PHASE-10「フロンティアの戦い




 〜side Jule team and Byakuya〜


 「敵影補足。オレンジ43、マーク2、チャーリー!」
 
 シグナルを拾って読み上げた通信士の声に、ちょうどブリッジに上がっていたイザークはじめクルーの顔に緊張が走った。
 《ヒュペリオン》艦内に、コンディションレッドがしかれる。
 「MSか?数は?」
 「MS確認。数は・・・9、10?・・・いいえ、これは・・・」
 熱源質量に、通信士の顔が凍りついた。
 「戦艦です。これは・・・《アークエンジェル》級!」


 C.E.79 3月16日。
 プラント制宙圏と地球連合制宙圏。
 

 「MS照合。数12になりました。うち三機はあの時の《セイバー》、《ガイア》、《アビス》です」
 「やはりこの間の連中か」
 苦い顔でつぶやいた艦長席のアランの横で、イザークも補足された敵をにらむ。
 アランや他のクルーと違って動揺こそ顔には浮かべないものの、アイスブルーに物騒な光を浮かべていた。
 「他の敵機は?」
 「《リゲル》と思われます」
 「・・・《リゲル》に《アークエンジェル》か」

 リゲルとは、ジュール隊のOZに当たる機体だ。
 パイロットのリュカたちはそれぞれに合ったカスマタイズを施し、ヒュペリオンカラーである青に塗装している。
 OZ《オズ》とはジュール隊《リゲル》のあだ名のようなもので、他の隊でもそれぞれの呼び名がある。
 それにしても、量産機とはいえ《リゲル》はプラントの最新鋭の部類にあたる機体だ。
 その《リゲル》をこれほどの数をそろえているとは・・・小規模なテロリストが保持できるとは思えない装備だ。
 後ろ盾があるとしか思えない。
 ではどこの?

 「《白夜》、か」
 二週間前に自分たちを攻撃し、部下を二人殺した連中。
 あれだけの戦闘能力、そしてこれだけの戦力を持っているにもかかわらず、
 まるで子供が作ったような幼稚な犯行声明を発表し、ラクス・クラインを批判したテロリスト。
 一体なんだ、このギャップは。
 何が目的で、またジュール隊を狙うのだろう。

 いや、今はそんなことを詮索している暇はない、か。
 イザークは頭の中で凝っていたものを振り払うかのように表情を引き締める。
 仮に再戦闘があったとしても、これほど早くしかも敵にあれほどの戦力があるとは想定していなかった・・・自分も、上層も。
 まだモートン率いる増援部隊は到着していない。
 自分たちだけでなんとかするしかないのだ。

 「今俺たちにはこのヒュペリオンとOZ《オズ》が5機、カスタム機が3機だ。頼みの綱の増援部隊の到着は、あと二時間だったな」
 「は、はい。先程定期連絡でそのように」
 「《デプスチャージ》シン・アスカ機と《ゼロワン》から《ゼロファイブ》、発進させろ。《ルージュウルフ》ルナマリア機は待機。
 それから、《シルバーボルト》もいつでも発進できるようにしておけ」
 《シルバーボルト》。
 その単語に、アランがはっとした顔で振り返る。
 シン・アスカとルナマリアがMS隊を任されるようになってからほとんど出番がなくなったイザークの専用機の名前だ。
 「隊長も出られるのですか?」
 アランの問いかけに、イザークはわざわざ視線を動かそうとはしなかった。

 「多分、そうなる」




 「あいつら・・・、性懲りもなく」
 《ゼロスリー》のコクピットの中で、赤いパイロットスーツを身にまとったリーゼが毒づく。
 《ヒュペリオン》から発進して広がった宇宙の先に、10を超える敵機が待っていた。
 そのうち、ほとんどは《リゲル》。
 呼び名が違うだけで、事実上自分たちのOZと同じ機体だ。
 ダークグレーにペイントされ、赤や青、黄色など、それぞれの色で縁取りされている。
 その中で、色も形も違う機体が三機、やや距離を置くようにしているのが見える。
 うち紫色の一機を認め、リーゼの胸に忘れえぬ屈辱が燃え上がった。
 《ガイア》・・・!
 「今度こそ、つぶしてやる!!」
 『やる気になってるのはいいけどさ、指示には従えよ?』
 いきり立つリーゼを沈めようかとするかのように、いつもの調子のいい声が響いた。
 コクピットのカメラに《ゼロワン》で同じく赤のリュカの顔が映し出される。
 リーゼが何だとにらみつければ、手振りでモニターを見ろと示してきた。
 言われた通りにすると、《ヒュペリオン》からのテキストが画面を走っている。
 「《ヒュペリオン》はこれより後退・・・友軍機は距離を保つべし・・・って、何だこれ!?」
 『あえて制宙圏に誘い込もうって言うんだろう。この戦力じゃ話になんないしな』
 「そんな馬鹿な!?あんな野蛮な連中をプラントの領域に入れるのかよ!任務放棄じゃないか。ジュール隊長は何を考えて・・・」
 一人で憤るリーゼに、リュカはじめ他のOZのパイロットたちはため息を吐く。
 すぐ後ろにはモートン隊をはじめとする増援部隊が来ているのだ。
 むしろそちらに誘い込んで一網打尽にするというイザークの思惑は少し頭を冷やせばすぐ思いつく。
 そう、冷やせれば、だが。
 「ふざけるな、僕は納得しないぞ!」
 《ゼロスリー》が急発進する。
 すでにカメラで確認できるほど近づいている敵機へと、彼は突っ込んだ。
 『リ、リーゼ!!』
 『この・・・お馬鹿!』
 リュカと《ゼロフォー》のミンシアが静止するが、《ゼロスリー》は止まらない。

 彼のライフルの砲火で戦闘がスタートした。

 敵機の砲火は当然《ゼロスリー》に集中する。
 「なめるな!!」
 《ゼロスリー》はシールドでそれを防ぎながら、強引に《リゲル》の一機に近づいた。
 そのままライフルを連射する。
 運良く敵のコクピットに命中し、その《リゲル》は爆散した。
 「・・・ッ、ざまあみろ!」
 リーゼはすぐさま機体を転換し、他の敵に向かう。
 そして、《リゲル》の向こうで紫色の《クラフト・ガイア》を見つけた。
 自分に恥をかかせた、あの憎らしい機体・・・!
 「ガイアァァぁーーー!!」

 
 
 「《ゼロスリー》、何をやっている・・・!?指示を見なかったのか?」
 一方の《ヒュペリオン》ブリッジ。
 飛び出したリーゼ機に副艦長が慌てて呼びかける。
 艦長のアランも顔をこわばらせ、イザークは頭痛でもするのか額を押さえていた。
 「《ヒュペリオン》から離れるな、聞いているのか《ゼロスリー》!!?応答しろ、《ゼロスリー》!リーゼ・エッシェンバッハ!!」
 「リーゼの奴、勝手な行動を・・・ッ」
 「昔の俺にそっくりで嫌になるな」
 「隊長!」
 「分かっている」
 イザークはアランほど取り乱してはいなかった。
 自分が命令を下すまでもなく、《デプスチャージ》が《ゼロスリー》のもとへと向かっている。
 リーゼに関しては、シンの腕前を頼みとするしかない。
 「予定より早いが、ルナマリア機を発進させろ。それから艦の後退速度、上げろ」
 「しかし、それでは・・・」
 「誘い込もうとしているのがばれても仕方ないさ。モートンたちが来る前にこっちが落とされる」
 「・・・は」
 「それから、《シルバーボルト》発進準備。俺も出る」
 「た、隊長」
 まさかこんなに早くブリッジを出られるとは思わなかったのか、アランが落ち着かない顔で席から立ち上がる。
 イザークがブリッジから離れるということは、事実上艦に関してはアランに全権が移るのだ。
 「あとは任せる。どうしようもなくなったら、収容できる機体だけ収容して全力で振り切れ。いいな?」
 
 


 とりあえず、ケイン、アントニア、ティモシーは《ゼロスリー》の猛攻を見学することにした。
 前回の《クラフト・ガイア》との戦闘で、あの機体のパイロットの能力に関してはほぼ把握できている。
 三人とも、《ゼロスリー》に関しては大した興味を抱かなかった。
 「あーあ。囲まれちゃったよ」
 ティモシーがそう言いながら笑う。
 《ゼロスリー》はこちらのリゲルを一機落とし、二機目も何とか戦闘不能にしたものの、残りの六機に囲まれてしまっていた。
 それなりに素早いようでちょこまか動いていたのだが、上下左右、そして後方を押さえられてしまってそのスピードも封じられている。
 「ここまでか」
 「やっぱり雑魚ね」
 ケインとアントニアも、B級の映画を無理矢理見せられたような重い息を吐き出した。

 だが。

 カメラの端を、ミサイルの軌道がかすめた。
 かと思うと、《リゲル》のうち二機が爆散する。
 ケインたちははっとして息を呑んだ。
 滑らかな動きで黒い機体《デプスチャージ》が泳いでいる。
 「出てきたぜ、黒いの!」
 《デプスチャージ》は猛スピードで残った《リゲル》に近づくと、さらに二機をビームナイフで切り裂いた。
 その鮮やかさに誰もが息を呑む。
 いくら機体性能がOZより上とはいえ、数値に出してみれば僅かな差だ。
 それなのに《デプスチャージ》は数秒の間にOZの同型機であるリゲルを四機も屠ってしまった。
 やはりパイロットのレベルが違う。

 「きたきた、黒いのぉ!」
 「《デプスチャージ》だってよ。誰がやる?」
 「あたしよ」
 「ずるい!俺もリベンジすんだからね!」
 「ティモシーは雑魚でも相手にしてて」
 言い合いを始めたアントニアとティモシーに、ケインは肩をすくめる。
 自分も《デプスチャージ》を相手にしたいが、この二人の喧嘩に割って入る気はない。
 早々にターゲットを移すことにした。

 「そっちは勝手にやれよ。俺は戦艦を落とす」
 ケインの言葉が合図だったかのように、《クラフト・ガイア》と《クラフト・アビス》は一斉射撃を浴びせる。
 一方の《クラフト・セイバー》はMA型になると、バーニアを全開にした。
 そのまま《デプスチャージ》とかばわれているゼロスリーの横を突っ切る。
 当然二機は撃ってきたが、「ひゃっほうーーーっ!」と一人で勝手に奇声を上げながら全弾かわした。
 《デプスチャージ》はさらに追いかけようとするが、競い合うように襲い掛かる《クラフト・ガイア》と《クラフト・アビス》の相手をせざるを得なくなる。
 《クラフト・セイバー》はあっという間に引き離し、蒼い戦艦へとたどり着いた。
 そこには戦艦と同じカラーの《オズ》たちがいる。
 《ゼロワン》と《ゼロファイブ》が長距離タイプ、《ゼロツー》は接近戦、《ゼロフォー》はオールラウンダーだったはずだ。

 《クラフト・セイバー》が射程距離内に入った途端、《ゼロワン》がキャノン砲を、そして《ゼロファイブ》が《オルトロス》を発射した。
 さらに左右を挟むように《ゼロツー》と《ゼロフォー》がビームサーベルとビームナイフを構え、しかもタイミングをずらして襲い掛かってくる。
 なるほど、訓練されている。
 《ゼロスリー》のパイロットだけ仲間はずれなのかどうかは知らないが他の四機は息が合っていた。
 腕もいい方だ・・・単機だけでも「白夜」の《リゲル》のトップと張り合えるだろうから、やはりこの隊は油断ならないと分かる。

 MS形態に戻った《クラフト・セイバー》は、ビームサーベルを構える。
 まず《ゼロツー》の攻撃をよけ、次に襲い掛かった《ゼロフォー》のコクピット部分に強烈な蹴りをくれてやった。
 そして・・・。
 「残念、とろいよ!」
 瞬時に機体を反転させ、近づいてきた《ゼロワン》の腕を切り落とした。
 意表をついたつもりかもしれないが、少々役不足だ。
 腕を落とされた《ゼロワン》をかばうようにして《ゼロファイブ》が《オルトロス》を構える。
 四対一だが、ケインは慌てる様子もない。
 このままでも勝てる自信はあるし、《デプスチャージ》に《リゲル》を四機も落とされているのだから、母艦の《バサラ》も控えの《リゲル》を全機出すはずだ。
 「さぁて、ここで引導を渡してやろうか。それとも《リゲル》の連中に譲るかな・・・?」
 必死なジュール隊に対し、そんな不謹慎な思案を始めた時。

 アラームが鳴り響いた。

 「何!!?」
 とっさに機体を滑らせる。
 するとぎりぎりのところをビームが走っていった。
 さすがのケインも一瞬胆を冷やす。
 フェイズシフト装甲だから一発では《クラフト・セイバー》は壊れないだろうが、だからといってまともに食らいたい熱量ではない。
 新たにレーダーに現れた機影に、ケインは唇を歪める。
 「遅れて登場か・・・赤いの」
 《ルージュウルフ》が、見慣れない無骨なバズーカを構えてこちらを狙っていた。
 素早く周囲を確認すれば、やはり追いついてきた友軍の《リゲル》がOZの四機と戦闘を始めている。
 《ゼロフォー》だけがしつこくこちらを攻撃してきているが、それくらいのハンデがあったほうがいいかもしれない。
 焦らずやれば勝てる相手だ。

 「援軍が来る前に、全滅させてやるよ!」

 ビームライフルと 背面のプラズマ収束ビーム砲を構えた《クラフト・セイバー》は、それらを《ルージュウルフ》へと向ける。
 対して向こうは艦上からバズーカを連射した。
 MSが扱うには少々高い火力だ。
 前回は接近戦を挑んできたが、今回は《ゼロフォー》と組んで砲撃に徹するつもりなのだろうか。
 それとも、他に何か狙いがあるのか。
 《クラフト・セイバー》は素早い動きで攻撃をよけ、《ルージュウルフ》と《ヒュペリオン》へと接近する。
 《ゼロフォー》は追いつけない。
 「やる気がないんなら・・・このままっ」
 《ルージュウルフ》も、《ヒュペリオン》も動かない。
 「おちろぉ・・・!!」
 
 ケインの声とほぼ同時に、再びアラームが鳴り響いた。
 熱源の急接近を示すレーダー。
 「!」
 コクピットのぎりぎりをビームサーベルの切っ先が霞め、焼かれたフレームが嫌な音を立てる。
 《ゼロフォー》の攻撃・・・ではない。
 機首に装備された機関砲をとっさに撃ちながら、続く攻撃を回避した。
 カメラの端に、見慣れない機体が映る。
 「もう一匹、いたのか・・・っ」
 おそらく、《ルージュウルフ》と一緒に発進して機会をうかがっていたのだろう。
 攻撃を回避することが出来たのは奇跡に近い。
 「・・・なめやがって」

 現れたのは、薙刀状の巨大槍を構えた真珠色の機体だった。
 


 〜side Takuto and Byakuya〜


 C.E.79 3月16日。
 ジュール隊管轄地へ向けて航行中の《セラフィム》。


 艦内放送で呼び出されたキラがブリッジに上がると、
 艦長のダコスタと《ジュピター》から通信を入れてきたモートンが何か話しているところだった。
 二人とも表情は険しく、ダコスタにいたっては唇が紫になっている。
 「あ、隊長!」
 メイリンの言葉に、ダコスタとモートンが言葉を切って視線を向けてきた。
 「何かあったの?」
 「先程ジュール隊より通信が。例のテログループと思われる敵からの攻撃を受けているそうです」
 言葉を突っ返させながらそう伝えたダコスタに、キラは黒い瞳をモートンに向けた。
 対するモートンは、いつも通り淡々とした様子だ。
 『これより我が隊はジュール隊の救援に向かいます。ヤマト隊は予定通りの速度で向かってください。
 もしもの時のためにクァトル小隊を残していきます』
 「それなら一緒に行った方がいいでしょう。一個中隊とはいえ、こちらも戦闘を想定した装備です」
 キラの訴えに、モートンはいいえと首を振った。
 「ヤマト隊が出るまでもないでしょう。テロリストは私の隊が食い止めます」
 「・・・」
 「そうですよ、モートン隊長にお任せしましょう」
 すかさずモートンに賛同したダコスタに、舌打ちしたいのを堪えた。
 自分がここに来るまでにそういった話をし終えていたのだろう。
 一体何様のつもりなのだ、こいつは。
 それでも苛立ちを隠し、離れていくモートン隊を見送る。
 ヤマト隊は、モートン隊の小隊の一つであるクァトル隊とともに予定通りの航路を進むことになった。
 ・・・これでは本当に修学旅行だ。 

 「敵の規模は?」
 ダコスタが落ち着いたのを見計らって、敵の様子を聞く。
 「はっきりとは分かりませんが、以前の倍以上のようです。アークエンジェル級も確認されています」
 「アークエンジェル?」
 キラは眉を跳ね上げた。
 アークエンジェル級は一番艦《アークエンジェル》と、この三番艦《セラフィム》以外は存在しないはずだ。
 現在アークエンジェル級はプラントのファクトリーの許可なしに製造できない・・・つまりはクライン派が独占しているブランドのようなものになっている。
 こちらの認識コードを持たないアークエンジェル級は存在しえないのだ。
 「見よう見まねで作ったんでしょう。きっと見せ掛けだけですよ」
 ダコスタが吐き捨てる。
 「・・・」
 椅子に座って考え込むキラにメイリンが近寄り、彼の手に自分の手を重ねた。
 が、キラにそのぬくもりは伝わってこなかった。



 一方、航行を続ける《セラフィム》の様子を伺う集団があった。
 フロンティア周辺でも特にデブリが多いこの宙域で身を隠し、
 《セラフィム》が接近してからはさらに念を入れて一機一機がミラージュコロイドを使っている。
 肉眼からもレーダーからも完全に姿を消した彼らは、コロイド粒子を使えるぎりぎりの時間になっても動かなかった。

 限界時間が一桁刻みになった時、ようやくレーダーを睨んでいた一人が全機に通信を繋ぐ。
 「予定ポイントに熱源到達。《セラフィム》です」
 「他には?」
 「ナスカ級2。モートン隊はかなり離れているようです」
 「・・・予定通りだな」
 ジェットは質の悪い画面の先に見える白い戦艦に、嘲笑を浮かべる。

 今頃ケインたちが多くない戦力でジュール隊とドンパチの最中だ。
 増援部隊の一部にその戦場への速度を上げさせること、密かに下った「特務」の遂行の舞台を作ること。
 それがケインたちの役目。
 そして、ジェットたちは・・・。

 『でも、自分には解せません』
 部下の一人がつぶやく。
 『どうしてボスは、ヤマト隊のみがここに取り残されることを見越していたのですか?モートン隊ということもありえたでしょう?』
 「・・・そうだな」
 ジェットは相槌は打ったものの、それ以上は話さなかった。
 時間があまりあるわけではない。
 ステルスミストはもう残り少ないのだ。
 ここに来るまでにかなり燃料を消費させている。
 さらに。
 いくらこちらに数があるといっても、相手はあの《フリーダム》。
 ジェットは仮面の下で静かに瞳を閉じると、すうっと深呼吸をする。
 そしてかっ、と相手を見据え、部下に命令を下した。
 「ミラージュコロイド機能解除、同時に《セラフィム》とナスカ級戦艦に一斉射撃!
 雑魚はどうでもいい!なんとしても《ガーディアン》を引っ張り出して、落とせ!!」





 突然の攻撃に、《セラフィム》とナスカ級戦艦は混乱した。
 放射台がまともに被弾し、派手な爆発を起こす。
 艦内が激しく揺れた。

 「何だ、どこからの攻撃だ!!?」
 「落ち着け!敵機を特定しろ!!」
 うろたえるクルーをダコスタが一喝する。
 だが、すぐにまた大きな衝撃が艦を揺らした。
 「きゃああっ」
 悲鳴を上げてよろけるメイリンをキラは慌てて抱きとめる。
 そして何かを感じ取ったのか、明らかに顔をこわばらせた。
 「上だ!」
 再び攻撃。
 アラートが鳴り響く。
 「どこからの攻撃か、確認急げ!」
 「インディゴ40からです!MS20!!」
 「20だと?」
 一個中隊並みの数だ。
 モートン隊所属のクァトル隊を合わせれば数では一応こちらが勝るものの・・・。
 ダコスタは舌打ちをする。
 モートン隊と離れたこの時を狙われるとは、なんてタイミングが悪い!
 これならキラの訴え通り、戦場についていくのだったと後悔するが遅すぎる。
 
 「《フリーダム》で出る」
 キラの言葉に、ブリッジから安堵の息が漏れた。
 フリーダムは最強だ。
 キラとフリーダムさえあれば、テロリストなど一ひねりだろう。
 だが、ブリッジを出ようとしたキラをダコスタが呼び止めた。
 「隊長、《ガーディアン》も出します」
 「あの子まで?こんな状況で?」
 「こんな状況だからこそです。この艦は沈むかもしれません。それでも《ガーディアン》だけは守らなくては・・・」
 キラは不愉快そうに顔を歪める。
 この艦の全員の命よりも、《ガーディアン》か。
 忠誠心か、それとも・・・。

 「じゃあ、勝手にすれば?」



 「え、僕も出るの?」
 「そういう命令だ」
 タクトの代わりにパスコードを打ち込んでやりながら、ヴィーノはそっけなく応えた。
 他の整備士たちは艦が正体不明の敵に攻撃されたことを知るや慌てふためいて右往左往しているというのに、
 ヴィーノだけはいつもの落ち着いた様子を保っている。
 対するタクトはコンディション・レッドの発令でとりあえずパイロットスーツに着替えたものの、まさか出撃命令が下るとは思っていなかったのか慌てるというよりは、ぽかんと呆けていた。
 「何ぼうっとしてるんだよ?ヘルメットは?」
 「も、持ってるよ!」
 「じゃあ早くかぶって乗れよ」
 「・・・」
 「びびってるのか?」
 「そ、そんなこと・・・っ」
 タクトは思わず言い返すが、ヴィーノの顔つきがからかうそれではないことに気付いて言葉を飲み込んだ。

 ヴィーノはいつもタクトの一歩先を見ている気がする。
 怒らせてしまったこともあるけれど、でもそれとなく気を回してくれたり、助言をしてくれたり。
 何だかタクトを見ながら遠くにいる別の誰かを見ているようだ。
 きっと今も、突然の出撃命令に呆然としているタクトの心情が手に取るように分かってしまうのだろう。
 ・・・そんな気がする。

 「怖くて当たり前だよ」
 「・・・」
 「お前にはいくらなんでも早すぎる」
 「・・・」
 「MSに乗れるってだけで・・・」
 「・・・」
 ふっと瞳を緩めたヴィーノが、くしゃりとタクトの茶色の頭をかき混ぜた。
 「別に戦う必要なんてない」
 「・・・ヴィーノ」
 「生きて戻ってさえくれば、それでいいんだよ」


 
 コクピットの中で、淡い緑に発光する画面が文字を並べる。
 一つ一つそれを確認しながら、大きく深呼吸をした。
 『《ガーディアン》、発進位置へ。カタパルト接続。システム、オールグリーン』
 レバーを握る手が僅かに震えている。
 怯えるな、自分に言い聞かせる。
 外に出るだけだ。
 腕がヘボな自分は逃げまくっていればいい。
 このMSを守ることだけ考えればいいのだ。
 『進路クリア』
  ―――生きて戻ってさえくれば、それでいいんだよ。
  『《ガーディアン》発進、どうぞ!』
 《ガーディアン》を守って、生きて・・・帰る!


 「タクト・キサラギ、《ガーディアン》、行きます!!」




 〜side Takuto〜



 《ストライクフリーダムガンダム》。
 キラ・ヤマトにしか扱えぬ、プラントの自由と正義の剣。
 背中の8枚のウィングを広げ、星空を舞う。
 
 フリーダムの背中からドラグーンが排出され、ビームが雨のように敵へと降り注ぐ。
 それは恐ろしいほどの正確さを持って、相手のMSのアイカメラ、あるいは手にしている武器を直撃した。
 《ガーディアン》で出たタクトも、その鮮やかな射撃を目の当たりにする。
 やはり、キラはすごい。
 一瞬で敵を戦闘不能にしてしまった。
 しかも、死人を出さずに。

 ふと、別れたばかりのヴィーノの顔が思い浮かんだ。
 何故か、「生きて帰れ」と言ってくれたことではなく、《セラフィム》で再会した時のことが思い浮かぶ。
 ―――お前ら観客にとっては・・・。
 あの時、ヴィーノは怒ってしまったのだっけ。
 どうして喧嘩したあの場面を思い出してしまったのだろう。

 違うよ、ヴィーノ。
 ほら・・・キラ様は正しいことをしているじゃないか。
 誰も傷つけずに勝利を得て、プラントを守っている。
 誰も。

 誰も・・・。

 『この・・・テロリストがぁ!!』
 そう叫んだ声の主は誰なのか、タクトには分からなかった。
 フリーダムに攻撃され、無重力をさまよう敵の《リゲル》。
 動けないもの、あるいは動けても視界が得られないためにもがくもの・・・そこへ、容赦ない攻撃。
 攻撃したのは・・・。
 「友軍?」
 《ベガ》・・・ヤマト隊のMSだった。
 それが戦闘不能になった敵の《リゲル》に次々と群がり、キラがせっかく救った命を屠っていく。
 
 やめろ・・・!
 
 その言葉は、タクトの喉に張り付いて出てこなかった。
 ヴィーノの顔と言葉が再び脳裏によみがえる。
 ―――お前ら観客にとっては・・・。
 五年前の大戦の際、自分は戦場をテレビを通して観戦し、一喜一憂する観客だった。
 そして、今は・・・。
 今は?

 はっと気が付いたとき、《ガーディアン》のカメラは一機の《リゲル》を捕らえていた。
 それほど離れていない、ライフルの射程距離内・・・タクトの腕でも、十分しとめられる。
 撃つのか?
 レバーを握る手が震えた。
 撃つ・・・?殺す?
 そんな馬鹿な、だって、だって・・・。
 相手はまだ生きている。
 《リゲル》は頭部を打ち抜かれていた。
 パイロットがコクピットから這い出て、逃げようとするのが分かる。
 顔までは判別できなかったが、ずいぶんと小柄なパイロットだ。
 タクトとそれほど歳は違わないか、もしかしたら女性かもしれない。
 だめだ、殺せない。
 自分は平和の為にここにいるのに。
 キラの手伝いをする為にいる。
 敵とはいえ、一つでも多くの命を救おうとするキラ・ヤマトの意思に同意して、いる。
 だから・・・。

 かっ、と。

 光がほとばしった。
 「!!!」
 あちこちでも同じような光と火花が飛び交っているのに、タクトはなぜかそこから目が離れなかった。
 別方向からの友軍機のビームが、あの《リゲル》を打ち抜いたのだ。
 いや、リゲルではない・・・パイロットが狙われた。
 タクトの目の前で、あの小柄なリゲルのパイロットの身体が一瞬にして蒸発する。
 びくり、とタクトの体が痙攣した。
 まるで。
 タクトこそがその攻撃を身に受けたかのようだった。
 「あ・・・あ・・・」
 
 それが。
 綺麗だと思っていた箱庭の中で起こったこと。
 タクト・キサラギが初めて目の当たりにした戦場と、人の死だった。



 
 戦争の現実を突きつけられたタクトは、ただただ放心していた。
 戦争は嫌なもの。
 漠然とそう思ってきた。
 だが、本当は違う。
 嫌とか、そういうレベルではないのだ。
 自分はそれを頭では知っていたはずなのに、受け入れる覚悟もなしに飛び込んだ。
 こうなることは・・・こんな経験をすることはあって然るべきだったのに。


 ・・・どれほど呆けていたのか分からない。
 ものすごく長かったのかもしれないし、瞬きするほどの時間だったのかもしれない。

 ピッ。

 コクピットの、いつもの何でもない電子音。
 同じ音量のそれが、タクトの鼓膜を突き破った。
 はっと意識を引き戻す。
 目の前に、見慣れぬ機体があった。
 「・・・!!」
 ライトブルーに塗装された機体・・・敵?・・・ガンダム!?
 よけなきゃっ!
 あの《リゲル》のパイロットのように殺される!!
 
 ピピッ。

 突然モニターが切り替わった。
 無論タクトにそんなことを気にしていられる余裕はなかったが、プログラミング画面に切り替わったそれが二秒ほど続く。
 高速で0と1の数字が踊っていた。
 ピッ。

 《コンプリート》。

 タクトはレバーを引く。
 だがその時には相手はすでにライフルの引き金に手をかけていた。
 距離が近すぎる・・・さけられない!
 レバーを引き切って、タクトは息を詰めた。

 死ぬ・・・!

 だが。
 ぐるり、と全てのカメラの映像が回転した。
 同時にライトブルーの姿も遠くなり、タクトはきょとんとする。
 「え、えっと・・・うわっ!」
 ピピッ。
 5回転半くらいしたところでようやく《ガーディアン》を安定させることができた。
 見ればあれだけ近かったはずのライトブルーの機体との距離が、射程距離ぎりぎりまで離れている。
 「ど、どういう・・・」
 まだ完全に慣れていないとはいえ、《ガーディアン》に乗るようになってからそのスピードや癖はいくらか知っているつもりだ。
 今もレバーを引けばどれほどの速度でどれほどの回避ができるかも、タクトは体にしみつけている。
 だからこそ、あの瞬間死を覚悟したのだ。
 「あん・・・な・・・」
 いくら最新鋭機だからといって、あんな回避ができるはずがないのに。

 タクトは震えた。
 これは・・・何だ?
 今自分が乗っているこの機体は何なのだ?
 人死にを見た先程のものとは、また別の震えだった。




 〜side Takuto〜



 ジェットは舌打ちをすると、《ガーディアン》に近づきながらライフルを連射した。
 まさか、あの距離で仕留め損なうとは。
 「あれに乗っているのはナチュラルの子供だと聞いていたのに・・・よけたのはまぐれか?」
 鮮やかな回避だった。
 とても人間業とは思えない。
 ・・・あるいは、噂の《オプティマスシステム》かもしれない。
 ともあれ大事な部下が《フリーダム》の的になってくれているのだ。
 なんとしても特務・・・「《ガーディアン》の破壊」を決行しなくてはならない。
 改めて見れば先程とはうって変わり、《ガーディアン》の動きはぎこちなくなっていた。
 こちらのライフルでの砲撃はシールドで何とか防いでいるものの、それだけで手一杯という感じがする。
 「《フリーダム》がお守りできないところまで引き離してやる!」
 ジェットは《クラフト・カオス》の《ファイヤーフライ》をパージした。
 
 

 戦局はヤマト隊に有利だった。
 ほぼ《フリーダム》の孤軍奮闘だったが・・・。
 《ベガ》は艦に張り付き、《フリーダム》の攻撃で戦闘不能になった敵機を狙い撃ちしているだけだ。
 ダコスタはあまりの情けなさに息を吐く。
 シュミレーションや演習で何度もフォーメーションを組ませたりしているのに、この様は何だ。
 いや、演習しかしたことがないからこそ、この状況に浮き足立っているのかもしれない。
 ともあれこの戦闘が終わったら反省会決定だ。
 
 そんなことを考えていたダコスタに、思わぬ報告がもたらされた。
 「艦長、《ガーディアン》との距離1500!さらに離れて行きます」
 「何だと!?」
 メイリンの言葉に、ダコスタは青くなる。
 このまま見失うわけにはいかない。
 ダコスタはメイリンのインカムを奪い取ると、《ガーディアン》に呼びかける。
 「《ガーディアン》!艦からあまり離れるな!漂流するぞ!!?」
 『・・・って、・・・す・・・・・・ガガッ、こいつが・・・・・・・・・・て、ガガガッ、ビーッッ』
 「《ガーディアン》?聞こえないぞ。戻れ《ガーディアン》、タクト・キサラギ!!」
 しかし相手から帰ってくるのは雑音ばかりだった。
 「か、艦長・・・ッ」
 「《フリーダム》に、ヤマト隊長に繋げ!《ガーディアン》の援護はあの人の仕事だ!!」
 


 「あの子が?」
 《セラフィム》からの通信に、キラは眉を寄せた。
 そういえば、敵を戦闘不能にすることに夢中で《ガーディアン》のことを忘れていた。
 ・・・いや、完全に忘れていたわけではないが《ベガ》たちと同じように艦に張り付いているものと安心しきっていたのだ。
 まったく、世話の焼ける・・・。
 『おそらく、最初から《ガーディアン》を狙っていたんです。隊長、早く追いかけてください!』
 「あの子を出撃させたのは君でしょ?」
 『分かってます、私が悪かったですから。早く追いかけて!ラクス様に面目立ちません』
 「・・・」
 とことんラクス様か・・・。
 からかうのも馬鹿らしくなり、キラはマルチロックオンシステムを解除した。
 レーダーを睨んで《ガーディアン》を探す。
 ・・・が、それらしきものがレーダーにもカメラにも映らない。
 「《セラフィム》・・・メイリン、《ガーディアン》の位置は?」
 仕方なくセラフィムに確認すれば、とんでもない答えが返ってきた。
 『《フリーダム》より、イエロー8、マーク1、アルファ、距離2100です』
 「に、2900!?どうしてそんなに遠くに行くまで放っておいたの!?」
 射程距離内どころではない。
 さすがに青くなったキラは《ガーディアン》を追いかけるべく、言われた場所へと《フリーダム》を向けようとする。
 だが。
 「!!」

 ジャッッ!

 背後から迫ってきた「何か」が、方向転換しようとしていた《フリーダム》を襲う。
 キラはそれが直撃する前に感じ取り、とっさに翼を畳むと機体を縦に捻った。
 ほんの一瞬の出来事だったが、フリーダムは人間業とは思えないほどの超反応で攻撃をよける。
 通り過ぎたのは、ビーム刃を携えたブーメランだった。

 『よ、よけるなんて・・・っ、畜生!』
 無線をオープンにしていたのか、スピーカーから僅かに声が聞こえてくる。
 見ればブーメランが向かってきた方向に《リゲル》がいた。
 数少なくなった敵の一機だ。
 『よくも仲間をーーー!!』
 《リゲル》のパイロットは諦める気がないのかさらに詰め寄ってくる。
 相手にしている暇はないというのに・・・。
 だが背を向けて逃げるには距離が近すぎた。
 キラは一瞬の判断で、サーベルを手に相手に向かう。
 『うぉぉぉーーーッッ!!』
 開きっぱなしの相手の無線からパイロットの雄叫びが聞こえ、キラの苛立ちを助長した。
 攻撃してきたのはそっちだろうが。 
 「やめてよね!!」




 「う、うわ・・・!何だこれ!!」
 タクトは初めて対峙するドラグーン使用のMSに完全に翻弄されていた。
 正面をよけたと思えば今度は右から、次は下・・・360度からの攻撃だ。
 いや、違う。
 背面からは攻撃されていない。
 むろんそれは敵の狙いだったのだが、被弾が怖いタクトはどんどん後退する。
 艦長からの通信で、艦から引き離す為の罠だと気づいても、打開策が見出せない。

 どう・・・っ!

 「わあっぁあっ!」
 とうとう着弾してしまった。
 足の部分を掠っただけだったものの、タクトに死の恐怖を煽るには充分だった。
 「は・・・、はっ、はっ・・・」
 息が荒くなる。
 胃が競り上がってくるような感覚に眩暈がした。
 でも気を失う暇は無い。
 ライトブルーの《カオス》は迫ってきている。
 
 もっと操縦が上手ければいいのに。
 キラほどでなくていい。
 せめて自分の身を守れるほどに。
 もっと。
 もっともっともっともっと・・・!
 
 ピッ。

 再びモニターが切り替わった。
 今度はタクトもはっきりと見る。
 何か・・・スイッチが入った。

 「・・・あのポッド!」
 タクトの意思を読み取ったかのように、射撃標準画面が下りる。
 六問のプラズマビームキャノン《アーセナル》が《ファイヤーフライ》をロックした。
 「行けッ!」
 ビームが幾筋も発射される。
 細かく動く《ファイアーフライ》はほとんど回避するが、うち一つにビームがかすった。
 上手いこと推進剤を巻き込むことが出来たのか、一つが爆散する。
 「よしっ」
 できる。
 自分にも、この機体は扱える!
 
 一方、《クラフト・カオス》のジェットは、再び動きが良くなったガーディアンに舌打ちしていた。
 「しつこい・・・!」
 《クラフト・カオス》は高い火力が特徴だが、「今の」《ガーディアン》相手ではその点でもいささか分が悪い。
 しかも向こうには《フリーダム》と同じマルチロックオンシステムがあるはず。
 「それなら!」
 ジェットは残り二つとなった《ファイアーフライ》を収納すると、ビームサーベルを取り出す。
 胸部のCIWSを発射しながら、接近戦に持ち込むために一気に近づいた。

 「うわ・・・ッッ、きたぁ!!」
 肉薄してきた《クラフト・カオス》に、タクトはぎょっとする。
 もう《セラフィム》と通信が交わせないほど離れているということは頭になかった。
 目の前の敵を相手にするだけで手一杯だ。
 「うわっ、うわぁっっ」
 こちらを狙うビームサーベルが何度も機体をかすめ、粒子が散る。
 タクトの頭には対処法が思いつかず、逃げの一手になってしまった。
 《カオス》の攻撃は上から、横から、斜めから来たと思えば突き。
 全く休みがない。
 「・・・ッ、うあっ!」
 斜めからキック。
 これもかわす・・・が、続けざまにサーベルが一閃して脚部を深くえぐった。
 「!!」
 機体損傷としては致命傷ではないものの、素人のタクトを動揺させるには充分。
 《ガーディアン》は明らかに動きが鈍くなる。
 
 今しかない!
 ジェットは、ビームサーベルを持っているのとは別の手でライフルを投げつけた。
 至近距離からの思わぬ飛び道具を、ガーディアンはシールドではじく。
 そして。
 ガーディアンに出来た大きな隙を、ジェットは見逃さなかった。
 「くらえ!」
 ビームサーベルを下から上へ、斜めに大きく振り切る・・・!

 斬!

 「は・・・っ、はぁっ、・・・あ、あぶな・・・ッッ」
 コクピットの中で荒い息をしながら、タクトは震え続けていた。
 カメラに映る《ガーディアン》の右のアームが黒くなり、手首の少し上あたりから千切れている。
 右手でサーベルを受け止めた・・・というかビームの先から柄の部分まで縦に『掴んだ』ため、焼き切れてしまったのだ。
 今のは本当に危なかった。
 とっさの行動は自分の腕なのか、それとも《オプティマスシステム》のおかげなのか、もう判断が出来ない。
 ビームがはじけ、装甲を溶かすのを見たときは本気で死ぬのかと思った。
 死ぬ?
 殺される?
 どうしてこんな奴なんかに?
 「何でこいつ、こんなにしつこいんだッッ」
 恐怖を通り越した瞬間、タクトの中で敵に対する怒りがふつふつと湧き上がってきた。
 第一彼には、相手の狙いが最初から《ガーディアン》だということなど知りようもない。
  サーベルが使い物にならなくなった《クラフト・カオス》が素早くMA型に変形する。
 高出力の複相ビーム砲がこちらに向けられていた。
 「ああ、もうっ」
 タクトは残ったアームをかざす。
 今度こそ、シールドが付いている方を。
 シールドを覆うようにビームが展開する。
 同時に。
 《クラフト・カオス》のビーム砲《カリドゥス改》が発射される。
 かなりの至近距離。
 それが何を意味するのか、頭に血が上っていたタクトには分からなかった。

 半瞬後。
 白い闇が意識を襲った。





 〜side Jule team and Byakuya〜



 「ガイアァァッ!」

 リーゼは何とか《クラフト・ガイア》に組み付こうとする。
 が、目の前をビームが行く筋も通り過ぎて動きを止めざるを得なかった。
 「くっ」
 《クラフト・アビス》の砲撃で近づけない。
 砲撃される範囲が広いので、動く場所も限られる。
 リーゼの《ゼロスリー》がもたもたしている間に、《クラフト・ガイア》はライフルを撃ちながら斜めに滑った。
 『リーゼ、飛び出すな』
 「で、でもっ」
 《デプスチャージ》のシンの言葉に、さらにリーゼの気が急く。
 『このまま後退するんだ』
 「嫌です!」
 《ガイア》に一矢報いずに終わってたまるか!
 その時、《クラフト・ガイア》が動いた。
 ライフルとは別の手にビームサーベルを握り、接近してくる。
 接近戦に持ち込む気か!
 リーゼも《テンペスト》のビーム刃を展開させる。
 『リーゼ!!』
 それにシンが気付くが、《ゼロスリー》はすでに《ガイア》へと向かっていた。
 アビスは《デプスチャージ》を挟んだ向こう側…今度は邪魔されない。

 「うおぉおぉぉぉぉーーーーっっ!」

 両肩のマシンガンを連射しながら距離を詰める。
 《ガイア》はこちらに気付いているだろうに減速せず、一気に間が縮まった。
 《ゼロスリー》が《テンペスト》を縦に一閃する。
 「・・・!」
 手ごたえが、ない。
 目の前にいたはずの《ガイア》が消えている。
 「後ろ!?」
 《ゼロスリー》の隙のありすぎる攻撃を、《クラフト・ガイア》はよけると同時に背後に滑り込んでいた。
 後ろを取られたリーゼはとっさに反応することができない。
 相手のサーベルがこちらに振り下ろされることが分かっていても、動くことが出来なかった。
 ―――殺られる…!!

 突き抜けるような衝撃が体を襲い、そのままリーゼは気を失った。




 白い機体が真横を通り抜け、同時に襲った衝撃にケインは唇をかんだ。
 攻撃してきたザフトの機体《シルバーボルト》は驚異的なスピードで旋回し、《クラフト・セイバー》を追い詰める。
 「速過ぎだろ、あれ!」
 シルバーボルトは手にしている大型武器の《コッカトリス》からビームブレードを展開。
 前面に急接近し、真横に一閃。
 何とかシールドで受け止めるも、《セイバー》は勢いでかなり遠くまで飛ばされる。
 すかさず《ルージュウルフ》の砲撃にさらされ、目が回りそうだ。
 「ちぃっ…」
 …手ごわい。
 相手がスピード重視となれば距離を置く方法もあるが、それでは《ルージュウルフ》と《ヒュペリオン》の砲台の餌食だ。

 「やっぱり、接近戦しかないか」
 まずは、この状況から抜け出す。
 ケインは《クラフト・セイバー》をMA型にすると、そのまま《シルバーボルト》の方へと向かった。
 猛スピードで直進する。
 「いけぇぇえええーーー!!!」
 当然相手は撃ってくる。
 それでも《クラフト・セイバー》はリニアガンの雨を潜り抜け、その横を突っ切った。
 そして一回転してまたMS型に戻る。
 これで後ろからの《ヒュペリオン》と《ルージュウルフ》の攻撃を危惧しないで済む。
 ケインは《セイバー》のビーム砲を展開させた。
 「一対一なら・・・!!」

 ビーム砲を連射する。
 腰のリニアガン以外の飛び道具を装備していない《シルバーボルト》は、思った通り接近戦を仕掛けてきた。
 両手にしている薙刀を振り上げる。
 「…っ!!」
 今度は縦からの一閃。
 見切ってはいたものの、先程よりまた重くなった衝撃に息をつめた。
 このスピードで、この攻撃力…!?
 「冗談じゃねぇ!!」
 そんな摂理を無視した機体なんて、《ストライクフリーダム》だけで充分だ。
 もうシールドはぼろぼろだった。

 ガンッ、ガンッ、ガイィンッ!

 それでも繰り出される相手の攻撃をケインは受け止め続ける。
 シルバーボルトがまた距離を開こうとしても、なるべく追いすがった。
 隙を見ては己のビームサーベルを突き出す。
 そうして、ケインはあることに気付いた。
 「こいつ…」
 機体そのものスピードは格別、あの薙刀状の武器からの攻撃力もかなりのものだが、その攻撃と攻撃の間には大きな隙がある。
 考えてみれば簡単なことだ。
 あれだけリーチが長く、しかも巨大な武器を振り回しているのだから。
 ガツッッ!!
 今度は斜め下から上へ。
 とうとう《セイバー》のシールドが砕け、無残な姿になる。
 しかしそれが幸いし、《シルバーボルト》のコクピットがすぐ正面にあった。
 ―――やれる!!

 「死んじまえぇぇぇえええぇーーー!!」
 躊躇なく、展開させたビームサーベルをコクピットへ突き出した。

 ゴッ…!!

 「…ッッ」
 《クラフト・セイバー》のサーベルが完全に《シルバーボルト》のコクピットを捕らえていると確信していたケインは、しかしそれを見ることは出来なかった。
 機体全体に何か重いものがのしかかったかと思うと、アイカメラの三分の一が歪んでブラックアウトする。
 「うわぁああっ!」
 被弾と思わしき衝撃に、ケインは機体を後退させた。
 生きているカメラを見れば、《シルバーボルト》は無傷でそこにいる。
 「こ、こいつ…蹴りいれやがったのか?」
 こちらが隙を見つけてコクピットを突いてくることすらお見通しで、
 その上でサーベルを持っていたアームを蹴り上げ、リニアガンをお見舞いしてくれたらしい。
 完全に子ども扱いだ。
 「…ちくしょうっ」
 ケインの悪態をかき消すかのように、ビーム砲やライフルが別方向から降ってくる。
 こちらに追いすがってきた《ルージュウルフ》と《OZ-04(ゼロフォー)》だ。
 《シルバーボルト》はこれ以上追いかける気はないのか動かない。
 それすらケインには腹立たしかったが、もうどうすることも出来なかった。
 MA型になって離脱を図る。

 敵の砲弾をかわしつつ、白い機体を網膜に焼き付けた。
 「…覚えとくぜ」
 
 
 
 アントニアは愕然とする。
 いつでも、どんな状況でも自分は冷静な判断を下すことが出来るという自信があったが、この時ばかりは起こったことに意識を追いつかせることが出来なかった。
 《ゼロスリー》の隙だらけの攻撃をよけ、そのまま背後に回ってコクピットにビームサーベルをお見舞いしてやるつもりだったのに。
 それなのに。
 「!!」
 カメラに黒い影が過ぎり、なぎ払われたビームナイフの切っ先をぎりぎりでよける。
 相手はさらにライフルを撃とうとし、アントニアはシールドを構える。
 ―――まずい!
 が、上方から自分と敵機…《デプスチャージ》の間に幕を張るような砲撃が横切った。
 「ティモシー!」
 『アントニア、大丈夫か!?』
 《クラフト・アビス》のティモシーが横に着く。
 「ティモシー、あんたが《デプスチャージ》の相手をしてたんじゃないの?」
 助けてもらったというのに、ティモシーへの言葉はつい尖ったものになってしまった。
 別に彼がデプスチャージを引き受けるとかそんな約束をしたわけではない。
 しかし…。
 アントニアがビームサーベルを持っていた方のアームは、肘の間接部分から切り落とされていた。
 サーベルを《ゼロスリー》に振り下ろす直前、《デプスチャージ》に切り落とされたのだ。
 《クラフト・アビス》と対峙していたはずなのに…瞬時にここまで移動して、しかも攻撃して友軍機をかばってみせた。

 『お、俺も驚いたよー。アイツ早いんだもん。い…いや、スピード自体は普通って言うかなんていうか…』
 ティモシーも先程までの余裕が消え去っている。
 《デプスチャージ》の能力…いや、操縦しているパイロットの能力は想像以上のようだ。
 すべき行動を的確に判断し、切り替えが早い。
 まるで中には人間ではなくロボットでも入っているのではないかと疑ってしまう。 
 アントニアはぞっとしたものを感じながらも、冷静に対処しようとした。
 落ち着け、落ち着け…。
 《ゼロスリー》のパイロットは気絶でもしているのか先程の元気が嘘のように沈黙している。
 あちらは一機、こちらは二機だ。
 大丈夫、こちらが有利・・・。
 『来た!!』 
 《デプスチャージ》がライフルを撃ちながら接近してくる。
 接近…。
 「さっきと同じビームナイフ…?」
 アントニアは《クラフト・ガイア》のシールドを構えつつ、ビーム砲を発射する。
 《クラフト・アビス》も両肩シールド内の砲を全開にして攻撃するが、《デプスチャージ》はスピードを落とさない。
 『う、嘘ッ』

 ドォンッッ!!

 《デプスチャージ》は《ガイア》のシールドに向けて体当たりした。
 「え…きゃあぁぁあああっ!!」
 《デプスチャージ》はもともとそれ以外の攻撃をするつもりがなかったのか、スピードを殺さず押し切る。
 対して想像だにしない攻撃と衝撃に、アントニアは意識を手放しかけた。
 「…ぐぁあっ」
 『アントニア!!』
 ぎりぎりのところで意識を引き上げると同時に、《デプスチャージ》がレールガンを撃ちながら後退していく。
 《クラフト・アビス》がようやく追いすがり、《ガイア》をかばってシールドでそれを受けた。

 「ち、ちくしょう・・・!」
 『アントニア、もう駄目だ!』
 くらくらする頭でそれでもアントニアは後退した《デプスチャージ》を追いかけようとするが、ティモシーに止められる。
 《デプスチャージ》は沈黙したままの《ゼロスリー》を抱えると、こちらを牽制しつつ離脱を始めた。
 「…!」
 『アントニア!』
 行動を起こす前にティモシーに一喝されてしまった。
 《白夜》の仲間の機体も離脱を始めている。
 リーダーであるケインの《クラフト・セイバー》も母艦に向かっているようだ。
 『ここまでみたいだよ』
 「…分かったわ」
 母艦《バサラ》へと促す《クラフト・アビス》に、アントニアはおとなしく従う。

 青い瞳をぎらつかせたまま・・・。



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2010/01/01