PHASE-01「運命の少女




 C.E.79 2月20日。

 入室を許可され、扉をくぐって敬礼をしたシンとリュカに、イザークは軽く手を上げて応えた。
 「呼び出して悪かったな。座ってくれ」

 ほぼ一週間ぶりに隊に戻ったイザークを待っていたのは、謎のMS部隊に襲われたという艦長の報告だった。
 イザークは、まず隊と艦を守り抜いたシンたちをねぎらった。
 ほぼ被害はゼロだったということで、本国には報告したものの宇宙境界線の巡回は変わらず続けている。

 「それは全て無人機だということに間違いは無いのか?」
 「はい。艦にデータがあると思いますけど、全て識別コードのある・・・前大戦時代の型でした」
 「しかもザフト、連合、オーブ関係なし、か」
 イザークが額を押さえながら携帯ウィンドウのボタンを叩く。
 切り替わる画面は《ジン》、《バビ》、《M1アストレイ》、《ダガー》シリーズ、《ウィンダム》等等・・・懐かしさすら覚える機体ばかりだった。
 「スクラップ工場から拾ってきたのかよ・・・」
 「嘘みたいな話ですけど、それくらいしか考えられませんね」
 イザークのぼやきにリュカが応える。
 その時のことを思い出しているのか、いつもは明るい表情が少し暗い。
 「動きもかなり単調でした。攻撃も目をつぶっててもよけられますよ」
 「・・・それで、そのスクラップから自動装置を拾ったんだろう?何か分かったか?」
 シンたちは砲撃で全てを破壊したわけではない。
 攻撃をかわしつつ再起不能なMSを何機か確保し、それを操っていたものを割り出そうとしていた。
 だが・・・。
 「装置は手作りだったみたいです。どれについているのも同じで・・・材料はありふれたものでした」
 「作った者の割り出しは無理、か。一体何が目的だったんだか」
 「いたずらじゃないですか?そんなに複雑なつくりじゃなかったですよ。しかもあまり質がよくなかったし・・・」
 「目をつぶってよけられる攻撃をするくらいだからな・・・」

 『ジュール隊長、よろしいですか?』

 ピピピ、という通信音と、それに続いた艦長のアラン・メイデスの声に、三人は意識を振り向けた。
 リュカが眉根を寄せる。
 さすがアランの息子なだけあり、父の声に焦りが滲んでいることにすぐさま気付いたようだ。
 「どうした、艦長?」
 『巡回していた《ルージュウルフ》・・・ルナマリア機がポッドを発見しました』
 「「「ポッド?」」」
 三人が揃って素っ頓狂な声を上げる。
 あの謎の部隊との戦闘のすぐ後だ。
 船が近くを航行したという連絡はない。
 それなのに、ポッド・・・?
 どこから・・・。
 「干からびたミイラが乗ってたりして」
 『生命反応はあるようです・・・!』
 息子の軽口が聞こえたのか、アランの声はやや険悪みを帯びた。
 リュカがまずいという顔をして口を閉ざす。
 それを冷ややかに眺めながらイザークは腰を上げ、シンもそれに続く。

 「格納庫に入れさせろ。俺が行くまで開けるなよ」



 格納庫には、すでに銃を持った兵士と軍医が待機していた。
 イザークたちがエレベーターを出ると、ポッドを拾ったというルナマリアがこちらにやってくる。
 まだパイロットスーツのままの姿に、リュカがひゅうっ、と口笛を吹いた。
 「うはー、たまんないね。副リーダーのあの格好は、いつ見てもエロ・・・・・・、ぐふッッ」
 無表情のままのシンの見事な裏拳に、あえなくリュカが沈んだ。
 それを見たルナマリアが驚いて大きな瞳を瞬いている。
 幸いなことにリュカの軽口は耳に届いていなかったらしい。
 イザークは気にするなと手を振り、シンは素早くルナマリアの肩を抱く。
 無重力に白目を剥いて浮いているリュカを放り、問題のポッドの前へと急いだ。

 「どこのポッドだ?」
 「民間の・・・地球製でした。でも少し改造されてますね」
 「改造?」
 イザークの瞳が眇められる。
 他の者たちも同様だった。
 「海賊・・・の可能性が高いですね」


 ここ数年で、宇宙海賊が起こす事故は多発していた。
 プラント・地球間を運行するシャトルを襲い、食料、燃料、金品を奪う事件は後を絶たない。

 五年前の大戦後、プラントの議長となったラクス・クラインは、
 故人となった前議長ギルバート・デュランダルを糾弾してデスティニープランを徹底的に否定し続けた。
 それに対し、プラントの中にも彼女に反発する者が現れたのだ。
 デスティニープランの導入を望んでいた者、デュランダルという人間に心酔していた者、
 ・・・そして突然戦場に現れたかと思えばデュランダル政権を打ち壊し、
 プラントを支配してしまったラクス一派を否定する者たちなど様々だった。
 彼らはやがてクライン派が支配する保安部に睨まれることになる。
 不合法に職を解かれたり(特にザフト軍内で職にあぶれる者は多かった)取調べを受けたりし、プラントに住み難くなる。
 かといって、地球に移って住み着くことができたのは僅かだ。
 多くは諦め、口を閉ざして「ラクスの」プラントに住むことを受け入れた。
 だがもちろん諦められない、受け入れられない者たちもいて、
 それがプラントにも、地球にも寄り付かず、結果的にどこからともなく現れる宇宙海賊になるのだ。
 実はジュール隊の仕事の大半が、この宇宙海賊の取り締まりだった。
 彼らは強奪したシャトルを足にし、徒党を組んであちこちに出没する。
 しかも元軍人が多いため武器の扱いもそれなりで、軍の動きにも敏感だから本当に手を焼いていた。
 逮捕してもすぐに別のグループが出現し、いたちごっこ状態なのだ。

 
 ポッドがどこかの旅客機からのものだということは考えにくかった。
 最近この一帯で旅客機が襲われたり、墜ちたりしたという報告は無かったはずだ。
 
 「じゃあ、開けますよ」
 整備士が機器で解除コードを読み取る。
 ぴっ、という音が、ロックの解除を知らせた。
 ぷしゅうっ。
 エア音と共にポッドの扉が開いていく。
 全員がその様を固唾を呑んで見守るが・・・中にいるはずの者が、出てくる気配は無かった。
 武装した兵士の一人が合図をし、慎重に踏み込む。
 イザークたちが見守り、整備士たちも遠巻きに眺めた。

 しばし、不気味なほど静かな時間が流れる。
 
 「・・・どうだ?」
 イザークがよく通る声で中に踏み込んだ兵士に問いかけた。
 一人用のポッドのため、狭い入り口の内部の様子は全く分からない。
 だが、しばらくすると兵士が何か・・・いや、誰かを抱えて出てきた。
 「生存者、か」
 
 「子供・・・おんなのこ?」
 兵士に抱かれているのは、12、3歳くらいの幼い少女だった。
 気を失っているのか兵士の腕の中でぐったりしている。
 見れば額を怪我しているらしく、髪の生え際の辺りに血が黒ずんで固まっていた。
 ポッドから大分離れていたところにいたはずの軍医がすぐに気付き、少女の下へと飛んでいく。
 「生きているのか?」
 「軽症です。大丈夫ですよ・・・むしろ、栄養失調と脱水症状の方が心配ですね」
 軍医が少女の脈を見ながら応える。
 少女の顔は確かに青白く、病的に見えた。
 「隊長、これは・・・」
 ルナマリアがイザークの様子を伺う。
 ポッドを回収した彼女も、まさかこんな小さな女の子が中に入っているとは思わなかっただろう。
 イザークは心配しないように彼女に言うと、とりあえず少女を医務室に運ぶよう命令する。
 応急処置を施した軍医が少女を運ばせると、集まっていたクルーたちもやがてばらばらと自分の仕事に戻っていった。

 「ジュール隊長、中にこんなものがありました」
 ポッドの中を詳しく調べていた兵士が、イザークに何か光るものを差し出す。
 ドックタグだった。
 イザークは受け取り、それを調べる。
 普通ドックタグは名前、血液型、生年月日などが打刻してある二枚組みの鉄板のはずだが、
 それは一枚しかなく、しかもたった一行が刻んであるだけだった。

 HONOKA. W. 


 「ほ の か ?」
 


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2010/01/01