ユメノナカ 03




 「一体何を考えているんです!AAに乗っていた彼女にテロリストの支援ができるわけないでしょう!?」

 執務室に乗り込むなり大声を張り上げたフェイを、クライン派筆頭のアイリーン・カナーバはうるさげに一瞥した。
 実は二人は従兄弟同士という間柄である。
 「別に決め付けているわけではないわ。事情を聞いているだけよ」
 「ほう、任意同行だったんですか。それなら三日も拘束されっ放しなのはおかしいですね」
 「・・・何が言いたいの?」
 「彼女を調べたって何も出てきませんよ」
 「あなたの方こそ彼女が無実って決め付けてるみたいね」
 アイリーンは持っていた資料を、音を立ててデスクに置く。
 そしてフェイに向き直ると、「いいこと?」と語気に力を込めた。
 「エザリア・ジュールの軟禁場所を知っているのは少数の私の側近と、イザークしかいないのよ。
 情報は彼女から流れたとしか考えられないわ」
 「・・・自分の側近は無条件で除外するんですか」
 「いい加減にして頂戴。その態度を何とかしないとせっかくの職を失うわよ」
 フェイは唾を吐きかけたい衝動を堪えた。
 パトリック・ザラと同じことをしているのはラクス・クラインではなくこの女のようだ。
 「失礼します・・・ッ」
 怒りを何とか押さえ込んで彼女の執務室を後にする。
 いずれこの女こそがクラインを追い詰めるだろうと確信しながら。


 ようやく面会が許され、フェイはガラス越しにイザークと再会した。
 彼女は容疑を認めていないはずなのに、まるっきり犯罪者扱いなことに怒りを覚える。
 「イザーク、大丈夫か?ひどいことはされていないか?」
 フェイの言葉にイザークは笑みを口に乗せた。
 少し呆れたような、けれどどこか相手を懐かしむような笑みだ。
 しかしそれもどこか弱々しい。
 「本当に仕方がない奴だな、お前は・・・。もう私は知らないからな」
 「覚悟しているよ」
 「・・・そう」
 イザークは目を伏せる。
 もともと痩せていたのに、さらに顎や肩のラインが尖っているのが分かる。
 このままでは倒れてしまうのは時間の問題だろう。
 そんなことを考えてると、イザークがふと口を開いた。
 「さっき・・・アスランとディアッカが来た」
 「そう、か。何か言っていた?」
 戦友だった二人が訪ねてきたのだったらイザークも多少元気が沸いただろう。
 そんな気持ちで問いかけたフェイの目の前で、イザークの蒼眸がじわりと潤んだ。
 「イザーク・・・?」
 ぱたぱたと、透明な涙が落ちる。
 相手に弱みを見せることを極端に嫌うイザークが、あろうことかフェイの目の前で泣いていた。
 絶句するフェイに対し、イザークは苦しそうに口を開いた。
 「・・・ッ、ほ、本当のことを、言ってくれって・・・」
 「!!」
 「テロリストの、名前を教えてくれ。正直に告白して協力すれば罪状は軽くなるから・・・って」
 「なんてことを・・・」
 あの二人、鼻っからイザークを疑っていたのか。
 それともカナーバから何か吹き込まれたのか?
 ともあれイザークを一気に弱らせたのは不当な拘留だけでないのは確かだった。
 怒りに震えながらもそれをぶつけるところを見つけられないでいるフェイだったが、
 イザークは逆に涙を流して落ち着いたのか、口調は一気に冷え込んだ。
 「私は・・・あの二人の何なんだろうな」
 蒼い瞳が遠くを見据える。
 「仲間って、信頼し合っているものだと思っていた。少なくとも、クルーゼ隊にいた頃はそうだった。
 ・・・アスランたちは変わってしまった」
 「変わった、か」

 そう。
 アスランとディアッカの環境は大きく変わった。
 ラクス・クラインが幼くしてプラントの最高位になったことで、同志だった彼らにも相応の地位と責任が課せられた。
 共に特務隊となり、ガーディアン・フォースでは中枢を占める。
 自分たちの采配が部下の命を左右するのだから、プレッシャーも大きいだろう。
 戦果という数字を上げることに熱中しはしゃいでいた時のままではいられない。
 ストレスだってあるはずだ。
 あまりに若いあの二人だけを責めるのは間違っているのかもしれない。

 けれど・・・。 
 「私は、あの二人の仲間ではなかったのかな・・・。私が勝手に思い込んでいただけで」
 「イザーク、もうやめろ」
 自嘲し始めたイザークを、低い声で咎める。
 イザークは蒼い瞳できっとこちらを睨んだが、すぐにうつむいてしまった。
 普通なら放っておけだの貴様には関係ないだの一言あるところなのに・・・。
 やはり精神的に参っているのだ。
 「ザラとエルスマンはとりあえず置け。エザリア様の安全が第一だ」
 「・・・」
 「思い当たることはないのか?誰かがエザリア様の居場所をしつこく聞いてきたとか」
 「そんなの、山ほどいる」
 「え?い、いたの?」
 あっさり肯定され、力んでいたフェイは椅子からずり落ちそうになった。
 「誰だよ、俺が当たって・・・」
 「メールや、手紙だ。共にパトリック・ザラの意思を引き都合だの、母上を救いだそうだの・・・」
 「直接会ったことは?」
 「私には始終カナーバの私兵が張り付いていたからな。・・・一度もない」
 「そうか」
 これくらいなら保安部も聞き出しただろう。
 フェイができそうなことはない。
 「悪いな、役に立てそうもない」
 「そんなこと・・・ない」
 イザークが顔を上げる。
 美しいアイスブルーがフェイを真っ直ぐに見つめた。
 「信じてくれて、ありがとう」
 「ん・・・ああ」
 どきりとし、落ち着きなくフェイは立ち上がる。
 「じゃ、じゃあ、俺はそろそろ・・・」
 「ああ。そうだな」
 椅子の背に掛けておいたコートを手に取ると、さほど距離のない壁のドアへ向かう。
 「また来るよ」
 そう言いながら、ドアロックをはずそうとした瞬間。

 しゅっ、と音を立てて開いたのは、フェイが開けようとしていたドアではなかった。
 フェイはまだ開閉ボタンを押していない。
 空いたのは、ガラス板を挟んだ向こう側の、イザーク側のドア。
 その向こうに例の保安部の面々の姿が見え、フェイは眉をひそめた。
 ・・・嫌な予感がする。 

 「イザーク・ジュール、こっちに来い」
 一番手前にいた男がイザークに命令し、手招きする。
 しかしその顔はどこか青ざめていた。
 「何だ、何かあったのか?」
 フェイはガラス板に顔を近づけるようにして声を出す。
 そこでようやく保安部の男はフェイの存在に気付いたらしい。
 幽霊のような顔をしたままでこちらを向き、ゆっくりと言葉をつむいだ。
 
 「彼女に、身元確認を・・・。エザリア・ジュールの死体が見つかりました」



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ブログ掲載 2006/10/1
2006/12/27