ユメノナカ 01
「ガーディアン・フォース?」
聞き慣れない言葉に、イザークは首をかしげた。
そんな彼女に対し、目の前にいる男性は少しだけ肩をすくめて見せる。
フェイ・フォルミュラー。
アイリーン・カナーバによって拘束され、強制的に議員を辞されたエザリアの代わりにマティウス代表の最高評議会議員となった若手だ。
親がやはり文官で、幼いころからジュール母娘と交流もある。
彼自身は生意気だったイザークを妹のように思い、可愛がっていた。
「ラクス・クラインが唱えて新たに創設された、表向きは対テロ専門の組織だ」
「随分含みのある言い方だな」
誰が聞いているのか分からないぞとイザークが言外に咎めるが、フェイは気に留めた様子もない。
「俺はラクス・クラインをまだ信用したわけではない」
「過激な発言だな」
「悲しいことだ。パトリック・ザラの独裁を否定して立ち上がった正義の歌姫が、その彼と同じことをしているのだから」
「・・・まだ決まったわけじゃない」
「そうか」
「アスランも、ディアッカも・・・バルトフェルドもラクス・クラインを信用したんだ。彼女は・・・大丈夫、だ」
「・・・そのアスラン・ザラと、ディアッカ・エルスマンが、君をガーディアン・フォースにと」
「?」
「メンバー候補に君の名前を挙げた。・・・どうする?」
「どうもこうも、やるしかないだろう」
「お母上のためか?確かに君がクラインの意見に賛同しているという意思表示になるかもしれないが・・・」
「うるさいぞ、フォルミュラー」
イザークはコートを手に取ると、フェイに背中を向ける。
「・・・私たちのことは、もう放っておけ」
最高評議会議員という肩書きは本当に便利だ。
フェイはこの職についてつくづくそう思い、皮肉にも感じていた。
先日終戦が宣言された戦争だって、この職権の乱用が一役買っているというのに・・・。
「わざわざ月までの調停、ご苦労様でした」
「ありがとう」
AAに入艦したフェイたち文官一行を出迎えたのは、ザフトの軍服を着た男だった。
ドッグを見下ろせば、他にもオーブとザフトの軍服を着た者たちが入り混じって仕事をしている。
新議長ラクス・クラインの「ナチュラルとコーディネーターは同等」という理想が体現したかのような艦だ。
ガーディアン・フォースの旗艦、アークエンジェル。
戦後の占領地の協議のために月基地まで出頭していたフェイを始め他の議員は、
プラントまでの帰路の護衛この艦と、属艦として新たに製造されたAA級三番艦パワーズに委託することになった。
護衛にアークエンジェルを指名したのはフェイなのだが、案外あっさりと許可は下りた。
プラントで議長職に就いたばかりのラクスとしては、「自分の」理想の体現をお披露目したい意図があったのかもしれない。
「お部屋はすでにご用意しております。軍使用なので居心地がいいとはいえないかもしれませんが・・・」
「かまいませんよ。こっちは護衛をしてもらっているんですから。・・・それより、艦内を少し見せてもらえませんか?知り合いもおりますし」
慣れない艦内を一時間近くかけてようやく目的の人物を探し出すことができた。
二ヶ月ぶりの後姿を認め、フェイは息を吐く。
するとこちらの気配に気がついたのか、声をかける前に彼女はこちらを振り向いた。
「・・・なんだ、貴様か」
「やあ、イザーク」
ガーディアン・フォースのパイロットとなっていたイザーク・ジュールは、オイル臭のきついドッグの中にいた。
ザフトの赤い軍服ではなく整備服を着た彼女は、服だけでなく髪も顔もオイルで汚れている。
それだけではイザークの美しさを損なうことはできなかったが、フェイは少なからずショックを受けた。
なぜならたった二ヶ月しか経っていないというのに彼女は明らかにやつれていて、顔色も悪かったからだ。
汗をぬぐう手首は、ほんの少し力を入れればぽきりと折れてしまいそうだ。
呆然としているフェイを一瞥すると、イザークは再び自分の機体の整備に取り掛かり始めた。
それを見ながらフェイはふと疑問を抱く。
周りに整備士は山ほどいるのに、どうしてパイロットの彼女が自機とはいえ整備の仕事などしているのだろう。
「デュエル、随分ぼろぼろだな」
「・・・」
ふと漏らしたフェイのつぶやきに、イザークは手を止める。
GAT-X102デュエル。
ヘリオポリスで彼女が奪取し、停戦まで戦場を駆け抜けた機体だ。
フェイはMSにはあまり詳しくないが、GATシリーズがすでに旧式に入っていることくらいは知っていた。
確か彼女をスカウトしたアスラン・ザラは再製造されたジャスティスに、ディアッカ・エルスマンはジンの最新型に搭乗しているはずだ。
「最新鋭機は、君のところまで回ってこないのか?」
「・・・これの方が使い慣れている」
「嘘をつくな」
「嘘など・・・」
「では、パイロットのはずの君がどうして整備などしている?せめてアシスタントの一人や二人は・・・」
「私が好きでやっている」
「ザラやエルスマンは君が受けている仕打ちを知っているのか?君をここに引き込んだのは奴らだというのに、よくも無責任な・・・ッ」
「いい加減にしろよ、フォルミュラー」
イザークのアイスブルーがフェイを射すくめる。
母が急進派の筆頭だったということでここでは針のむしろだろうに、眼光の鋭さだけはまったく損なわれていなかった。
「早く出て行け。いつ戦闘が起こるかわからないんだ。・・・最高評議会の議員殿の身に何かあってはことだ」
「プラントに着くまではこの艦にいる。どこにいたって同じだよ」
「・・・」
それっきり、イザークは口を開かなかった。
彼女の言葉が現実になったのは、あと十時間弱でプラントに到着するという時だった。
コンディション・レッドを知らせる艦内放送に、付き人と自室にいたフェイは飛び上がった。
『・・・第一戦闘配備。繰り返します。全艦第一戦闘配備。パイロットは所定の位置へ・・・』
「戦闘!?この艦が戦いに出るということですか?」
「・・・ドライブに行くとでも思うか?」
「そうじゃありませんけど、でも・・・我々評議会関係者が乗っているというのに」
「だからだろ」
「は?」
首をかしげる付き人にため息をつく。
戦艦に乗っていて、しかもテロリストが出没する地帯を航行する以上、戦闘に巻き込まれる可能性がゼロなわけがないだろう。
そうでなくても・・・。
『現在アークエンジェルおよび属艦パワーズにアウノウン接近中。
評議会関係者の方はU-33Eゲートへ移動してください。繰り返します・・・』
いまだにおろおろしている付き人の尻を蹴り上げたい衝動をこらえる。
「必要なものだけ持って言われたとおりにしろ。俺たちだけ脱出させてくれるって言ってるんだ」
「・・・は、え?」
「アウノウンとやらの目的は、俺たちだろ」
やはり敵の目的は月基地を出た評議会議員だった。
こちらの身柄をよこせと訴えながら攻撃しているあたり、もとから殺す気なのだろう。
上手くことが運べばこの事件を連合の残党のせいにして、協定を壊す魂胆かもしれない。
「フリーダムとジャスティスが善戦しているので、脱出する必要はないかと思われます。
ここに集まっていただいたのはあくまで念のためですから」
指定されたゲートにいた軍人にそう説明され、文官たちの間にほっとしたものが流れる。
その中でフェイは前に進み出た。
パネルに戦闘の様子が映し出されている。
軍人の言ったとおり、白と赤の二つの機体が戦況を圧倒してた。
相手はジンとゲイツの集団。
滑らかな動作で敵の砲撃を避けつつ反撃をし、確実に相手を捉える。
・・・優雅なようで、どこかぞっとするような動きだ。
完璧すぎる。
その常人離れした二体を野球観戦ののりで絶賛する文官たちに呆れつつ、イザークはどこだろうとデュエルを探した。
青と白の機体はすぐに見つかった。
苦戦しているようだ。
フリーダムと比べると明らかに動きがぎこちない。
「ああ、あれってエザリア・ジュールの娘のMSでしょう。・・・あっ!被弾した」
「!」
「何か危なっかしいなぁ。女がパイロットなんかするから・・・。
ラクス様もジュールの娘をガーディアン・フォースに入れるなんて何を考えているのやら・・・。
オーブのカガリ姫とは大違いですね。情けない」
「・・・」
彼女は自分たちを守る為に戦っているというのに、この他人事のような感覚はなんだろう。
プラントに戻って最初にする仕事は、この男にクビを言い渡すことのようだった。
ブログ掲載 2006/9/16
2006/12/27