チキュウ 01
「とりあえず、言い訳だけは聞いておくわ」
腰に手を当ててため息混じりにつぶやいたタリアに、ベッドの上で正座した五人は視線を泳がせた。
「あの、艦長・・・」
「レイはいいわ」
「・・・」
レイが真っ先に口を開くが、タリアは最後まで言わせない。
レイは苦い顔で黙り込んでしまった。
「シン、あなたから」
「お、俺!!?・・・え、と。俺・・・じゃなくて、自分はレイを助けようとして・・・一緒に落ちました」
「ルナマリア」
「レイとシンを追いかけて・・・以下同文です」
「イザーク」
「レイたちを放っておけなくて・・・。申し訳ありませんでした」
「アスラン・・・」
「イザークのみを追いかけました」
「・・・」
「・・・」
「バカ言ってんじゃねーよ・・・」
「シン、聞こえたぞ」
「聞こえるように言ったんだよ」
「もういいわ!」
タリアの一喝に、一同は水を打ったように静まり返る。
あの戦闘で、レイは不覚にも意識を失ったまま大気圏に落とされてしまった。
それに真っ先に気付いたシンが、インパルスで追いかけてともに落ちたという。
それだけですんだのなら良かった・・・実際、あのままではレイが助かる確率は低かっただろう。
だが二人を心配したルナマリアがシンを追いかけ、その彼女をイザークが追いかけて、
最後はアスランまで・・・と全員がミネルバに戻らず大気圏に突入してしまったのである。
その結果、ザクに乗っていた三人は高熱を出してこの医務室に運ばれ、
大して異変のなかったシンも罰として強制的に医務室に閉じ込められている。
・・・アスランは勝手についてきただけだ。
いつもはボケ役のアーサーでさえ、揃いも揃って命令を無視し、
さらに艦長の神経を逆なでするパイロットたちを冷ややかな目で見ていた。
「全員無事だったからよかったようなものの、万一のことがあったらどうするつもりだったの!!?」
「すみません・・・」
「ごめんなさい」
「おっしゃるとおりです」
次々に頭を下げるパイロットたちに、タリアは何度目になるのか分からないため息を吐く。
「しばらくこの部屋で仲良く反省していなさい!・・・いいわね!?」
ディアッカが家に帰ると、妻のミリアリアが笑顔で出迎えた。
ほぼ毎日電話で話していたからそんなに離れていた気はしないが、実際に会うのは二週間ぶりだ。
ディアッカはそれでも暇を見つけて帰るようにしているのだ。
ミリアリアはナチュラルで、このプラントではそれまでの知り合いともなかなか会う機会がない。
しかし彼の努力にも関わらず、家を開ける感覚は長くなる一方だった。
「・・・ラクスさん、大変ね」
食卓の席に着いてミリアリアがまず口にしたのが、ラクスのことだった。
テレビでもいろいろ言われているのだから・・・いや、他ならぬディアッカの長期不在の原因なのだから、
政治に疎い彼女にも分かってしまうのだろう。
そう、開戦がきっかけでラクスへの不信は議員の間だけではなく、民間レベルにまで広がっていた。
「デュランダルの奴、あの手この手で味方を引き入れてやがる。アスランもミネルバで苦労してるんだろうなぁ・・・」
「地球に無事降りれたんですって?」
「ああ。クライン議長はオーブに行かせるつもりらしい」
「オーブに?どうしてよ?」
ミリアリアは首を傾げる。
オーブといえば彼女の故郷だが・・・中立を叫ぶ国家だ。
もはや連合とプラントが開戦してしまったこの時期に一戦艦を派遣してどうしようというのだろう。
「連合が、三年前みたいにあの国に同盟加入を迫ってる。・・・それを牽制しようとしてるんだ。
アスランが乗ってるとなればカガリは話を聞こうとするんじゃないかってね」
「・・・そう」
自然に二人の声のトーンが落ちる。
ラクスも酷なことをする。
アスランとカガリの破局から、まだ二年足らずだというのに・・・。
それでもラクスは、カガリの方にはまだ未練があることを見抜いているのだろう。
「上手くいくかな・・・?」
「いくわよ!カガリさんほどの人が連合の言いなりになるわけないわ。
キラだっているし・・・アスランにきっと協力してくれるわよ」
キラとアスランは親友だった。
互いの友を手にかけてしまった時も、それだけは揺るがなかったのだ。
しかしディアッカの表情は曇ったままだ。
「ミリィ・・・アスランとカガリが別れた原因って知ってるか?」
「え?それは、アスランが仕事ばっかりでカガリさんのことかまわなくなったからでしょ」
それで喧嘩になり、別れてしまったのだ、と。
ミリアリアは後でキラにそう聞かされていた。
というのも、ちょうどその頃ディアッカと結婚したミリアリアはもちろん幸せだったけれども自分のことで精一杯だった。
両親の説得やプラントへの戸籍の移動やらで、気がつけばアスランとカガリ、キラとラクスの関係は修復できなくなっていたのだ。
「違うの・・・?」
そっと伺うように言ったミリアリアに、ディアッカは低くうなる。
「イザークって、いただろ」
「イザーク・・・ジュール?行方不明になったデュエルのパイロットだった人でしょ」
「アスランさ、そいつのこと好きだったんだ」
「・・・はあ?だって、だってアスランは!」
ミリアリアは思わずテーブルから身を乗り出した。
アスランとカガリは一緒にいて、とても幸せそうな恋人に見えた。
どうしてそこにイザーク・ジュールが出てくるのだ。
ミリアリアが知る限り、アスランとイザークに同僚以上の関係があったようには見えなかった。
「アスランもさ、イザークがいなくなってから気付いたっていうか・・・。
俺も後から知ったんだけど、カガリのことほっぽり出してイザークを捜してたみたいだ」
「カガリさんは・・・」
「もちろん気付いた。それで問い詰めて・・・アスランの奴、バカ正直にイザークの方が好きだとか・・・いや、違ったかな。
とにかくカガリとのことは間違いだったみたいなことを面と向かって言っちまったらしいんだよ」
「うわ・・・」
それはいくらなんでも酷い。
普通の浮気の方がまだましだったろう。
カガリは死んだかも分からない人間に、恋人をとられたことになるのだから。
「確かに、それじゃあカガリさんはアスランと会おうともしないかもね」
「しかもだ」
「まだ何かあるの?」
「見つかったんだよ、イザーク」
「ええ!!?」
「ミネルバに、乗ってたんだ」
太平洋を航行しているミネルバは、当初はカーペンタリア基地を目指していた。
しかし連合と戦争状態にある今では当然旅行気分の航海など楽しめるはずもない。
ミネルバは二度にわたって連合の大部隊の攻撃を受けた。
インパルスとセイバーがいたからこそ戦闘自体は何とか切り抜けたものの、ミネルバは物資・燃料の不足に陥っていた。
特に燃料の方は深刻だった。
カーペンタリアからの援軍があれば一番良かったのだが、あちらも連合とのにらみ合いが続いている。
あまり兵力は割けないと言われ、
せめて必要なものをこちらに運んでもらおうと話し合っていた矢先に本国から通信が入ったのだった。
「オーブに、ですか?」
「ええ。そういう命令よ。・・・評議会からのね」
ラクスか・・・とアスランは内心でため息をつく。
タリアも同じ結論に至ってるのか、アスランを見る目は冷ややかだ。
確かにここからではカーペンタリアよりまだオーブの方が距離的に近い。
オーブだって、表面でプラントと友好関係を結んでいる以上はあまりこちらを邪険にできないだろう。
ミネルバは、オーブへ向かうことが決まった。
『元気そうだな、アスラン。大気圏に落ちたって聞いたときはびっくりしたけど・・・』
アスランは別段心配してなさそうな同僚に一瞥をくれる。
「俺の話はいい・・・。で、なんでわざわざオーブに行けと?補給だけもらえってことじゃないだろう」
確かにミネルバの今の状況は深刻だが、かといって他国に頼るほど切迫しているわけでもない。
カーペンタリアでなくオーブを頼れというからには、そこに何か目的があるのだ。
言外にそう含ませたアスランに対し、ディアッカは「まあね・・・」と肩をすくめた。
『連合がかなり強引に、オーブに連合加入を迫ってる』
「・・・なるほど」
それだけでアスランは全て分かってしまった。
連合に屈しないよう、カガリを説得しろということだろう。
「俺に説得なんてできると本気で思っているのか?」
アスランとカガリの恋の終末を知らないラクスではあるまい。
ディアッカの顔からも笑みが消える。
どんなに可能性の低い賭けなのかは分かっているのだ。
『議長は・・・ラクスはお前ならって思ってるみたいだぜ。カガリがまだお前に未練たらたらってな』
「馬鹿な・・・」
『そう思いたいのかもしれないな』
「?」
『立場が大分悪くなってるんだ。開戦のことについてもだけど・・・』
言葉を濁したディアッカに、アスランは眉根を寄せる。
「他に何が?」
『そのうちマスコミにもばれるから言うけど、あのアイリーン・カナーバが俺たちの知らないところでいろいろやってたみたいなんだ』
「アイリーン・カナーバ・・・」
ラクスの前の議長だ。
アスランやディアッカが若くして今の地位に就くことができたのは、ラクスよりもむしろ彼女の手回しが大きい。
今でこそ評議会議員を退き、一文官に落ち着いているが・・・その彼女が一体何をしたというのだろう。
『エザリア様のこと・・・ほら、テロリストと一緒に逃げて仲間割れで殺されて・・・てやつ』
「!」
『カナーバの作り話だった・・・いや、テロリストがいたのは本当だけど、実際にはエザリア様は誘拐されて、さ。
イザークに掛かった容疑もカナーバの思い込みだったみたいだ』
「イザークと犯人グループがメールでやり取りをしていたというのは・・・やはり嘘か」
『気付いてたのかよ?』
「後からおかしいと・・・。イザークの端末にいじられた後があったから」
『その後で本当のスパイはカナーバの側近だったって事が分かってさ。事実を言うに言えなくなったらしい。
イザークも行方不明になって・・・そのままうやむやだ」
「・・・」
アスランは青ざめる。
イザークが自分たちに黙って姿を消して、彼女を探し出すためにいろいろ調べた。
彼女の消息が分からなかった代わりに、どうもあの当時のカナーバの行動がおかしいと気付いた。
もしかしたら、イザークは無実だったのかもしれない。
そんな思いをどこかに抱いてはいたが・・・。
それがはっきりした途端、イザークの頑なな態度の理由がはっきりと理解できた。
「イザークは・・・無実を信じなかった俺たちに腹を立てているんだな」
アスランはイザークの言葉でなく、カナーバの仕立て上げた証拠を信じた。
本当は潔白の彼女に、罪を告白するように説得した。
・・・今から思えば、酷い傲慢だ。
しばらくうつむいていたアスランだが、やがて画面の向こうのディアッカへと瞳を上げる。
「やっぱり・・・カガリへの説得は期待しない方がいいと思う」
もうすでに、アスランの心は別の場所にある。
そしてカガリも、それを知ってしまっているのだから。
ブログ掲載 2006/11/4
2006/12/27