。
図らずも顔がこわばってしまう。
イザークは、このキラ・ヤマトという男が大嫌いだった。
かつての敵だったということももちろんある。
彼はコーディネーターだったにもかかわらず連合のMSで自分たちに立ちはだかり、仲間だったニコルとミゲルを殺した。
・・・イザークから、奪ったのだ。
戦争はそういうもの。
イザークもそうして納得しようとしたとこもあった。
しかしキラはみなに愛され、尊敬されている。
嫉妬、かもしれない。
同じ立場だったはずの自分は逆に全てを失ったのに。
キラは奪った命などたいしたものではなかったかのように涼しい顔をしている。
アスランやディアッカたちにまで受け入れられて・・・。
そして口では平和を謳うのだ。
「行方不明になったって聞いてましたけど・・・やっぱり軍にいたんですね」
「・・・お久しぶりです、ヤマト准将」
「髪伸ばしたんですね。なんだか前より色っぽくなったなぁ」
「・・・あの」
「アスラン」
「!」
「アスラン、あなたがこの艦にいること黙ってたんですよ。酷いでしょう?」
「・・・」
にこにこと微笑み続けるキラ。
背中にうすら寒いものが走った。
こんな笑い方をする男だっただろうか。
イザークが知っているかつてのキラとは、どこか印象が違う。
あれほど仲睦まじかったラクス・クラインと破局したと聞いたのは、彼らのもとを去ってから半年ほど経ってからだった。
そして同じくアスランと別れた姉のカガリとともに、オーブへと戻ったという。
それと今の彼と、何か関係があるのだろうか。
「さっきの戦闘、出てたんでしょう?」
「はい」
「MSをとられちゃったって・・・。また戦争が起こるな」
「・・・」
「どうしてデュランダル議員はあんなものを作ったのかな。ラクスも絡んでいるんでしょう?
どうしてなの?・・・あんなに平和を望んでいたのに」
「自分には、分かりかねます」
「カガリはね、チカラがあるから戦争がなくならないんだって」
「・・・」
「議員は戦争がなくならないからチカラが必要だって・・・」
「そろそろ、失礼しても・・・」
「ねえ、どうして?」
「・・・っ」
踵を返そうとしたイザークの腕を、キラが素早くつかんだ。
指が食い込むほどの強い力に顔をゆがめる。
「放して、ください・・・ッ」
「ねえ、どうしてまた戦争が起ころうとしているの?誰のせいなの?」
「それは・・・っ」
「僕とカガリは戦争を終わらす為にとても苦労しているんだよ。それでもまだ足りないの?何をしろというの?」
「・・・」
キラの手の力は緩まない。
怖い・・・。
相手がとてつもなく得体の知れない化け物に思えてきて、イザークは眩暈がした。
どうして自分にこんなことを言うのだ?
イザークがキラに対してそうであるように彼もまたイザークを嫌い、はたまた憎んでいるのか。
責め抜いて懺悔させたいのか。
だが。
イザークは泣き叫んで助けを呼ぶなんて無様なまねはしたくなかった。
こんな奴に屈するくらいなら・・・。
「なにしてんだよ、あんた!!」
「・・・っ!」
切れるような怒号と共に、ようやくキラの手が離れた。
よろめきかけたイザークは壁に手をついて体を支える。
声のした方へと顔を向ければ、シンとルナマリアが大股でこちらへ歩み寄ってきた。
「イザークさんに何すんだよ!」
イザークをかばうようにして立ったシンが瞳を吊り上げる。
対してキラは悪びれることもなく、とても涼しい顔をしていた。
「うーん、ナンパ?」
「はぁ?」
「しばらく会ってなかった『オトモダチ』がこんな美人になってたら、お茶に誘いたくなるものじゃない」
「・・・」
なめらかな口調のキラに、シンは視線を泳がせる。
「おともだち・・・?」
「そう。二年ぶりなんだよね、イザークさん?」
イザークは顔をうつむけ、ただ黙っている。
キラはイザークの返答を待ち、シンはこの状況の判断をしかねているようだ。
しばし沈黙が落ちた。
「あの」
口を開いたのはルナマリアだった。
「私たち、イザークさんに用があるんです。彼女をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん!君たちのお姉さんなんだから・・・って言いたいところだけど、僕もいちゃ駄目?」
「ヤマト准将は、ここではお客様ですから・・・」
「うん」
キラは口元だけで笑みを返した。
ルナマリアの言っていることは・・・外の国の人間がザフトに、そして自分たちに関わるな、と。
そういうことだ。
キラといえど、国の壁を盾にされては何もできない。
「分かったよ。足止めさせてごめんね、イザークさん」
「・・・いえ」
イザークはシン、ルナマリアと共に遠ざかっていくキラの背中を見つめる。
不思議だった。
彼は成功者だ。
戦犯に近い扱いで切り捨てられた自分と違い、皆に敬われ、今も国の頂点に立ち続けている。
政治を動かし、自らの望むものを得たはずだ。
アスランも、カガリも、ラクスも・・・。
それなのに。
どうして誰も、幸せに見えないのだろう。
ブログ掲載 2006/6/23
2006/12/27