PHASE-22「引き裂かれるもの」(後編)
C.E.79 4月11日 1550時。ヤマト隊旗艦《セラフィム》。
貼り付けていた偽のナンバープレートを処理し、トラックを適当に紛れ込ませたヴィーノは何食わぬ顔で待機室に戻った。
すると何人かの同僚が真剣な顔をしてウィンドウに見入っている。
またラクス・クライン絡みで何かあったのだろうか。
そんなことを思いながら、何気なしにウィンドウへと視線を向けて…そして固まった。
「な…なん、で!?」
そこに映し出されていたのは、自分が今さっき見送って来たばかりの《ヒュペリオン》だったからだ。
画面端の『LIVE』の表示から、それが生中継だと言うことが分かる。
宇宙港からさほど離れていない場所で、後方からのいくつもの銃弾とビーム砲の嵐に晒されていた。
イザークが逃げ出したことがばれた?
そんな馬鹿な!
とにかく情報を得なければと傍にいた同僚の肩を掴む。
「ちょ、ちょっと!これ、どうなってるんだ!?」
「良くは分かんねーけどジュール隊が軍から逃亡しようとしてるって」
「逃亡!?」
唖然とする。
しかしウィンドウの下の部分を指差されれて見れば、確かにテロップに『逃亡』の文字が紛れていた。
逃亡なんて、ありえない。
ジュール隊は決められた時刻に命令された任務へ向かうために港を出たのだ。
それではあらかじめ、出航した時点で《ヒュペリオン》は攻撃され、抹消されるはずだったのか?
いや、よく見ればジュール隊は上手く逃げているように見える。
というか、追う方の手際があまり良くない…急遽決まった襲撃だ。
やはり理由はイザークの存在か。
だが手引きしたのがヴィーノであるとばれた様子はない。
ということは。
「ジュール隊に、裏切り者がいる」
イザークが《ヒュペリオン》に戻ることを知った隊員の誰かが、モートンにその情報を流したのだ。
ヴィーノに手がかかっていないところを見ると、イザークが戻った時点ですでにその裏切り者は艦を出ていたのだろう。
モートンがジュール隊を放ったままにするはずはないと思ってはいたが、自分の行為は結果的にその時期を早めてしまった。
ヴィーノはぎりっ、と奥歯を噛み締める。
「シン…ルナマリアッ」
数十分前に別れたばかりの旧友の顔を思い浮かべ、無事に逃げ切ってくれることを願うしかなかった。
その20分ほど前。《ヒュペリオン》。
「だぁぁあぁああーーーっっ!!隊長がいるのバレバレかよ!?」
「みたいね」
無線から繰り返し流される艦を制止せよという警告に、リュカは頭をかきむしっていた。
ルナマリアは額を押さえ、シンとアランも苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あの…艦長」
「応答するな。そのまま前進」
「し、しかし」
まだ状況が飲み込めていないブリッジクルーは警備隊の警告を無視する上司に困惑顔だ。
だがヴィーノの情報が正しければ、ここで警告に従ったが最後、全員拘束、悪ければ殺されるだろう。
ジュール隊は「白夜」と最も多く接触し、ほのかを艦に乗せていた。
知らず知らずのうちに全員が今回のクーデターの真相の一端に触れていたのだ。
その自分たちを完璧主義者のモートンが見逃すとは思えない。
「時期が早まっただけだろうが」
「徹底的に潰す気でしょうね。逃げ切るしかない」
「逃げるって何処に?」
「後で考えるわよ!とにかく警告に従ったら即、全滅!逃げるったら逃げるの!!」
逃亡先の宛てがないと主張するリュカも正論だが、止まれば死、というルナマリアも正論だ。
利用された挙句、罪もないというのに殺されるのはアランも納得がいかない。
イザークがここにいたらどういう判断を下すだろうか。
「艦長」
「…」
イザークがいない今、《ヒュペリオン》の指揮権はアランにある。
彼の決断を迫るように、ブリッジに重い沈黙が訪れた。
が。
それを打ち破ったのは、その場にいる誰でもなかった。
『艦長!メイデス艦長、大変です!!』
「ミンシア?」
大音量のマイクで金切り声を上げ、画面に顔をこれでもかとばかりに近づけているのは待機室のミンシアだった。
大事な話をしている時に何だと眉をひそめる者もいたが、ルナマリアは彼女の顔が泣きそうに歪んでいることに気付く。
「どうしたの、ミンシア?」
『い、いないんです!リーゼが!』
「?」
「リーゼがどうした?」
『ユーリとエディが捜してるんだけど、どこにもっ。荷物もなくなってて…あ、あいつ』
「!!」
その説明だけで、アランたちは全てを理解した。
イザークが戻るための段取りをしていた時には確かに彼は艦にいたはずだ。
「モートンにチクったのはあいつか!」
「!」
「なんでそんなことを」
リュカは怒りをあらわにし、ルナマリアは青くなってよろめく。
ルナマリアを支えるシンも、その赤い瞳に滅多に表さない動揺の色を見え隠れさせていた。
そんな中、アランはとうとう決断する。
「MS、準備の出来ているものから順次発進させろ!ここから離脱することを最優先とする!!」
C.E.79 4月11日 1540時。
「目指すのはフロンティア・ノエルにある補給ポイントだ。向こうに戦艦はない!何とか振り切れ!!」
叱咤する艦長のアランの声に、ブリッジクルーが表情を引き締める。
コンディション・レッドが布かれた《ヒュペリオン》は、にわかに慌しくなった。
警備隊に追われることに戸惑いを感じる間もない。
向こうが明らかにこちらを殲滅しようとしていることは、経験豊かなジュール隊のクルーははっきりと感じ取った。
MSが次々に発進し、こちらを追うMSを迎え討つ。
「警備隊のものと思われるMS確認。数10です」
「MSは《ゼロファイブ》エドゥアルト機を残して全機発進」
「シン・アスカ、ルナマリア・ホークの指示に従ってください」
「MSの機種特定。《ザク》二、《リゲル》五。それにカスタム機と思われる機体が三機です」
『艦は全速力で移動している。MS隊は一定の距離を保ち、離れすぎるな』
『了解!』
リーダーのシンの言葉に、全員が頷く。
向こうのMSとの戦いに気を取られれば、孤立してしまう。
とにかく艦に被害が及ばないようにし、逃げることに専念しなければならない。
難しい戦闘になりそうだった。
『コクピットはなるべく避けてね』
ルナマリアの言葉に、うげぇーっと下品な声を出したのはリュカだった。
『キラ・ヤマトの《フリーダム》じゃあるまいし、無茶なこと言わないでくださいよ、副リーダー!』
『牽制すれば充分だって言ってるの!このお馬鹿!』
『確かに、コーディネーター同士で打ち合いなんて気分が悪い』
『それに向こうに口実も与えちゃうんじゃない?』
『う、』
ユーリとミンシアの言葉にリュカは苦い顔をする。
確かにやり合うことに夢中になっては艦と離れすぎてしまう可能性があるし、
こんなことになってしまったとはいえ同士(コーディネーター)を撃つのには抵抗がある。
向こうだって、「命令」でこちらを追撃しているのだ。
いい気分ではないだろう。
『分かりました。努力しますって、リーダー!?』
気を取り直して追撃兵を迎え撃とうとしていた矢先、かなりのスピードを出して艦から離れていくシンの《デプスチャージ》。
先程の会話の直後だっただけに、一同は目を丸くした。
追撃隊の先陣を切っていたのは二機の《リゲル》。
《デプスチャージ》は射程距離に入った途端、ライフルで一機目の頭部と両腕を正確に撃ち抜く。
そしてさらにスピードを上げて二機目に近づくと、両腕のビームナイフを展開してバックパックを切りつけた。
『うわっ』
『すごっ!』
思わず息を呑むリュカとミンシア。
《デプスチャージ》は二機を仕留めると、脇目も振らずにユーターンして戻ってきた。
残ったのは機能を停止した《リゲル》二機。
二機目は小爆発を起こしたようだがパイロットは無事だろうことは傍目にも分かった。
『さっすが』
『見事なお手並みで』
MS戦に関してはイザークに「自分より上だ」と言わしめたシンである。
鮮やかに、しかもルナマリアのリクエスト通りコクピットを避けて二機を戦闘不能にした。
『次、来るわよ!』
先の《リゲル》の後方支援を任されていたのだろう、
共に《ガナーウィザード》を装備した《ザク》が《オルトロス》を撃ちながら接近してくる。
ミンシアはビームライフルで、リュカはとりあえずミサイルポッドで牽制する。
その間にも残りの機体がさらに迫っていた。
数の上ではまだ向こうが有利だ。
『リュカとミンシアはとりあえずその《ザク》を!』
『了解ッ』
『ユーリは私の援護をして!右端の《リゲル》を狙うわ』
《ゼロワン》のリュカはルナマリアの指示を聞きながら、やはりコクピットを避けるのは難しいと痛感していた。
通常の任務で宇宙海賊やテロリストを相手にする時は考えもしなかったことだ。
あの中に乗っているのは自分と同じ、プラントを故郷とする同士…そう考えてしまうと今まで何気なしに引いていた銃の引き金がやたらと重い。
『これならッ』
リュカはキャノン砲を連射する。
相手の動きが僅かに乱れたのを見逃さず、さらにミサイルポッドを畳み掛けた。
そのまま後退し、攻撃した《ザク》を睨みつける。
《ザク》は動きを止めていた。
大したことはないようだが、連射したキャノン砲とミサイルでどこかしらに損傷を負ったらしく、追撃の続行は諦めたようだ。
『これで三機目』
いささか安堵し、リュカは肩の力を抜いた。
一方、ミンシアの《ゼロフォー》はかなり苦戦していた。
向こうは遠距離型で、こちらは近距離型。
一見こちらが有利に思えるが、中のパイロットを傷つけないように攻撃するというのはミンシアも免疫がない。
『と、とりあえず狙うのは…あ、頭!』
いつもならば隙を突いて接近し、コクピットを貫けば終わりだが、今回はそうもいかない。
近づくのが逆に恐ろしくなり、いつもの自分らしい行動が取れない。
ビームライフルで敵と一定の距離を保つだけだ。
しかも向こうは高出力の《オルトロス》…ミンシアが不利になるのは必然だった。
ドウッ!!
《ザク》の攻撃をよけそこね、《ゼロフォー》がバランスを崩す。
畳み掛けるようにして敵が《オルトロス》を放った。
『っ!』
ミンシアは恐怖に身をすくめた。
『ミンシア!』
《ゼロフォー》の前にリュカの《ゼロワン》が立ちふさがり、砲をシールドで受け止める。
『なにやってんだ、しっかりしろ!』
『だ、だってぇ』
『だってじゃない!エディと交代させんぞ!』
リュカはそのままミサイルポッドを放つ。
《ザク》は実弾を警戒して後退した。
だが次の瞬間。
ザンッッ!
いつの間にか近づいていた《デプスチャージ》が後ろから《ザク》の頭部をもぎ取った。
そのまま蹴りを入れてその機体を斜め後方に押しやる。
『ナイス、リーダー!』
『これで、四機』
冷静なシンの対処で、《ヒュペリオン》は確実に追撃機の数を減らしていた。
『・・・クソッ!』
ユーリの《ゼロツー》は、二機の《リゲル》に前後を囲まれていた。
ルナマリアには後方支援をするように言われたのに、少し気を抜きすぎたらしい。
一機に気を取られている隙に、もう一機に後ろに回りこまれてしまった。
『ユーリ、右に回って!』
ルナマリアがすぐに気付き、《ルージュウルフ》を後方の《リゲル》に向ける。
本来は《ゼロツー》が近距離型、《ルージュウルフ》が遠距離で支援をするのが普通なのだが、何しろ今回はイレギュラーが多すぎる。
ルナマリアは砲をリニアキャノンのみに絞り、あえて接近戦に持ち込んだ。
『ちょこまかするんじゃないわよッ』
《リゲル》は素早い動きでこちらを翻弄する。
だが。
『はぁ!!』
《ルージュウルフ》が右腕からワイヤークロウを射出した途端、相手の動きは鈍った。
予想外の装備に困惑したらしい。
もちろんルナマリアはそれを見逃さず、一気に接近する。
『これでもくらえぇっっ!』
今度は左腕のシールドの下からサーベルが滑り出す。
ドガァァッッ!
それは深々と《リゲル》の上胸部に突き刺さった。
それが推進剤に影響しない程度であることを確認し、ルナマリアはそのままサーベルを真横に凪ぐ。
《リゲル》は片腕をごっそりと持っていかれ、動きを停止した。
『これで半分!』
ユーリはパイロットを傷つけずに戦闘不能にするという高等技を諦め、逃げに転じていた。
リニアガンで相手を牽制しながら、ルナマリアに指示された通りに右に回る。
ユーリはリーゼのようにつまらないプライドを持たず、ミンシアのように予想外の事態になったからといって簡単にパニックになったりしない。
自分の能力を誰よりも把握し、その上でできることを見出すことができる。
『リーダー、そっちに行きます』
『分かった』
ルナマリアが指示した場所にはシンの《デプスチャージ》がいる。
ユーリはシンが一直線に相手を迎え撃つことのできるポイントまで六機目の《リゲル》を誘導する。
『もう少し、あと少し』
目的の《リゲル》は《ゼロツー》の動きを慎重に見極めようとしているようだが、故に《デプスチャージ》は見えていないようだ。
やがて六機目の《リゲル》がそのポイントへと入った。
『リーダー!』
ユーリがそう叫ぶ前に、《デプスチャージ》は再びバーニアを全開にして飛び込んでいた。
「ジュール隊が脱走!?な、なんでっ!?」
休憩室のモニタから流されていた速報にタクトは愕然とした。
警告を無視して追撃機を振り切ろうとしている《ヒュペリオン》の様子が伝えられている。
同じ映像が繰り返し使いまわされ詳細なものがないということは、ジュール隊は上手く逃げ切っていると考えるべきだろう。
ようやくダンヒル兄妹からようやく解放されたかと思えば…。
いや。
「もしかしたらあの二人も追撃に?」
それはさすがに考え過ぎだろうか。
だがあれほどしつこくまとわり付いていた兄妹が、やって来た兵に何かを耳打ちされた途端にいなくなってしまったのは気にかかる。
それにしてもジュール隊が脱走なんてどうなっているのだ。
ラクスの失脚に続いて四将の一人、イザーク・ジュールの隊が脱走…やはり何かがおかしい。
「って、こんなところで何か出来るわけでもないし」
《ガーディアン》はもうないし、新たに与えられた《ディシジョン》も厳重に管理されている。
と、そこまで考えて、タクトははっとした。
仮に動かせる機体が手元にあったとして、自分は何をするつもりなのだろう。
追撃部隊に加わって、ジュール隊を攻撃するのか?
「そんなこと、できるわけ、ない」
良くしてくれたイザークやルナマリア、ミンシアたちの顔が思い浮かぶ。
自分はこうやって《ヒュペリオン》の行く先を案じているしかない。
曲解されているかもしれないこの国のメディアを通して。
絶え間なく揺れ動く《ヒュペリオン》の艦内が、全力で移動していることを乗っている者に知らせる。
こういった時は、無重力というものは便利だ。
イザークは畳んで置いてあった白の隊長服を掴むと腕だけ通して床を蹴った。
ドアを開けて廊下に出ようとしたところで、戻ってきた看護士と出くわす。
「た、隊長!駄目ですよ、まだ安静にしてくださらないと」
「ブリッジに出るだけだ」
「ですがっ」
それでも食い下がろうとする看護士を無視し、ブリッジへと向かう。
ヴィーノが的確な情報を与えてくれたおかげか、アランたちは「とりあえず逃げる」という判断をしてくれたようだ。
逃げる先の宛などないため、アランも苦しい決断だったに違いない。
だが、これで隊のクルーに生き延びる道を開くことが出来た。
問題は、追撃してくる相手の方。
モートンが手配した者が中に混じっていたら、こちらには容赦ないはず。
何故かあの黒髪の双子の無邪気で残酷な笑みがちらつき、イザークの気は急いた。
レーダーが映す友軍機の反応が、また一つ動きを止めた。
消えてはいないので、撃墜されたわけではない。
赤色のMS《ルージュウルフ》が脚部の部分を撃ち抜き、すかさず黒の《デプスチャージ》のライフルで武器破壊をされたのだ。
パイロットは戦意を消失し、すごすごと後退している。
『あーあー。あたしたち以外、全員やられちゃったわよ』
『どいつもこいつも情けないな』
『それにしても凄いわね、特にあの赤いのと黒いの!』
『元《ミネルバ》のエースパイロットが乗ってるはずだ。モートン隊長に聞いたろ?』
《ヒュペリオン》と一定の距離を保ちながら、未だにジュール隊のMSの動きを見学するにとどめているのは、モートンが急遽派遣した「増援」、新型の《マンティス》三機だった。
警備隊は突然「《ヒュペリオン》に静止勧告、それに従わなければ殲滅せよ」との命令を下され、混乱している。
友軍だと思っていたのを討てと言われたのだから浮き足立っても仕方ないだろう。
出撃させたMSもたったの七機とお粗末な対応しか出来なかった。
『じゃあそろそろ…』
『行きますか』
双子の言葉に、それまでただ《マンティスα》を前進させていただけのリーゼは唇を噛んだ。
彼らが遠まわしに「ジュール隊を討てるのか」という問いかけをしているのは明白だ。
リーゼは必死に自分に言い聞かせる。
自分は何も悪くない…プラントに必要なことをしただけだ。
ジュール隊は、今こうやって、ザフトを離反しようとしているではないか。
だからやむをえない。
彼らを「殲滅」することは。
からからに干上がった口の中から、辛うじて声を音として拾い出した。
「《デプスチャージ》には近づかないよう注意を払ってください。狙うなら、まずは《オズ》を」
後戻りはできない。
「何だあれは…新型か?」
リュカは見慣れない紫色の三機に眉をひそめる。
《デプスチャージ》や《ルージュウルフ》に形状が似ている…カスタム機か。
先行してきた警備隊の《リゲル》や《ザク》を援護するわけでもなく、ただ《ヒュペリオン》を追いかけてきていた。
張り付いて自分たちの逃亡ルートを特定するだけの偵察機なのかもしれないと思ったが、ここに来て急にスピードを上げて近づいてきた。
やはりこちらと戦闘する気だ。
『ユーリとミンシアは艦へ戻れ』
シンの声にはっと意識を取り戻す。
『リュカ、あなたはまだやれるわね?』
「はい。大丈夫です」
『ちょ、待ってください!私、まだやれます!』
『命令だ、ミンシア。下がれ』
『ッッ』
あちらの三機はどんな特性を持っているか分からない。
接近戦のシンと、どちらにも対応できるルナマリア、そして援護型のリュカでとりあえず様子を見ようというのだろう。
ユーリもミンシアも本来は接近戦型であるが、今回は充分にその能力を発揮できていない。
下がらせた方が無難だというシンの考えは妥当だ。
「ミンシア、ここは任せろって」
『…』
通信画面の向こうのミンシアは納得いかないような顔をしていたが、先の《リゲル》との戦闘でのことを気にしていたのか、黙って機体を艦へと向けた。
が、その時。
『抵抗はしないで下さい』
オープンチャンネルからの声に、ジュール隊の全員が固まった。
『このまま艦と一緒に投降してください』
「リーゼッ」
紫色のカスタム機《マンティスα》に乗っているのは、リーゼだった。
モートンに媚びて情報を売るに飽き足らず、自ら追撃隊に加わるとは!
「リーゼェェェーー!!」
《ゼロフォー》が飛び出した。
まだ心のどこかで信じていた仲間の裏切りをまざまざと見せ付けられ、放心していたシンたちもようやく我に返る。
「ミンシア!駄目だ、戻れ!!」
「ミンシア!!」
シンとルナマリアが呼びかけるが、ミンシアは完全に頭に血が昇っているのか真っ直ぐ《アルファ》へと突進していく。
《アルファ》の斜め前方には同じカスタム機の《ベータ》と《ガンマ》がいるにも関わらず、だ。
どんな能力を持っているのか分からない機体を三機も相手に単機で突っ込むなど自殺行為に等しい。
「ルナ、左を押さえろ!リュカはミンシアを援護!」
そう言うが早いか《デプスチャージ》がバーニアを全開にして《ゼロフォー》を追いかける。
《ルージュウルフ》もそれに続き、《セロワン》は砲を構えた。
「リュカ」
「お前は下がれ、ユーリ!それからエディにいつでも出れるように準備させとけ」
「分かった」
《ゼロフォー》は《アルファ》に向かってがむしゃらにライフルを連射した。
許せなかった、リーゼの裏切りが。
ミンシアにとってジュール隊は大切な仲間だ…もちろんリーゼのこともそう思っていた。
口ではいろいろ言っていたが、心の底では彼の実力を認めていた。
だからこそ。
今までの信頼を打ち砕き、自らの手でジュール隊を追い込もうとしているリーゼに全ての怒りの矛先を向けた。
「リーゼぇぇーー!」
周りなど見えない。
『ミ、ミンシアッッ』
突進してくる《ゼロフォー》からミンシアの怒りが伝わってくるようで、リーゼは一瞬うろたえる。
負けん気の強い娘だが、ここまでの憎悪を見せ付けられたことはなかった。
『突っ込んでくるわね、たーんじゅーんっ』
『俺がやる』
サスケの《ベータ》が高出力ビーム砲を構える。
正面から突っ込んでくる《ゼロフォー》は絶好の獲物だった。
だが、引き金を引く直前。
『!!』
新たな敵機を知らせるアラーム音に、サスケは動きを止めた。
カメラに漆黒の《デプスチャージ》が突進してくるのが見える。
『一番厄介なのか!』
ここで《ゼロフォー》を撃ってしまったら、次のモーションに移る前に食いつかれる。
一瞬にしてそれを判断したサスケは砲を撃たずに後退した。
『ちぃっ』
スズネもサスケの不利に気付き、《ガンマ》を《ベータ》の前に滑り込ませる。
《ガンマ》は中・近距離戦用の機体だ。
『元フェイスだか何だか知らないけど、相手してやるわよ、黒いの!!』
《ガンマ》はビームソード《アウグスト》を展開する。
《デプスチャージ》も両腕のビームナイフを振り上げた。
バチチチチチチチッッッ!
《アウグスト》を受け止めた対ビームシールドと、ビームナイフを受け止めた実体のないシールド《ツェーンゲボート》がぶつかり合う。
網膜を焼くような白く激しい光の粒子が両者の間に飛び散った。
一瞬、二機の動きが止まったかのように見えたが。
『これでぇ!!』
《ガンマ》の両足から、《デプスチャージ》と同じビームナイフが展開された。
そのままコクピット目掛けてナイフを振り上げる。
「ッ」
『死ね!』
《デプスチャージ》は両手がふさがり、そのゼロ距離攻撃を甘んじて受けるしかないように見えた。
しかし。
ガギッッ、ン。
《デプスチャージ》は攻防の手を緩めないまま片足を突き出し、
なんと《ガンマ》のコクピットの少し上…ハッチをカバーする為に少しだけ前に突出している部分に足をかけた。
『ガ、うっ』
脳天を割らんばかりの衝撃にスズネは目を回す。
半瞬後には、《デプスチャージ》は《ガンマ》を踏み台にして上方へと移動していた。
『な、なんて奴なのよーーッ』
《デプスチャージ》はそのまま脇目も振らず、《ベータ》へと向かっていく。
後ろではなく上に逃れたのは、脚部のビームナイフが確実に届かないと読んでのことだ。
絶対に捉えたと思ったのに!
スズネは完全に出し抜かれた悔しさから《デプスチャージ》の背中に攻撃を仕掛けようとするが、熱源反応を知らせるアラームにそれは断念せざるを得なかった。
抜群のタイミングで赤いMS《ルージュウルフ》が《オルトロス》砲を放ち、《ガンマ》を牽制する。
かと思えば、今度は《ゼロワン》のミサイルポッドが火を噴くのが見えた。
『次から次へとッッ』
こんなに苛々する戦闘は初めてだ。
さらにリニアキャノンを撃ちながら挑発してくる《ルージュウルフ》に、スズネは《アウグスト》を向けた。
「なんでッ、何でよぉ!?」
《ゼロフォー》が放つライフルを、リーゼの《アルファ》はビームシールドでしのいでいた。
「何で裏切ったの?馬鹿!馬鹿ぁ!!」
『ミンシア』
攻撃に転じるのは可能だった。
《ゼロフォー》のミンシアが半分錯乱しているのは分かっていた…隙を突くのは簡単だ。
だが。
『投降するんだ!ジュール隊長はラクス・クラインに加担していた可能性が…』
「あるわけないでしょ!?」
『ッッ』
「裏切り者!何よ、その変な機体!あんたはそんなものが欲しかったの!?」
『違う!』
リーゼは思わず叫ぶと同時に、ライフルで反撃する。
オート追尾のビームは、狙ったとおり《ゼロフォー》の頭部に命中した。
スピーカーからがんがん響いていたミンシアの金切り声が、呻くような小さな悲鳴に変わる。
一瞬リーゼの背中に冷たいものが走ったが、《ゼロフォー》は推進剤を巻き込むことはなかった。
『ミンシア、もう止めるんだ。君だけでも投降して』
普段から犬猿の仲だったとは言っても、リーゼはミンシアを殺したいと思ったことはない。
モートンは自分を受け入れてくれた…このまま彼女を連行すれば、命だけは見逃してくれるかもしれない。
『ジュール隊長は隊のクルーを巻き込んで、危険に晒しているんだ。だけど、君は、君たちは…』
「…、リーゼぇ」
『…』
「どうして裏切ったの?」
『…!』
静かな声音だった。
とても澄んでいて、リーゼの胸を突き刺す。
どうして裏切ったの?
―――どうして、だろう。
理由があったはず。
正当で、理にかなっていて、胸を張って言える理由があったはず。
それなのに。
頭が真っ白になっていた。
何で?
―――うるさい。
あんたはそんなものが欲しかったの?
―――うるさい。
どうして裏切ったの?
―――うるさい、うるさい、うるさい!!
ウラギリモノ。
『だまれぇぇええぇーーー!!』
背部に収納されているショットランサー《カトブレパス》を取り出す。
白濁していく脳内とは対照的に視界は赤くなり、目の前の存在が許せなくなった。
こいつは自分を否定する!
こいつも、こいつの仲間も。
いなくなればいい!!
躊躇なく引き金を引いていた。
エア音と共に開いたドアに、ブリッジにいた幾人かが驚きの声を上げた。
戦場の方に集中していたアランも後ろを振り返り、そしてぎょっとする。
「戦況…どうなって、る?」
「隊長!」
医務室にいるはずのイザークだった。
「どうしてここに?絶対安静だと医師は!」
イザークはふらつく体を誤魔化すために、ゆっくりと無重力に従って艦長席の脇に立つ。
アランの質問に耳を貸す気はないようだ。
「戦況報告をしろ!艦のスピードが落ちているな…MS隊が足止めを食っているのか?」
顔色は紙のように白く今にも貧血で倒れそうなくせに、イザークは梃子(てこ)でもこの場を引かないだろう。
上司の性格を良く分かっているアランは説得を諦めた。
正直、隊のクルーの命を一手に預からなければならない重圧から解放されたいと心のどこかで思っていたのだ。
「リーゼの奴が離反を…あちらと通じていたようです」
「リーゼが、モートンとか?」
「しかも、追撃してくる機体に搭乗しています。ミンシアが暴走して」
「ッ」
イザークはモニタを睨む。
見覚えのないカスタム機が三機…このうちの一機にリーゼが?
いや、リーゼはもういい。
それよりアランは今なんと言った?
ミンシアが、暴走?
「ミンシアは無事か?」
《ゼロフォー》のカメラは、頭部に攻撃を受けたことで半分が死んでいた。
どうせなら全部壊れてくれれば良かったのに、とミンシアは思った。
先程までミンシアはリーゼに向かってライフルを撃っていたが、それは相手への致命傷にならないと知っていた。
リーゼもこちらを攻撃したが、頭部を撃って、しかも投降を促した。
互いが互いに本気で殺し合うことなどありえない、と。
そんな甘い考えがミンシアの中にあったのだ。
でもミンシアは見た。
《アルファ》がライフルよりも大きく、傍目にも破壊力が凄まじいと分かるショットガンをこちらに向けたのを。
間違いなく、躊躇なくミンシアのいるコクピットを目掛けて撃った瞬間を。
―――リーゼがあたしを殺すんだ。
ただ、そう思った。
がくんっ。
上から下へとGが移動し、ミンシアの頭は勢いよく下を向いた。
サポートベルトをしていなかったら顔と膝がぶつかって歯が折れていただろう。
何が起こった?
『下がれ、撤退する!』
「リーダー」
シンの声、だ。
辛うじて生きていたカメラにはもう《アルファ》の姿はなく、星がめまぐるしく宇宙(そら)を走っていた。
《アルファ》の攻撃が届く直前、《デプスチャージ》が《ゼロフォー》を抱えて射程線外へと突っ切ったのだ。
先程まで《ベータ》と交戦していたはずなのに…いつもながら判断力と切り替えの早さが半端ではない。
シンはこれ以上の戦闘は不利と判断し、艦へと戻る命令を下した。
「ルナ、リュカ!お前たちも下がれ!」
「分かった」
《デプスチャージ》に続き、《ルージュウルフ》も後退する。
しかし《マンティス》三機は逃すまいと追いすがってきた。
『なめやがって!このまま行かせない!!』
『許さないわよ、あんたらぁ!!』
「ちぃ・・・、あいつら」
リュカは《ゼロワン》のパワーゲージに視線を滑らす。
ほとんど動きのなかった《ゼロワン》でさえ、ゲージが3分の1を切ろうとしていた。
動き回っていた《デプスチャージ》と《ルージュウルフ》は限界のはずだ。
このままでは追いつかれる!
「リュカ?何してるの!?」
「かまわず行って下さい!足止めします!!」
動きを止めた《ゼロワン》に、シンやルナマリアはぎょっとした。
「そっちはもう限界でしょう?このままじゃ追いつかれる!」
「駄目よ、戻って!」
「俺はまだ余裕があります。早く!」
《ゼロワン》はそのままミサイルポッドを放った。
これの残弾数も残り少ない…だが三機同時に足止めするには有効だ。
不規則に流れる実弾に、目論見通り《マンティス》たちのスピードは落ちた。
彼らのシールドは全て実体のないビームシールドだった。
ビーム攻撃には遺憾なく威力を発揮し、攻撃に転ずる時は邪魔になることはないそれにも弱点はある。
「ジュール隊の《オズ》をなめんなよ!?」
リュカたちのやり取りは《ヒュペリオン》ブリッジにも届いていた。
頼もしい《ゼロワン》の姿にクルーからは感嘆の声が当たる。
が、逆に青くなったのはイザークだった。
「リュカを戻らせろ!!」
最近では滅多に聞かなくなっていた隊長のヒステリックな声に、アランは目を剥く。
「シンかルナマリアでないと駄目だ!」
「しかし、《デプスチャージ》と《ルージュウルフ》はもう限界です」
先陣を切り、最も追撃機を翻弄していた二機のパワーゲージが空に近いのはイザークも分かっているはずだ。
「リュケイミルでは力不足だと!?」
「そういう意味じゃない!」
「ではエドゥアルト機を」
「駄目だ!あのタイプを三機も…リュカやエディのような遠距離型ではっ」
アランはイザークがパイロットとしての経験からの危惧をしているのだと察する。
《マンティス》の形状やほんの少しの動きを見ただけでどういう攻撃を得意とし、使いまわしてくるのかが経験から分かるのだろう。
「リュカ、戻れ…早く逃げろ!!」
「これでも逃げてますってっ」
ブリッジのやり取りを聞いていたリュカだが、相変わらず敵に攻撃を加えながら後ろ向きに進んでいた。
確かに《マンティス》との距離は縮まっているが、スピードを落としてくれている《ヒュペリオン》に取り付くことができればいい。
イザークたちの言い分は分かるが、それで逆にシンたちが危険にさらされては意味がない。
「それにしても」
リュカは近づいてくる三機のうちの一機を苦い顔で見つめる。
《マンティスα》…リーゼ。
可愛い後輩だと思っていたのに。
ジュール隊での立ち居地に不満を抱いている、上昇思考がある少年だということは気付いていた。
それがクーデターを起こした人物に仲間を売り、あまつさえミンシアを本気で殺そうとするとは。
《アルファ》がショットガンを構える。
「野郎!」
ほんの数秒の間に、一気に距離が縮まっていた…今までわざとスピードを落としていたのか?
この距離で撃たれては!
ィィイイインッッ。
高出力のエネルギーの塊が、《ゼロワン》の真上を通り過ぎた。
「はっ」
危なかった。
おそらくリーゼは《ゼロフォー》にしたのと同じように頭部を狙ったのだろう。
中心部…コクピットを狙われていたら避け切れていたかどうか自信がない。
だが。
大きな攻撃を避け切った、というこの状況が、リュカの心に隙を呼んだ。
「!?」
いつの間にか《ベータ》と《ガンマ》が視界から消えていることに気が付いた時には、もう全てが手遅れだった。
左右のカメラに一機ずつ。
《アルファ》の攻撃を目くらましにしてスピードを跳ね上げ、《ゼロワン》の両脇に着いていた《ベータ》と《ガンマ》。
ビームナイフと《アウグスト》を構えてそれぞれ急接近するのを見て、ようやく挟み込まれていたことに気付く。
「あ…」
『リュケイミル!!』
艦にいるはずの父の声がやけに近くに聞こえるな、と思った次にはもう何も聞こえなくなった。
視界が白くなり、赤くなり、最後には闇になる。
「死」という名の「虚無」に、一瞬にして飲み込まれていた。
「リュケイミル!!」
息子の名を呼び、アランは思わず席から立ち上がる。
モニタに映し出された《ゼロワン》の爆発、そしてシグナルロスト。
目の前で起きたことを肯定できず、ブリッジクルーは全員固まった。
呆けている場合ではないと分かってはいても、リュカが死んだ、という事実を受け入れられない。
相変わらずMSは攻防を繰り返しているものの、そこだけがそれこそ死んだように静まり返っていた。
リーゼは動きを完全に止めていた。
《ベータ》と《ガンマ》は未だに《デプスチャージ》らを追いかけているが、《アルファ》はそれを見送るのみだ。
ただリーゼは、爆産して見る影もなくなった《ゼロワン》の残骸を見つめていた。
さっきまで、リュカが乗っていた機体だ。
思わずパイロットの姿を探していた。
あの爆発では、人体は跡形も残らない…理屈では分かっていても、探していた。
「…っ」
突然胸が締め付けられるような感覚がした。
リュカが死んだのか?
自分の裏切りのせいで?
「違う、僕は…」
誰でもなく、自分に言い聞かせるようにリーゼは否定する。
サスケに指示されただけだ…《ゼロワン》の気をそらせ、と。
あんなことになるなんて、思ってもみなかった。
死なせたかったわけじゃない。
「僕のせいじゃない!」
『許さない…』
無線から聞こえてきた声に、ぎくりとした。
ミンシアだ。
《デプスチャージ》に抱えられ、どんどん遠ざかっていく《ゼロフォー》。
そこからの憎しみに震える声音に、リーゼは固まった。
『許さない…あんたを絶対に許さないッッ』
血を吐くような声を出しているのはミンシアだと言うのに、リーゼは自分の首こそが締め付けられているような気がする。
息が出来ない。
『いつかお前を、殺してやる!!』
C.E.79 4月11日 1600時過ぎ。
プラント本国警備隊は、《ヒュペリオン》の消息を完全に見失う。
その日のうちに、イザーク・ジュールとその一派がザフトを脱走したという報が本国を駆け巡った。
ほぼ同時刻、マイウス市よりアプリリウス市に向かっていた一つのシャトル。
目立たないながらもそれなりの大きさがあるシャトルだ。
軍専用を示すザフトの軍証が刻まれたそれは、スチュアート・モートンの密命によって航行していたものだった。
しかし。
何故かそのシャトルの中に人の生気はない。
シャトルに乗って任務を遂行しているはずの、二十余人のザフト兵。
彼らは、全員息絶えていた。
ある者は頭を銃で撃ちぬかれ、またあるものは刃物で首を掻っ切られて絶命している。
いたるところに血や内蔵がぶちまかれ、死臭が漂い、さながら地獄のような光景だった。
一体どうしてそんな事体になったのか。
「A-HA!なかなかいい機体じゃねぇの」
格納庫に収納されていたその機体を見上げ、黒髪の男は感嘆の声を上げた。
浅黒い肌や服には彼のものではない血がこびりつき、乾いて黒くなっている。
彼こそが、虐殺の張本人だった。
念には念を入れてシャトルの軌道を本国からぎりぎり離していたことが、ザフト兵たちの不幸となった。
男は護衛をしていた二機の《リゲル》を瞬殺し、中に乗り込むと虐殺を始めた。
彼らは動揺し、本国に助けを求めることすら思いつかないまま血に飢えた男の餌食になった。
いや、仮に助けを求めていたとしても、ジュール隊の脱走劇に騒然となっていた本国は対応できなかっただろうが。
男…ケイン・アークライトは、機体のコクピットに向かうと、ハッチにうつぶせていた整備士の死体を蹴り飛ばした。
するとその下から、【EXTINCTION】の文字が現れる。
「《エクスティンクション(抹消)》か。俺には相応しい名前だな」
その機体こそが、完成が遅れていた《ファクトリー》の最後の一機だった。
モートンはそれをキラ・ヤマトに与えるため、秘密裏にアプリリウスに運び込もうとしていたのだ。
だが。
「これは俺がもらうぜ、モートンの旦那」
「抹消」の名を持つ刃が、狂気を秘めた青年の手に渡った。
2010/01/01