PHASE-04「コードネーム《ガーディアン》」
未来のザフト兵を養成する、ディゼンベルのアカデミー校。
新たに増設されたそれは、中央の棟を、南棟、西棟、東棟が囲むような形になっている。
そのうちの東棟・・・表向きは他同様アカデミー生が出入りする教育の場だが、地下にはMS工場が備えられていた。
そう、タクト・キサラギがいたのはこの棟だったのだ(本人自覚無し)。
本来ならば彼が降りた階段は使用禁止になっており、生徒は地下へと行くことができない。
タクトが地下のドックへと辿り着いてしまったのは偶然だった。
そして。
時は少し遡り、同じ日の昼頃・・・。
ドックにはいくつかの機体に混じって、一際異彩を放つMSがハンガーに掛かっていた。
白をベースに、青と赤に塗り分けられた、ヒーローカラーの機体だ。
他に特徴を挙げるとすれば、ツインアイであることと、背中に巨大なキャノン砲を背負っていることだろう。
そしてそのコクピットには、一人の青年と彼を見守る数人の男たちの姿があった。
かちかちっ。
青年はやや荒っぽくコクピットのスイッチを叩いている。
物静かそうな顔立ちをしているが、眉間には皺が寄っていた。
・・・苛立っているようだ
「やっぱり駄目だな」
白いザフトの軍服をまとったキラ・ヤマトはスイッチと格闘することを止め、お手上げだと両手を広げた。
《ガーディアン》。
・・・キラが今乗っている機体のコードネームだ。
この秘密の地下工場で、クライン派が約三年かけて造らせていた新型モビルスーツ。
プラントとその頂点に立つラクス・クライン・・・。
その『守護者』たるキラ・ヤマトのために建造された、新型機だった。
そしてこれはフリーダム以上に複雑で制御が難しいため、補佐するシステムが組み込まれている。
《オプティマスシステム》と呼ばれていた。
「バルフォア博士、《オプティマス》だけはずすことはできないんですか?」
コクピットから出たキラは、男のうちの一人に声をかける。
白衣を着た40代くらいの男が、神経質そうに眼鏡のフレームをいじった。
「《オプティマス》を解除してしまうと、《ガーディアン》の機体性能が35パーセントしか生きません」
「でも、使えないシステムを組み込んだってしょうがないでしょう。これじゃあ起動させることすらできない」
「それはそうですが・・・」
バルフォアと呼ばれた男はフレームに爪を立てた。
すると、キラと同じく白服を着た鋭い目つきの男が口を開く。
「ヤマト隊長でも動かせないとなると・・・誰にもこれを扱うことは不可能でしょうな」
「モートン隊長・・・」
「やはりクライン議長のお考えには最初から無理があったのでは?いくら偉大な研究者とはいえ・・・ヒビキ博士でしたか?二十年以上前の人間が提唱した技術を元にプログラミングするなど・・・」
「ええ」
モートンの言葉に、キラは静かに頷く。
ラクスを弁護する言葉は出てこなかった。
「バルフォア博士はよくやってくれたと思いますよ」
「・・・ええ」
「それがこの結果なのですから、《オプティマス》は解除するかプログラミングを変更するしかありますまい」
「おい、お前!」
突然の爆発に目を白黒させていたヴィーノの耳に、鋭い声が突き刺さった。
「!」
振り替える間もなく衝撃が体を襲う。
左肩にじんわりと熱い感覚が広がった。
「・・・ッ」
いつの間にか体は倒れこんでいて、床が赤い血で濡れている。
自分が撃たれたと理解するのに時間が掛かった。
助けを求めようと口を開きかけるが、視界に入ってきた銃口に言葉を飲み込んだ。
ゴーグルで顔を覆った兵士が、ヴィーノの眉間へと狙いを定めている。
体が動かない。
・・・殺される!!
「ぐわぁっっ!」
だが。
まさに引き金を引こうとしていた兵士が、ヴィーノの見ている前で横に吹っ飛んだ。
「え・・・ええ?」
あまりの展開に唖然とするヴィーノだが、兵士がいた場所にチェーンにつられたカゴがぶれていることに気付く。
これが振り子のように振れて、見事兵士の体にクリーンヒットしたのだ。
カゴは人を乗せるためのものだから、こんな大きなものが当たれば吹っ飛ばされて当然だ。
というか、痛そうだ・・・同情してやるつもりは無かったが。
それにしても、どうしてこんなものが落ちて来たのだろう・・・しかも、襲撃犯の体に都合よく。
思わず上を見上げれば、階段の踊り場から見知らぬ少年が手招きしていた。
アカデミーの制服を着ている・・・彼に助けられたのか。
それにしてもアカデミーの生徒がどうしてこんなところに?
確かにここは校舎の地下だが、生徒は入り込めないよう上手く工夫されているはずだ。
そんなことをぐるぐる考えていたヴィーノだが、再び聞こえてきた銃声と悲鳴に我に返った。
考えるのは後だと階段に足をかけ、少年のいる場所まで登ろうとする。
だが。
「うっ・・・」
途中でがくりと膝をついてしまった。
失血のせいで力が入らない。
「おい、しっかりしろよ!」
ぱたぱたと軽い足音がして、誰かの影が覆いかぶさった。
あの生徒が、ヴィーノの横に立つ。
と、怪我をしていない方の肩を抱いて力任せに引っ張ってきた。
ヴィーノより年下で体も小さいくせに、力はあるようだ。
「頑張って!」
タクトは肩を血に染めている整備士を半ば担ぐ格好で階段を昇り始める。
見知らぬ場所に着いたと思えば、そこでは銃撃戦が繰り広げられていた。
演習ではあるまい。
実際、傍らにいる青年は血を流して死に掛けているのだから。
「どうして・・・平和なはずのプラントで殺し合いやってるんだよ・・・ッ」
青年整備士を助けたのは、幼い騎士道精神はもちろん、タクトがこの状況をはっきりとは理解していなかったからだ。
確かに目の前では銃弾が飛び交っていて、死に掛けている人間もここにいる。
だが自分の身にまで危機が迫っているかもしれないという可能性を、
本当の殺し合いを体験したことのない彼は無意識に除外していた。
「おい、あそこに誰かいるぞ!」
「うげっ!」
下の方での声に、タクトは喉をひくつかせた。
まだ大分離れているが、ゴーグルで目の部分を覆い隠した男たちが何人かこちらに近づいてくる。
・・・見つかった!
このままでは階段を上りきる前に撃ち殺されてしまう。
「え・・・と、隠れる場所・・・どっか隠れる場所は・・・」
おろおろと辺りを見回す。
と、タクトは整備士がいた場所と階段を挟んで反対側のところに何かがあることに気がついた。
「・・・あそこ!」
タクトは整備士の青年とともに踊り場からダイブしたのと。
銃声が響いたのは。
ほぼ同時だった。
どささ・・・っ!
「い・・・っってぇ!!」
失血のせいで気が遠くなりかけていたヴィーノだったが、体への衝撃で一気に意識がクリアになった。
撃たれた肩の傷がびりびりとしびれて飛び上がる。
ごんっ。
「・・・ッッ」
今度は頭をぶつけた。
かなり狭い場所のようだが・・・。
と、辺りを見回して唖然とする。
「え、ここって・・・《ガーディアン》のコクピットじゃないか!」
「へえ、このMS、《ガーディアン》って言うんだ。・・・ねえ、ちょっとどいて。閉めるから」
タクトはヴィーノを押しのけ、あるボタンを押した。
すると、エア音と共にハッチが閉まる。
もともと暗かったコクピットが、何も見えない暗闇になってしまった。
「な、何やってんだよ!」
「何って・・・開けたままじゃあいつらに捕まっちゃうじゃん」
「馬鹿!連中はこの機体が狙いなんだ。大体これは誰にも・・・」
まだふらふらする頭で必死に言葉を紡ぐヴィーノにかまわず、タクトは指で中を探る。
つい数分前までにらめっこしていたあの機械と造りはほぼ同じだった。
「電源・・・これかな?」
ぱちっ。
中心の画面がオンになった。
なにやらまくし立てていたヴィーノが口を閉ざす。
起動・・・した?
G ENERATION
U NSUBDUED
N UCLEAR
D RIVE
A SSAULT
M ODULE___COMPLEX
「どうやって・・・動かしたんだ?」
あのキラ・ヤマトでさえ動かせなかった、この《オプティマスシステム》を・・・。
「どうやってって、マニュアルどおりの場所に電源があるじゃない。誰だってできるよ」
「そうじゃなくて・・・」
「あ、あいつらが来た!」
カメラが次々にオンになっていく。
そこにあの襲撃犯たちが駆け寄ってくるのが映し出されていた。
「よし、動かそう!」
「はあ!?そんなことできるわけないだろ?」
「だってこのままじゃ捕まるじゃないか」
捕まるだけならまだいいが、間違いなくコクピットから引きずり出されて殺されるだろう。
だが・・・。
「だから、これはお前に扱えるシロモノじゃないんだって!」
「大丈夫。対戦シュミレーションじゃ連敗中だけど動かすくらいだったらできるよ。今日授業でもあったし」
「・・・」
ヴィーノはもはや返す言葉も無くタクトを見守るばかりだ。
一方のタクトは新しいおもちゃを見つけた子供のように、ぶつぶつ呟きながら操作を続ける。
「えーと、ここをこうして、こう・・・こうかっ」
「うわぁ!」
突然重力が移動した。
不自然な格好をしていたヴィーノが前の画面に顔面衝突しそうになる。
動かせる手でとっさにそれは阻止するものの、息をつくまもなく張り付いた画面に釘付けになった。
映し出される地面と、そこに置かれた物や人。
それらがゆっくりと遠ざかっていく・・・いや、これは・・・。
《ガーディアン》が、立ち上がっていた。
2010/01/01