PHASE-25「飛べない金糸雀」(後編)




 「おらっ!」
 「わ!!」
 サスケが後ろ手に縛られた体を思い切り突き飛ばせば、ヴィーノ・デュプレはよろめいて床に突っ伏した。
 「う、いてぇっ」
 その様子をキラが苦い顔で見下ろしている。
 「君が、スパイ?」
 「…」
 「どうしてそんな、皆を裏切るようなことするの?」
 「…」
 悲痛な面持ちで問うキラに対し、ヴィーノは目を伏せて黙した。
 ちょっとした油断だった。
 ほのかを救い出すにも、とりあえずは脱出経路を確保しなければならない。
 そう考えたヴィーノは色々なルートを探っていたのだが、肝心のほのかの部屋の解除方法が未解決のままだった。
 そこで彼が目をつけたのがダコスタに代わって配属された《セラフィム》の新艦長だ。
 彼がモートンの子飼いであることは周知の事実であり、おそらくはバルフォアとも繋がっている。
 ほのかやケインのことも彼に一任されているのだろう。
 艦長のパソコンをハックすれば、ほのかの部屋のロックを解除するキーを手に入れられるし、上手くいけばモートンたちが『白夜』と関係していた資料も手に入れられるかも知れない。
 が、パソコンをハックするまでは行かなかった。
 艦長室の掃除担当のクルーに交代を頼んでいたところを、運悪く当人である艦長に見咎められてしまったのだ。
 その時は上手く誤魔化したもののやはり不信に思われ、翌日に部屋や荷物を浚われた挙句、ついにこれまでのことがばれてしまった。

 黙秘を続けているヴィーノにキラとサスケが顔を見合わせる。
 部屋に気まずい沈黙が下りようとしていたその時、荒々しい足取りで部屋に入って来た者がいた。
 艦長から報告を受け、全ての仕事を放棄して飛んできたモートンだった。
 後ろには《セラフィム》の艦長も控えている。
 モートンはキラに挨拶もせず、床の上で動けなくなっているヴィーノを認める。
 そして。
 バキッッ。
 「ガ…ッ!!」
 ブーツの爪先で、思い切りヴィーノの顔を蹴り上げた。
 「ちょ、ちょっと!モートン隊長!?」
 さすがのキラも青くなる。
 今まで彼のやることになるべく口を出さずにいたが、縛られて動けない者に暴力を振るうのを見るのはいい気分ではない。
 しかしキラの制止を聞いているのかいないのか、
 モートンは血だらけのヴィーノの顔を髪を掴んで上げさせ、壁に何度もたたきつけた。
 がんっ、がんっ、がんっ。
 耳障りな音とヴィーノのくぐもったうめき声がしばらく続く。
 キラはたまらず目を逸らし、艦長とサスケも眉間に皺を寄せていた。
 やがて体力の尽きたモートンが肩で息をしながら手を離す。
 すでに気を失っていたヴィーノは、そのままずるずると壁を伝って床に沈んだ。
 「…モートン隊長」
 「スパイであることに間違いは無いのだな!!?」
 躊躇いがちなサスケの呼びかけに、モートンは怒鳴り返した。
 上司の血走った目にサスケは一瞬躊躇するも、「間違いありません」と頷く。
 部屋の中や工具の中に上手く隠されてはいたが、盗聴器やハッキングに使ったと思われる端末を発見した。
 またその端末から、消去されていたデータをいくつか復元できた。
 中には監禁されていたイザークの場所を特定するものや、その時に使われたと思われる車の記録などがあり、これらのことから、ヴィーノが彼らと繋がっていたことはほぼ間違いない。
 「…ッッ、こんな奴、こんな奴が!!」
 モートンは気を失ったままのヴィーノの腹を蹴る。
 これだけ痛めつけてもまだ怒りが収まらなかった。
 今までのモートンだったらここまで取り乱さなかっただろう。
 しかし、ディーゼルとの会話を録画されたあの放送が全てを変えた。
 今やモートンにはディーゼルを殺したという非難の目が向けられ、抗議の声は高まるばかりだ。
 バルフォアは明らかにモートンを無視し始め、彼は孤立し始めていた。
 鬱憤がたまっていたところに、《セラフィム》にスパイがいたという知らせがあったのだ。
 躓きの原因となったジュール隊の脱走やタクトの離脱、決定打となったディーゼルの放送…。
 この少年がそれらに関わっていたかもしれないと考えると、冷静ではいられなかった。

 再び血まみれの少年を蹴ろうとして、さすがに艦長とサスケに止められた。
 キラ・ヤマトですら、少年を助け起こして血をぬぐってやっている。
 いつもは黙って見ているだけの彼のその行動に、モートンは辛うじて平静を取り戻した。
 「そいつをこれ以上《セラフィム》に乗せておくわけにはいかん」
 「は、無論です」
 「私の宿舎の、どこかの部屋に閉じ込めておけ。『全てが片付いてから』ゆっくり尋問してやる」
 「は、あ?」
 モートンの言葉最後の方の意味が分からず、艦長は曖昧な返事をしながら首を傾げる。
 キラもただならぬものを感じ取り、血走ったモートンの目を盗み見た。
 「あの、『全てが片付いてから』とは?」
 「決まっているだろう!」
 モートンはばんっ、と手のひらで壁を叩く。

 「これから《ゴンドワナ》に群がっている連中を潰しに行くのだ!!!」
 


 
 C.E.79 4月27日 1710時 《ゴンドワナ》に停泊中のジュール隊旗艦《ヒュペリオン》


 タクトは《セラフィム》でのこと、ほのかがイザークの脱走を知らずに脅され《コンヴィクション》に乗せられていること、そしてケインが生きていたこと等をイザークに全て話していた。
 イザークはほのかの事情を多少は知っていたらしく、タクトが思っていたほど驚かない。
 「そう、か。お前も大変だったな」
 「はい」
 だがケインの存在はやはり思惑外だったのだろう。
 イザークはタクトと向かい合ったまま腕を組み、何か考え込み始めた。

 一区切りついたところで、タクトはイザークの自室を見回す。
 自分は実家から家出同然にしてプラントに来たので私物が少ないのは当たり前だったが、イザークの部屋も同じくらい物が少なく閑散としていた。
 いや、この雰囲気はイザークの存在自体にもあるのかもしれない。
 大怪我を負ったと聞いていたが、彼と再会した時…どこか色が抜けてしまったような印象があった。
 もともと色素が薄い容姿なのに、さらに拍車が掛かった感じだ。

 と、その時。
 タクトは一つの写真立てに目が留まる。
 棚の上にぽつんと一つだけ…アンティーク調の凝った造りのそれが、伏せられたままというのが気になった。
 「隊長、あの写真立て」
 「あ?」
 呼びかけられてイザークは顔を上げる。
 そしてタクトが棚の上の写真立てを指差しているのに気付いて苦笑いした。
 「あいつと気が付くところが同じだな」
 「あいつ?」
 「ほのかだ」
 そのままイザークは立ち上がり、写真立てを手に取るとタクトにあっさりと渡した。
 反射的に受け取ってしまったものの、タクトは気まずい顔をする。
 伏せてあったということは他人には見せたくないのではないか?…といってそのまま返すわけにも行かず、結局中を覗いた。
 映っていたのは控えめな笑みを口元に刻んだ、黒髪の少女だ。
 和服を着ていて黒目の大きい瞳をしているので何処となく日本人形を思わせる。
 「綺麗な女の子ですね」
 「確か撮った時、そいつは20歳だったはずだ」
 「え!?これでハタチ!!?妹さん、じゃないですよね?」
 「妻だ」
 「へえ、奥さ…ええええええぇぇえぇ!!!?」
 「何だ、言ってなかったか?」
 「隊長って、け…!ケッ、けっこ、ケッコ、ケッコケッ、コケッコー」
 「何の鳴き真似だ」
 舌を絡ませているタクトをイザークは呆れ気味に見やる。
 コーディネーターは16歳で成人とみなされるのだ。
 25歳のイザークが既婚者であったとして不思議ではなかろうに…そんなに「らしく」見えないのだろうか。

 「そいつの写真」
 「あ、え?」
 「ほのかがな、やはり気にしてたんだ。引き出しにしまってたのによく出して見てたようだ」
 イザークはその様子を思い出しながら本気で不思議がっているが、タクトは何となく理由に思い当たった。
 「あの、奥さんは今どこに?」
 「二年前に死んだ」
 「…」
 「俺の知らない所で、知らないうちに、たった一人で」
 そう呟く白皙には、とても静かで深い憐憫が浮かんでいた。
 見たことの無いイザークの横顔にタクトは思わず息を呑む。
 「今でも、愛してる?」
 「まあな」
 「ほのかにも同じこと言いました?」
 「は?」
 「い、いえ!やっぱり何でもありません」
 タクトは礼を言って写真立てをイザークに返すと、出入口へ一気に駆け込んだ。
 エアドアを開け、部屋を出る前にイザークを振り返る。
 「ジュール隊長!」
 「な、何だ?」
 「僕、ほのかを絶対に助けますから!」
 「あ、ああ」
 「『僕が』ほのかを助けますから!!」
 「??」
 「じゃ、そういうことで!」
 修行してきます!と言い残してタクトは部屋を出る。
 あっという間に遠ざかっていく足音に、イザークはぽかんと口を開ける。
 「何なんだ、一体?」
 

 「あ、いたいた!ルナマリアさーん!」
 覚えのある赤い髪を見つけ、タクトは手を振りながら駆け寄る。
 艦長のアランと副長と何か話していたルナマリアがこちらに気付いて白い歯を見せた。
 相変わらず美人だ。
 「タクト君、今探しにいこうと思ってたのよ」
 「トレーニングですよね!?」
 「うん、そうって、何だかすごくやる気タップリね」
 「はい!恋のライバルが一人消えましたから!!」
 「は?」
 「ビシビシ鍛えてください!絶対に《ディシジョン》を使いこなして見せます!!」
 「え、あ、うん」
 高過ぎるテンションに付いていけず曖昧な返事をするルナマリアに対し、タクトは「先に行ってます」と言ってトレーニングルームの方へと駆けていってしまった。
 残された三人はしばし唖然としてその後姿を見送る。
 「な、何でしょう、アレ」 
 「さあ?」
 「恋が何とか言ってたな」
 「ま、いいか。ヤル気でいてくれることは良いことだし」
 「お、おい」
 「ルナマリア?」
 「それじゃあ、艦長、副長、あの子のご要望どおりビシビシ扱いてきまーす!」
 タクトは「鍛えてくれ」と言ったのであって、「扱いてくれ」は要望に入っていない。
 だがアランたちがそんなツッコミをする間もなく、敬礼をしたルナマリアは軽快な足取りでタクトを追いかけていく。
 見送るアランと副長の顔は引きつっていた。
 「ジュール隊長は、ルナマリアのことを何も説明しておらんのか?」
 「したはずですよ。多少は」
 「『ビシビシ』の意味、分かって使ってるんだろうな?タクトは」
 「私に聞かれても」

 そんな会話をしながら。
 三時間後には半死人が一人でき上がるだろうな、と二人は確信した。
 

 
 「待て、ミンシア」
 「…」
 廊下を歩いていたところを、一番会いたくない人物に見つかった。
 ミンシア・アボットはどんな顔をしていいか分からず、眉を寄せたまま振り返る。
 実父のコウイチ・アボットが困った顔をして立っていた。

 どこへ行くんだ、と聞かれ、シュミレーションルーム、と素直に応える。
 コウイチは少し驚いたようだが、途中まで一緒に行くとだけ言って横に並んだ。
 歩いている間、しばらくは共に無言だった。
 父娘の仲は決して悪くない。
 かと言って良いわけでもなかった。
 コウイチは製薬会社に勤めるバリバリのサラリーマンだった。
 その優秀さから若くして重役を務めるようになり、ミンシアは幼い頃にあまり遊んでもらった記憶が無い。
 それでも出張でない時は家族で食卓を囲んでいたし、幼年学校を卒業する前に一度だけ旅行に連れて行ってもらった。
 勉強を見てもらったり、いたずらをして本気で怒られたこともある。
 やがて時が経ち、ミンシアは思春期を迎え、コウイチは政治…評議会の仕事に携わることが多くなった。
 そして今、娘は軍のMSパイロットとなり父は最高評議会議員だ。
 別に大きな喧嘩をしたわけでもなく、自然に触れ合う機会がなくなってしまっていたのだった。

 「ミンシア」
 「何?」
 躊躇いがちに名前を呼んだ父に、ミンシアはそっけなく応える。
 歩みは止めなかった。
 「お前、部屋にずっと閉じこもってたそうだな」
 「隊長から、聞いたの?」
 「心配されていた」
 「…」
 エリートのイザークは、彼自身の才能と運も手伝って18歳の若さで隊長職を得た。
 それから随分と経っているわけだが、最初は前線で戦うということもあって率いる部下はベテランばかりだった。
 新人を任されるようになったのはラクスの政権になってからだという。
 イザーク自身が若年だということもあり、アカデミーを出たばかりの部下を御すのはまだ苦労が多いようだ。
 ミンシアももちろんそうだが。

 「リーゼ、という子の話は聞いている」
 その名前を聞いた瞬間、ミンシアは目の前が赤くなった気がした。
 「リーゼの話はしないで!!」
 思わず声が高くなった。
 コウイチは驚いて立ち止まるが、ミンシアは無視してさらに歩みを進める。
 押さえ込んでいた怒りが込み上げそうだった。
 「ミンシア!」
 「何よ、何の用よ!?早く言って!!」
 いつの間にか涙が滲んでいる。
 父に泣き顔を見られたくなくてさらに歩みの速度を上げようとするが、肩をつかまれ引き止められてしまった。
 「ミンシア、聞きなさい!」
 「!」
 無理矢理向き合わされ、視線を下に落とす。
 溢れていた涙がぽろぽろと珠を作って床を濡らした。
 「こんな状況だが、もう戦闘に加わるのは止めるんだ。私から隊長にとりなすから」
 「…」
 「お前に軍人は無理だ」
 今まで自分のすることにあまり口うるさくなかったコウイチがこんなことを言い出した理由は分かっていた。
 ミンシアは先の戦闘でリーゼへの怒りからパニックになり、結果的にリュカの死を招いてしまった。
 一人息子のリュカを失ったアランのことを考えると、懺悔の念に押しつぶされてしまいそうになる。
 気力をなくしてしまった自分に対し、アランは気丈に軍務を続けていることがさらに拍車をかけていた。
 リュカの死から今まで、ミンシアはただ悶々と時を過ごしてきた。
 本来なら軍人としてあるまじき怠惰だ。
 コウイチとしては娘を危険な目に遭わせたくないという思いと同時に、これ以上ジュール隊に迷惑をかけたくないのだろう。
 《ゴンドワナ》にはバルフォア政権に反感を抱く協力者が集まりつつあるものの、かの隊の存在と能力は未だに大きい。
 今のミンシアは不貞腐れているだけの、ただの足手まといだった。

 「このままジュール隊に留まってMSに乗れば、また仲間の死に遭遇するかもしれん。次は落ち込んでいる暇はないかもしれないぞ」
 「分かってる」
 「どんな理由であれ、戦闘になればコーディネーター同士の争いになる。それにお前は耐えられないだろう。だからミンシア…」
 「やめない」
 父の言葉を遮り、ミンシアは肩を掴んでいた手を振り払った。
 「ミンシア!」
 「やめない!ちゃんと戦う!」
 「馬鹿を言うな。お前はもう…」
 「隊長と艦長にはこれから謝ってくる!それから訓練もやり直す!!」
 一気にまくし立てた娘の気迫に、コウイチは瞳を瞬く。

 「許せないの、リーゼが!」
 仲間だと思っていた。
 喧嘩ばかりしていたけど、根底では分かり合っていると思っていた。
 それはミンシアの思い込みだ。
 リーゼにはリーゼの思いがあった。
 リュカの死も、己を見失ったミンシアが招いてしまったこと。
 今の彼女の胸中に渦巻くのは、ただの逆恨みだ。
 それでも思い知らせてやりたかった。
 自分がどれほど憤っているのかを。
 リュカの死がどれほど重いのかを。

 ―――許さない。あんたを絶対に許さないッッ
 ―――いつかお前を、殺してやる!!

 あの時の叫びに含まれていた、思いを。




 C.E.79 4月27日 1950時 プラント最高評議会ビル


 バルフォアは腕組みをして椅子に座った格好のまま、デスクの中央に置かれた書類を眺めていた。
 つい先程ここを訪れたモートンが置いていったものだ。
 内容は《ゴンドワナ》討伐のために軍を動かす許可を求めるものだった。

 これを持ってきたモートンに、バルフォアは直接会っていない。
 何かと理由を付け、彼との接触を断っていた。
 以前なら考えられないことだ。
 バルフォアにとってモートンは掛け替えのない親友であり、コーディネーターの更なる発展と未来を共に夢見た同志だった。
 だが今は、その絆こそが臨時とはいえ最高評議会議長の職についたバルフォアの立場を危うくしていた。
 L4宙域の戦いでの、本心をさらけ出したモートンの会話。
 まさかディーゼルが自分の命を犠牲にしてまであんな行動を取るとは思わなかったが、それにしてもモートンは油断が過ぎた。
 彼はあれが作り物だと言い張っているが、耳を傾けるものは少ないだろう。
 バルフォアも初めに見たときは愕然としてしまった。
 もうモートンに再帰はありえない。
 バルフォアは一つため息をつくとペンを取り、書類にサインを書き込んだ。

 モートンとの絆は、今では足枷でしかない。
 かといって、彼をすぐに廃そうとするほどバルフォアは浅はかではなかった。
 軍そのものは未だにモートンが掌握している…下手に手を出せば返り討ちに合いかねない。
 そういう意味では、モートンの怒りの矛先が《ゴンドワナ》に向けられたのはバルフォアにとっては幸運だった。
 反バルフォアを唱える者たちが集いつつあるあの集団は、どの道滅ぼさなければならない。
 それをモートンがやってくれるというのなら、潰し合ってくれるのなら大助かりだ。
 終わった後で、あのL4での戦闘を理由にモートンを失脚させればいい。
 ホノカやケインもその時一緒に始末できる。

 バルフォアは秘書室に通じている通信をオンにした。
 「誰か書類を取りに来てくれ。それから研究所に連絡を」
 『研究所への用向きは?』
 「《セラフィム》に行く。それだけで内容は分かるはずだ」
 『了解しました。すぐに手配します』

 研究所とは、バルフォアが地球にいたときからエクステンデットを育てていた施設のことだ。
 所属しているクルーも古参の者が多く、皆バルフォアに忠実だ。
 そしてホノカやケインのことをよく知っている。 
 《ゴンドワナ》討伐が決定した以上、モートンは最大の戦力となるあの二人を利用するだろう。
 バルフォアとしても、ここまで来た以上は彼らを有効的に使いたかった。
 そのためには。
 「小娘の方の記憶は消しておかなければ」
 まっさらになって。
 ただの「兵器」になりきってもらおう。





 「……………何故だ」
 
 対面して。
 長い時間が経って。
 飽きるほど血の通わなくなった顔を見つめて。
 ようやく搾り出した言葉がそれだった。

 ベッドに横たわる妻の死に顔は、意外にも穏やかだった。
 医師の話では、死の近因となった妊娠中毒でかなり苦しんだだろうということだったが。
 イザークはそっと手を伸ばし、妻の顔に掌を当てる。
 「冷たい」
 本当に、死んでいるのだ。
 認めたくない現実。
 軍人である自分は、今まで数え切れないほどの死を目の当たりにしてきたというのに。
 妻も軍人だったからだろうか、まさか病気で死んでしまうなんて想像したこともなかった。
 「シホ」
 彼女が体質的に妊娠に不向きであることは、子供ができたと知った時点で聞かされていた。
 それでも互いに大した問題だとは思っていなかったのだ。
 シホは健康体そのものだったし、何より子が宿った…その事実に二人は舞い上がっていた。
 半月前にイザークが家を離れる時も、笑顔で見送ってくれたのに。
 「シホ…何故死んだ?」
 応えが戻ってこないと分かっていて、それでも唇から言葉が滑り落ちる。
 死をなかなか受け入れられなくて動揺していた心が、ゆっくりと絶望に包まれていくのが自分でも分かった。
 くやしい。
 こんな形で、部下だった頃から自分に尽くしてくれた彼女を死なせてしまったことが歯がゆくてならなかった。
 「何故、死んだ!!?」
 自宅で倒れていたシホを見つけたのは、連絡が取れないことに心配して訪れた母のエザリアだ。
 その時にはもう息をしていなかったというから、
 シホは苦しんで、苦しんで…誰にも看取られることなく孤独のうちに死んだということになる。
 どうにもならないことだと分かっていて。
 それでも、自分が許せなかった。
 「何故」

 ばたんっっ。
 
 「〜〜〜〜〜〜ッッ」
 背中に鈍い痛みを感じ、イザークは瞼をこじ開けた。 
 起き上がろうと身体に力を入れようとしたら、足に絡まっていたシーツがずるずると滑り落ちる。
 どうやらベッドから転落したらしい自分の身体は、
 上半身が床、シーツが絡まった足は未だベッドの上、と少々情けない格好だった。
 「くそ」
 思わず悪態がもれる。
 それでもだるくて動く気になれず、イザークはそのまま天井を仰いだ。
 見慣れた《ヒュペリオン》の、自室の天井。
 「夢を見るなんて久しぶりだ」
 最近は忙しくて、夢なんて見る間もなかった。
 そう、常に気を張っていたのだ。
 救命ポッドに乗っていたほのかと出会ってから。
 「何で今更、あんな夢…」
 シホを亡くしたのは二年前の出来事だ。
 平時でも滅多に思い出すことのない、思い出さないように心がけている辛い過去。
 写真を気にしたタクトに、妻の話をしたからだろうか。
 あるいは。
 「ほのか」
 彼女は今、どうしているだろう。
 辛い目に合っていないだろうか。
 独りで泣いていないだろうか。
 どうか。
 自分の知らないところで、死んだりしないでほしい。
 「生きて…」
 生きてまた会いたい。
 本心からそう思った。



 C.E.79 4月30日 0945時 ヤマト隊旗艦《セラフィム》

 ベッドに無気力に横たわる小柄な体は、ケインにとって忘れようもないものだった。
 「ホノカ!」
 彼女の名を叫ぶなり画面にかじりついたケインは、次にはものすごい勢いで振り返りバルフォアに突進する。
 しかし彼の胸倉を掴もうとした両腕はがしゃんっ、という金属音に阻まれ、中途半端なところで動きが止まった。
 「はずせよ!」
 「大人しくするならな」
 バルフォアはケインと相対する際、部下に命じてあらかじめ彼の両手に手錠をかけて繋いでおかせていた。
 手錠をかける際にもケインは散々暴れ、頚部を蹴られたクルーが一人死んでいる。
 最後の調整から大分経っている上にもともと興奮し易かったこの男は、今は猛獣と一緒だった。
 「ああ、もうこの手錠ッッ」
 「大人しくしろと言っている」
 「手錠…あ、ホノカを返せよ、俺のだ!」
 手錠に苛ついていたかと思えば、またすぐに画面に映る少女の方に気を向ける。
 注意力も散漫になっている…子供と同じだ。
 何だか我侭な犬に躾をしているような気分になり、バルフォアは視線を泳がせた。
 「娘は好きにしていい」
 「!」
 ケインの目が爛々と輝いた。
 ようやくこちらの話に集中する気になったらしい。
 「ただその前に、仕事をしてもらう」
 「またテロリスト?」
 「違う。今度は正規のザフト兵だ」
 「…」
 「彼女は…」
 バルフォアは意味ありげに画面に映る水色の髪の少女を見る。
 ケインもつられるようにして視線を動かした。
 「彼女が、イザーク・ジュールという軍人と行動を共にしていたことは知ってるな」
 「《ゴンドワナ》で会った」
 「ああ、そうだったな。タクト・キサラギのことも覚えているだろう」
 「ホノカを攫って行きやがった」
 「そうだ」
 バルフォアは内心ほくそ笑みながら、用意していたフォトを取り出す。
 《シルバーボルト》や《デプスチャージ》を始め、《オズ》シリーズやタクトの《ディシジョン》に至まで、
 《ゴンドワナ》に集結した主要な戦力となりうるMSや戦艦が映っていた。
 「この写真のMSや戦艦に乗っているほとんどが、ホノカ・ウーと接触した。放っておけば、また彼女を連れて行くかもしれないな」
 「…」 
 「殺したいだろう?」

 用意された別室へと連れて行かれるケインは、手錠こそそのままだが嘘のように大人しくなっていた。
 黒い瞳はどこか虚空を彷徨っており、廊下に立っていたスチュアート・モートンに気付く様子もない。
 横を通り過ぎた時に彼の口元にうっすらと笑みが浮かんでいるのを認め、モートンは背筋が寒くなった。
 「いたのか、モートン隊長」
 「お久しぶりです」
 ケインに続いて部屋から出てきたバルフォアが、ほぼ一ヶ月ぶりにモートンに声をかける。
 今まで無視され続けてきたモートンは言いたいことは山ほどあったのだが、
 すれ違ったばかりのケインの不気味さに臆してバルフォアに対する皮肉が出てこなかった。
 「ケインに記憶操作は必要ないだろう」
 「そう、なのか?」
 「首輪をはずせば自分から敵陣に突っ込むさ。そこで自滅してくれれば良し、生き残ったとしても『餌』はこちら側にあると思っているから脅威にはならない」
 「…」
 「ホノカ・ウーの方はもう終わった頃かな。そっちは今度こそ上手く操作してくれ」
 「分かった」
 ほのかは現在、調整と記憶操作を受けている。
 それが終われば死なない程度の量の薬物で能力を《コンヴィクション》に合うよう『増強』する予定だった。
 ちなみに先程のホノカの映像は、昨日のうちに録画しておいたものだ。
 ケインは何の根拠もなしにリアルタイムのものだと信じていたようだが。
 「心配するなモートン。《ゴンドワナ》さえ消せば、全てが上手く行くさ」
 「私を見捨てたりしないだろうな」
 「馬鹿なことを言うな」
 バルフォアは心情を押し隠し、モートンの鷲のように鋭い視線をかわす。
 「我々は、『同志』じゃないか」



 C.E.79 5月2日 0320時。 《ゴンドワナ》に停泊中の《ヒュペリオン》

 耳に衣擦れの音が聞こえ、ルナマリアは重い瞼を上げた。
 隣で寝ていたシンが上半身を起こし、ぼんやりと虚空を仰いでいる。
 「シン?」
 名前を呼べば、頼りなげな赤い瞳。
 「シン、どうしたの?眠れないの?」
 「ルナ…ルナは、死なないよね」
 「何?」
 「ステラの夢、見た」
 「…」
 ルナマリアが応えあぐねていると、シンは覆いかぶさるように体を重ねてきた。
 そのままルナマリアにしがみ付く。
 「ステラは死んだんだ…冷たくなって、湖の底にいる…俺、守るって言ったのに」
 「シン」
 「ステラも、父さんや母さんも、マユも…レイも、守りたい人が皆、死んで…」
 「シン、あなたのせいじゃない」
 「守りたいのに、守れない。皆死んでくッッ、俺、殺す、だけ」
 「やめて。お願い、やめてシン!」
 これ以上傷つかないで。

 ステラという少女のことはルナマリアも覚えている。
 捕虜だった彼女を死なせまいと無断に連合に返したことや、《デストロイ》を撃破した《フリーダム》に執着したことから、シンはあの地球軍の少女に恋心を抱いていたのだろうと思っていた。
 おそらくステラが生き延び、今でもシンの傍にいたのならそうなっていただろう。
 しかし最近になってシンはステラを異性として見ていたのではなく、自身を重ねていたのだと気付いた。
 家族がなく、戦争によって人生を狂わされ、死ぬことを誰よりも恐れていたステラ。
 それはオーブで家族を一瞬にして奪われた、無力な14歳のシンの姿そのままだった。
 だからシンは、ステラを守りたいと思った。
 彼女を守り抜けば、置き去りにされた14歳の自分も救われると感じたのだろう。
 そしてステラが死んだ時、14歳のシンも一緒に死んだ。
 《フリーダム》に殺された。
 
 「死ぬのは嫌だ、死にたくないッッ、死にたくないよッ!」
 《ゴンドワナ》に集結している自分たちを潰しに来るだろうザフトの中に、間違いなく《フリーダム》がいる。
 シンとルナマリアにとっては全てをめちゃくちゃにするあの悪魔の機体が。
 「死にたくない。でも、ルナが死ぬのも嫌だ。俺は…守れないのに」
 「大丈夫よ」
 ルナマリアは子供をあやすように、シンの黒髪を撫でる。
 「もう何も守らなくていいの」
 守られるべきは彼だ。
 自分と出会うもっと前…14歳のまま時を止めてしまったシンこそ守られるべきなのだ。
 「私があなたを守ってあげる」


 「お前、今回は出撃禁止」
 翌日。
 上司の無情な下命に、ルナマリアは「何ですか、それ!!」と憤った。
 しかしイザークは顔色を変えることなく、持っていたファイルの背をルナマリアの頭の上に振り下ろす。
 すこーんっ、といい音がした。
 「いたいっ!」
 「俺が最初から出る。代わりにMSの指揮をしろ」
 「何で!?」
 「そりゃこっちの台詞だ。何で黙ってた?」
 何のことですか、と言い返そうとして…そしてルナマリアは固まった。
 イザークが持っていたファイルがカルテの束だと気付いたからだ。
 あの軍医、ばらしやがった!!
 「口止めしたのに」
 「ルナマリア、俺を怒らせたいのか?」
 軍医は医者として当然のことをしただけだ。
 なのに逆恨みとも取れる発言をしたルナマリアに、とうとうイザークの額に青筋が浮かぶ。
 「三ヶ月の妊婦をMSに乗せられるか!パイロットの仕事なめてんのか!?」
 「二ヶ月半です!」
 「屁理屈言うな!」

 余談だが、たまにこの二人は精神的兄妹と評される。
 
 ルナマリアが不調を感じたのはジュール隊がザフトを追われ、この《ゴンドワナ》に逃げ込んですぐのこと。
 吐き気や眩暈はストレスからだろうと思っていたら、年配の女性看護士に見咎められ、医務室に強制連行された。
 妊娠していると診断され、このことは隊の面々には黙っていてくれと拝み倒したのだが。
 ザフトの動きが本格的になったことで、居合わせた誰かが上司のイザークに知らせたのだろう。
 「本来なら戦闘から外すところだ」
 「それじゃあシンが」
 「だからブリッジにいろと言っている。あいつがいつでも声を聞けるようにな」
 「シンは外さないんですね」
 ルナマリアは口を尖らせる。
 妊婦は駄目で、情緒不安定者はいいということか。
 「あいつは後詰めだ。出す出さないの判断はお前がしろ」
 「そういう問題じゃ」
 「ルナマリア」
 イザークが制すように名前を呼べば、大人しく口を閉ざす。
 現在婚姻統制は廃止されているが、
 コーディネーターにとって遺伝子の相性を全く無視した子作りはナチュラルよりもずっとリスクを伴う。
 特にイザークは妊娠中の妻を亡くした過去があるのだから、ルナマリアの身を気遣うのは当然だ。
 ルナマリアとて、生前は健康そのものだった彼の妻・・・シホのことを知っているので、怖くないといえば嘘になる。
 でも緊迫しているこの状況で、頼りないシンを危地に追いやるのはもっと怖かった。

 「お前が言いたいことは分かっている。今医者が一番必要なのはシンだろう。確かにあいつはぼろぼろだが、それでも守りたいんじゃないか?」
 「え?」
 「心のどこかではまだ『守ること』を諦め切れてないんだ。俺にはそう見える」
 イザークにも、過去に大切な仲間を守りきれなかった経験がある。
 だからこそ分かるのだろう。
 シンは感情をなくしてしまったわけではない。
 愛しい人を守りたい。
 再び得た仲間を失いたくない。
 守るために戦いたい。
 その思いは未だ彼の中で消えずに残ってくすぶっている。
 それを再び燃え上がらせるのがシンにとっていいことなのか、あるいは五年前と同じ道を辿るのか。
 「もうシンが傷つくのは見たくない」
 「でもあいつは自分だけ安全なところで安穏としていることを望まないだろう?お前も」
 「…」 
 「もう一度、守らせてやれ」
 

 「ふにゃあ゛ぁああぁぁーーー」
 イザークとの話を終えたルナマリアがトレーニングルームに入った途端、つぶれたカエルのようなうめき声が聞こえてきた。
 「タクト?」
 見ればタクトがマットの上で大の字になっている。
 その様子に、原因となった地獄のトレーニングセットを言いつけた本人は苦笑いをした。
 「生きてる?」
 「もうだめ、しぬ」
 「汗だくねぇ」
 「タクト、早く立ちなさい!」
 完全にへばっているタクトを叱咤するのは、奥でバイクをこいでいるミンシアだ。
 数日前から復帰し、仕事もこなす一方でタクトの体力づくりにも付き合っていた。
 「まだ腹筋200回と腕立て100回が二セット残ってるわよ」
 「み、ミンシアの鬼ぃ〜〜〜」
 「ほら、しゃんとしなさいよ!」
 「もうたてないぃぃ」
 タクトの声は枯れていて、どうやら本当に限界に近いようだ。
 さすがにここまでくると、体力がつくつかないの前に、いざという時に疲労で役立たなくなってしまう。
 バルフォアやモートンもこちらへの攻撃を具体化させてきた以上、明日からはスローメニューに切り替えた方がいいだろう。
 ルナマリアがそんなことを考えていると、バイクに乗ったままのミンシアが声をかけてきた。

 「副リーダー、隊長はどんな用件だったんですか?」
 「え?うーん、と」
 一瞬先程の会話をここで話すべきかどうか迷う。
 しかし、隠したところで今日中にでもパイロットである彼らには通達が行くだろう。
 「実はね、ジュール隊長からの命令で、次からの出撃はブリッジに専念することになったの」
 「え、何でですか?」
 「隊長が最初から出るそうよ。だからまあ、代理?」
 「そ、そうなんですか」
 ルナマリアがイザークの代理なのではなく、実際はその逆なのだが。
 さすがにこの状況で妊娠中です、なんて告白する勇気はルナマリアとてない。
 ミンシアは一応の納得はしたのか、戸惑った様子ながらもそれ以上追求してこなかった。
 「隊長も張り切ってるのかな?」
 「張り切るって?何を?」
 ミンシアの呟きに敏感に反応したのはタクトだ。
 まだ寝っ転がってはいるものの、真剣な面持ちでミンシアに視線を向けている。
 「リーゼよ。あいつ、皆を裏切ったのよ?」
 「…」
 「あたし、リーゼが絶対に許せない。皆だってそうでしょう?隊長だって」
 「隊長がリーゼを憎んでいるってこと?」
 「普通そうじゃない!」
 「普通って何だよ。隊長の気持ちをミンシアが勝手に決めるなよ」
 「え、えらそうなこと言わないで!あんたはあそこにいなかったからそんなことが言えるのよ!」
 語尾が震えたミンシアの叫びに、部屋には重い沈黙が降りた。 
 タクトがあの場におらず、リーゼの実際の裏切りを見ていないのは確かだ。
 ミンシアの怒りも、仲間であるリュカの死がジュール隊にとってどれほどかも、当事者ではないタクトには測れない。
 リーゼがしたことは確かに許しがたいことなのだろう。
 人が人を裏切るということはそういうことだ。
 けれどタクトは、プラントで《マンティス》のパイロットとしてヤマト隊に加わっていたリーゼを見ている。
 どこか苦しそうで、それでも必死に生き方を変えようとしていた。
 仲間を裏切るという最低の行為をしたはずの彼は、決して醜くは見えなかった。
 戦争というこの状況そのものにすでに濃いスモッグが掛かっていて、そう見えただけなのかもしれないけれど。
 「ミンシア。人を憎み続けるというのは疲れるものよ」
 重い空気中で凛と響いた声音に、タクトとミンシアの意識が引き寄せられた。
 ルナマリアが美しいブルーバイオレットの瞳に悲痛な色を浮かべている。
 「つか、れる?」
 タクトはあまりに意外な言葉にぽかんと口を開けた。
 憎しみは醜い。
 憎しみは断ち切らなくてはならない。
 憎しみは存在してはならない。
 憎しみによる復讐は己の身を滅ぼす。 
 ラクス・クラインやオーブのアスハ首長が繰り返し説いていたお決まりの綺麗な言葉だ。
 彼女たちもまた父を殺され、けれど憎むことを放棄して正義のために「力」を振るった。
 しかしルナマリアは彼女たちとは違う。
 彼女はザフトという軍の一部隊に所属する一兵士で、正義の為でなく故国の利益ために銃の引き金を引く。
 そしてその彼女は。
 憎むことが「駄目」とも「いけない」とも「愚か」とも言わず。
 「疲れる」、と。

 「私は長い間…三年間も憎み続けていた人を、ずっと間近で見てきた」
 「…」
 「シンのことよ」
 「え?」
 「なっっ」
 タクトは息を呑み、ミンシアは信じられないとでも言うように瞳を大きく見開いた。
 シン?
 シンとはシン・アスカか?
 いつもぼんやりしていて、何事にも興味がなさそうで、怒りや憎しみといった情に無縁そうなあの彼が?
 二人の表情から何を思ったかすぐに察したのだろう。
 ルナマリアは悲哀の瞳はそのままに、小さな苦笑いを浮かべた。
 「シンはね、オーブからの移民だったの。連合がオーブに進行してきた時に目の前で家族を殺された。…酷い死に方だったらしいわ。今でも夢に見ることがあるくらい」
 「それで、連合を憎んで?」
 「もちろん、地球連合も許せなかったと思う。でもむしろシンはオーブの偽政者、アスハを憎んでいた。家族を守ってくれなかった…自分もMSに乗って敵をたくさん殺してたくせに正義の味方面してる偽善者だって」
 「…」
 「今のあいつからは想像も付かないだろうけど、シンはいつも苛々してた。焦ってた。テレビのニュースでオーブの話なんか出ると特にね」
 そこで一旦言葉を切り、ルナマリアはミンシアを見る。
 シンは14歳の少年にはそぐわない、どこか暗い光をあの真紅の瞳に宿していた。
 今のミンシアと同じように。
 「シンはオーブのアスハを、戦場に乱入して犠牲を増やす《フリーダム》のキラ・ヤマト憎んで憎んで憎み続けて…それでも平和な世界にしたいって戦い続けた。でも、結局はそのアスハとキラ・ヤマト、そしてラクス・クラインに叩き潰された。心が折れて、二度と立ち上がれないくらいまでに」 
 五年前の戦争の終末。
 そこに至る過程は戦い抜いた者たちしか知らない。
 「シンは三年間憎むことで、戦うことで心の何もかも使い果たして…そして」
 出した結論は。
 「諦めた」
 それが今のシン・アスカ。
 善悪の判断を放棄し、与えられた仕事を黙々と遂行し、二度と傷つかないよう心を閉ざす。
 そうしなければ彼はあの時に発狂していた。
 それだけ傷つけられ、苦しめられ、貶められたから。
 タクトは息をするのも忘れてルナマリアの話に聞き入っていた。
 地球の安全な場所にいた自分は、あの五年前の戦争の真実のほんの一部しか知らない。
 実際に戦争に身を投じ、敵を憎み、それでもなお「平和」というゴールを目指さざるを得ない軍の兵士たち。
 感情と理性の間に皆同じくらい苦しむのに、最後は「善」と「悪」の線引きをされる。
 それが今現在自分が身を置いている「戦争」という世界なのだ。
 「なら、リーゼを許せって言うんですか!!?」
 血を吐くような声に、タクトははっとした。
 いつの間にかバイクから降りたミンシアが、荒い足取りでルナマリアに歩み寄っている。
 ものすごい表情だった。
 もしや取っ組み合いになるのではという危惧が起こり、タクトは疲労も忘れて体を起こす。
 「リーゼをあのままにしておけって?だってあいつ、裏切ったのよ!?」
 「ミンシア」
 「リュカを殺されたことを忘れるの?戦争だからしょうがないって、そういうこと!?」
 「そうじゃないわ」
 「じゃあ、何なの!?」
 「ミンシア、『人を憎み切る』というのは、あなたが思っている以上に難しいことなのよ」
 「…ッッ」
 肩を怒らせるミンシアに対し、ルナマリアの声は静かなものだった。
 ミンシアは口を開いて何か叫びかけ、しかし言葉を詰まらせる。
 何か思い当たることでもあったのか、単に反論できなかっただけか。
 しばらく沈黙が続いた後、彼女は「失礼します」と短く呟いてルナマリアの横を通り過ぎる。
 そのまま振り返ることなく、ミンシアは部屋を出て行ってしまった。
 
 


 ―――籠の中の鳥だな。

 ほのかは夢を見ていた。
 籠の中の鳥。
 ほのかのことをそう評したのはジェットだった。
 アントニア、ティモシーそしてケイン…。
 なかなか思い出せずにいた《バサラ》のクルーの顔が、嘘のように鮮明に映える。
 どうして今になってクリアに思い出せるのか。
 ほのかはその理由を知っていた。
 ―――また記憶を消されるんだ。
 その時の感覚を、体が覚えている。
 自分はまた、別の「何か」になる。
 今までのほのかは、記憶を消されることに関して全く抵抗がなかった。
 ケインのことが少しでも忘れられるのでありがたかったくらいだ。
 けれど、今回は。
 イザークやタクト、優しくしてくれたルナマリア、《ヒュペリオン》のクルーたち…彼らのことを忘れてしまうのがひたすら悲しい。
 泣きたかったが、涙は出なかった。

 

 ―――籠の中の鳥だな。

 そう言った時、金色の瞳が寂しげに揺れた瞬間をジェットは鮮明に覚えている。
 いつも物静かで、感情のない娘なのだと思っていた。
 記憶を塗り替えられ、薬を投じられてMSの部品の一部になる…そんな運命を享受しているのだと思っていた。
 けれど。
 ――― 一度はくちばしで籠の扉を開け、自由に羽ばたこうとした。
 ジェットが籠の鳥と揶揄した直後に彼女は《バサラ》の脱出ポッドに乗って飛び出してしまった。
 そして《ヒュペリオン》に拾われ、つかの間の安息を得たのだ。 
 今、その《ヒュペリオン》にほのかはいない。
 代わりにジェットがいる。
 不思議な気分だった。

 「ねえ、ジェット。これチェックしてよ」
 「他の奴に頼め」
 「いいから!」
 《ディシジョン》のコクピットから顔を出し、頬を膨らませているのはタクトだ。
 最新鋭機につい先日までテロリストをしていた輩を近づけるのはどうかと…まあ、ジェットに《ディシジョン》は動かせない。
 さすがに《オズ》シリーズや《シルバーボルト》などの専用機には近づかないように言われている。
 かと言って、監視されているわけでもない。
 「言われただろ、働かざるもの食うべからず、って!」
 「分かった。分かった、見てやる」
 いくらなんでも捕虜の管理が甘すぎるだろ、と一人ごちながら、ジェットは狭いコクピットに身を乗り出した。
 

 《ゴンドワナ》は、現在ちょっとしたカオス状態だ。
 ジュール隊とディーゼル隊は隊ごと移ったので混乱らしい混乱はない。
 問題はL4の戦い以降、反バルフォア政権を掲げて集まり出した義勇兵だ。
 ほとんどがザフトを離反した兵士だが、ラクス政権時代に海賊をやっていた流れ者もいれば、単なる一般市民までいる。
 合わせて約800人。
 いざという時に混乱しないよう、コウイチ・アボットが統制に駆け回っている状況だ。
 幸運なのは、ザフトから流れてきた兵の中に熱狂的なラクス・クラインのシンパがいないことだった。
 むしろ彼女の政策にも批判的な者が多く、流れ者たちも大人しくしてくれている。
 これはクーデターの前後に、他ならぬバルフォアとモートンがラクスに関係が深い集団を排除していた結果だった。
 もし彼らが《ゴンドワナ》に紛れれば、ラクスの政策でプラントを追われ、海賊にならざるを得なかった者たちと衝突していただろう。
 ラクスと対立していたコウイチが指揮を執ることも快く思わなかったに違いない。
 混乱はまだ多少残っているものの、何とか一つの集団として機能できる目途は立っていた。

 ともあれ。
 そんな状況のため、彼らにとっては元テロリストへの脅威も何となく薄れてしまったらしい。
 何となく、の辺りがもう色々とヤバイ気がして先が思いやられるのだが。
 監視する人手ももったいない、元パイロットならMSの整備を手伝ってくれと部屋から放り出されてしまった。
 放置されたジェットの方が捕虜に対してそんないい加減でいいのかと頭を抱えたくらいだ。
 かと言って今更《ゴンドワナ》と行動を共にする以外選択肢がないことに気づいて肩を落とす。
 そんな時にジェットの解放を知った《ディシジョン》のパイロット、タクト・キサラギが自分を《ヒュペリオン》に強制連行したのだった。
 もちろん最初は戸惑った。
 いくらこの《ゴンドワナ》が全体的に砕けた連中の集まりになっているとはいえ、
 《クラフト・カオス》のパイロットだった時は本気で殺そうとしてかかった相手だ。
 しかもこの《ゴンドワナ》を襲撃しに来た時、タクト・キサラギは明確な暗殺ターゲットだった。
 タクトとて、そんなことは分かっているだろうに。
 
 「このデータはBフォルダじゃなくてDフォルダに入れた方がいい」
 「何で?」
 「Bフォルダはなるべく要領を開けておいた方がいい。あまり色々なものを組み込み過ぎるといざという時混乱するぞ」
 「ならAの方が良くない?」
 「馬鹿!回避もろくにできなくなるだろうが」
 「でもこの装備は…」
 「Dに繋ぐ手順はそんなに難しくないだろう。これは破壊力も精密度もあるんだから…」
 タクトはプログラミングに関しては素人というわけではないがプロというわけでもない。
 ことに《ディシジョン》は専門のプログラミングマネージャーがパイロットにつくことを想定して造られた高性能MSだ。
 無茶なことばかり言うタクトに口では説教しながらも、勘と努力だけでよくここまで使えたものだとジェットは感心すら覚えた。
 設定を無理にいじろうとせず、パイロットが自身を機体に馴染むようしてきた結果だろう。
 シュミレーションを見る限りでも、《ディシジョン》のデータをさほど改変する必要はなさそうだった。

 「ちょっと、いい?」
 「!」
 「!!」
 すぐ後ろから声をかけられ、プログラミングの整理に夢中だったタクトとジェットはぎょっとして振り返った。
 いつの間にか、真後ろに黒服のシン・アスカが立っている。
 全く気配を感じなかったのに。
 赤い瞳に青白い肌、そして感情を全く感じさせない能面顔…幽霊みたいな人だな、とタクトは思う。
 隣のジェットも同じようなことを考えているのだろう、バイザーの下の口元が引きつっていた。
 「これ」
 シンが持っていたものを二人の前に突き出す。
 タクトは反射的に手を伸ばして受け取っていた。
 「あ、これ、ライスボール?」
 しかも二人分。
 タクトとまず間違いなくジェットへの差し入れだろう。
 「ジュール隊長が渡せって」
 「あ、ありがとうございます」
 「すまない」
 「…」
 シンは共に礼を述べたタクトたちを興味なさげに一瞥すると、くるりと背を向けて自分の機体の方へと歩いていった。
 本人はとっくにランチを済ませ、これから《デプスチャージ》の調整に入るのだろう。
 「変わった男だな」
 「シンさんのこと?」
 「他に誰がいる」
 だらしなく床に座り込み、差し入れられたライスボールを頬張る。
 自然と二人の視線は、整備士となにやら話し込んでいるシンへと向けられていた。
 「ジュール隊とは何度かやりあったがあの黒い機体が飛びぬけて強かった。それがあんなとぼけた男とは」
 「とぼけ…」
 それはないんじゃないか、と乾いた笑いを漏らしたタクトに対し、ジェットは深いため息を付いている。
 散々翻弄された一方で、クールで切れ者だろうという尊敬に近いイメージを抱いていたのだろう。
 それをぶち壊されて、軽くショックを受けているらしい。
 だが。
 「シンさんは、そんなに単純じゃないよ」
  

 

 「シンと初めて会ったのはユニウス条約締結後のアカデミーだった」
 「へえ」
 「もう七年も経つのかぁ。あの頃は本ッ当にナマイキな奴でね。口は悪いわ、性格わひねくれてるわ、ケンカっ早いわ、教官にはたてつくわの超問題児で。…でも」
 でも、あの頃はまだ笑っていた。

 あの後。
 ミンシアがトレーニングルームを出て行って二人っきりになった後、ルナマリアはシンの過去を話してくれた。
 ルナマリアにとって、一つ年下のシンは手のかかる弟のようなものだったという。
 やがて共に《ミネルバ》に配属され、シンは《インパルス》のパイロットに任命されて、そして《アーモリー・ワン》の事件が起こった。
 まだ子供で、けれど軍人だった自分たちはいやおうなく戦争という泥沼に足を踏み入れた。
 戦場の中でステラという少女と出会い、死に別れ、いつの間にかシンは笑わなくなっていた。
 そして彼と共に彼を取り巻く空気が確実に狂っていって。
 シンとルナマリアの関係を大きく変えた、あの事件が起きる。
 
 「本当にね、突然だったの」
 ルナマリアは少し笑っているようだった。
 その時の自分がそれほど滑稽だったのだという。
 「妹…パイロットでもないオペレーターの妹がMIAだって聞かされて、しかも乗ってた機体を落としたのはシンだって」
 タクトは眉を寄せる。
 仲間が妹を殺した…戦争だからって、そうそうありえる事体ではない。
 「でもね、命令だったの。妹はザフトの機密を盗んで、それを連合に売ろうとしたんだって。バレて逃げたから、だから撃墜するようにって、シンはそういう命令を受けたの。だから私はシンを責めることができなかった」
 軍人だったから。
 もしただの一般人だったら肉親としてシンに怒りを向け、憎み、人でなしと罵倒することもできただろう。
 実際本国の両親はそうしたらしい…けれど、ルナマリアはメイリンの姉である前にザフトの軍人だった。
 彼女にできたのは、せいぜいシンの目の前で大声で泣いてやることだけだった。
 「シンはね、ズルイのよ」
 「ズルイ?」
 「悔しかった!だって妹を、肉親を殺されて冷静でいられるはずないでしょ?シンは軍令に従っただけだって頭では分かってたけど、でもッ、でも本当は…私と同じ苦しみを味合わせてやりたかった!!ずっと一緒だった仲間にどれだけ酷いことをしたのか思い知らせてやりたかったッッ!」
 タクトはようやく気付いた。
 この叫びは、ミンシアがリーゼに対してのものと同じだ。
 ―――人を憎み続けるというのは疲れるものよ。
 ルナマリアもその感情を経験したのだ。
 だからあんな顔で、あんな台詞が言えたのだ。
 「ズルイの、シンは。メイリンを、妹を殺そうとしたくせに」
 「…」
 「私よりも、ずっとずっと傷ついていた」
 「…」
 「痛めつけてやりたくても、苦しめてやりたくても、それができないくらいボロボロで、息をするのも苦しそうだった」
 憎む、というのはそういうことだ。
 他人を傷つけるのと同じくらい自分を苦しめ、追い込み、最後には己の憎しみそのものに押し潰される。
 そんなシンを見続けてきたルナマリアだからこそ、彼を憎むことを止めた。
 肉親を殺されたというのに…周囲はそんな目で彼女を見たが、だからこそ彼をとことん許そうという気になった。
 戦争が終わって、デュランダルの思想が否定され、シンを見る目が変わっても、ルナマリアだけは彼の存在を許し続けた。
 生きていていい、生きていて欲しいと訴え続けた。
 他の誰もがシンを許さないから、自分だけは最後まで彼を許し続けるのだ。
 それが五年前の戦争を経験して、ルナマリアが選んだ生き方だった。




 「別に単純だとは言っていない」
 ジェットはタクトの声音に呆れの感情が含まれていることを敏感に感じ取って言い返してきた。
 「とぼけた奴だと言っただけだ」
  全く反論になっていないが、そこに突っ込むと話がややこしくなりそうだったのでタクトは何も言わなかった。
 ジェットと話すことを進めたのはルナマリアだ。
 『白夜』のリーダー的存在だったということを知らされた時ははっきり言って殺意を抱いた。
 しかも《クラフト・カオス》のパイロットだったという。
 彼と戦闘した時はコクピットの中で気絶し、危うく遭難しかけたのだ。
 タクトをそんな目に合わせておきながら、今は反バルフォアの《ゴンドワナ》に寝返っているのだから、二、三発くらい殴ってもバチは当たらないんじゃないかと思う。
 というか、野放しにしてていいのか?
 だが前もって彼と話していたルナマリアは危険性がないと判断したらしい。
 捕虜同然なんだからこき使ってやればいいのよ、と言ってのけてくれた。
 タクトがほのかのことでジェットに無関心ではいられないだろうことを見抜いていたのだろう。
 事情は多少異なるとはいえ、バルフォアやモートンの下にいた、という点で彼はタクトと同じだ。
 シンとルナマリアの過去を聞いたことで、タクトも会話くらいはしてもいいんじゃないかと思い直したのだった。
 それがいつの間にか《ディシジョン》のプログラミングの面倒を全面的に見てもらっていることになっているわけだが。
 やっぱり完全に心を許してはいけないんじゃないだろうか?と気持ちはどこかにあったものの、
 最終的にタクトはそれを頭から振り払うことに決めた。
 ここまでこのプラントのごたごたに関わった以上、何が変わるというわけでもない。
 疑ってまずい雰囲気になるくらいなら、信じ切って裏切られる方がましだと腹を据えることにしたのだ。
 「何を考えている?」
 「別にぃ、あんたのそのメガネ、変だと思って」
 「メガネじゃない」
 「でも目、悪いんだろ?」
 「まあ、クローンだからな、俺は。欠陥品だ」
 「欠陥…品じゃなくて、人じゃないの?『欠陥人』」
 「頭の悪い単語を造るな。っていうかお前、そこは慰めるところだぞ」
 「俺に慰めてほしいの?」
 「いや、やっぱりいい」
 そんな会話をしながらも、タクトの意識は常に同じところにはない。
 ヤマト隊を抜けプラントを外から見るようになったのを機に、前向き思考がとりえのタクトもネガティブになることが増えた。
 今や反政府を掲げることになってしまった《ゴンドワナ》に身を置いていることもある。
 コウイチ・アボット元議員はモートンとディーゼルの例の会話や「白夜」の存在を交渉のカードとしたかったが、
 バルフォア政権は世論を完全無視して《ゴンドワナ》を徹底的に攻撃する構えになっていた。
 相手がここまでなりふり構わなくなろうとはコウイチも予想していなかったのか、
 いまや交渉準備そっちのけで《ゴンドワナ》の戦力の強化に奔走している状態だ。
 それだけではない。
 ルナマリアから聞いた話だが、十日ほど前からヴィーノとの連絡が途絶えているという。
 十中八九、こちらとの繋がりがばれて捕まってしまったのだろう…無事でいてくれればいいが。
 ヴィーノが捕まったということはつまり、ほのかも未だモートンの手の内ということだ。
 またあの機体《コンヴィクション》に乗って。

 「ッッ!」
 タクトはスポーツドリンクを掴んむと一気に飲み干す。
 そしてほのかとヴィーノの顔を払うように頭を振った。
 「おい、タクト?」
 「ジェット、シュミレーション付き合って。これからやりこむから」
 タクトはそれだけ言うと、できたばかりの《ディシジョン》のデータを組み込んだディスクを持って立ち上がる。
 そしてまだライスボールを咀嚼しているジェットの肩を掴み、シュミレーション機のある方へと歩きながら引っ張った。
 「い、痛い!いたい!ちょっと待て!!」
 「早く食べてよ!」
 「分かった、分かったから。逃げないから手を離してくれ、痛い!!」
 考えたところで、タクトができるのは一つしかないのだ。
 
 

 C.E.79 5月6日 0800時。

 ザフト軍の総司令官、スチュアート・モートンが声明を発表。
 臨時評議会の全員一致により、《ゴンドワナ》をテロリストと認定。
 すでにザフト全軍を召集し、出撃命令を下したという内容だった。

 後にプラント最大と評された内戦の、最後の戦いが始まろうとしていた。



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2010/01/01