PHASE-28「ブルーアッシュの戦い -双蒼疾駆と蟷螂兄妹-」
C.E.79 5月6日 1141時(戦闘開始から54分)。
あちこちで火花が上がり、撃破され、機能停止するMSや戦艦の数が増えていく。
戦況は確実に激化しつつある。
しかし《ヒュペリオン》ブリッジでは、《シルバーボルト》は中破したもののイザークが無事に収容されたことで、一時的な安堵感が漂っていた。
タクトの話から救うことがほぼ不可能と思われたほのかまで一緒だという。
彼女をよく知るルナマリアとアランも胸を撫で下ろしていた。
だが、その空気を《ゼロファイブ》からの通信が破る。
『副リーダー!《ゴンドワナ》の方…レーダーに何か映りましたか?』
「え?」
ルナマリアは戸惑いながらもオペレーターに目をやるが、彼は首を横に振った。
「何も通ってないわよ。どうしたの?」
『いえ…何かが』
「何かが、なに?」
はっきり言いなさいとルナマリアは語気を強める。
『こっちのレーダーにも何も映らなかったんですけど、でも、何か通り過ぎるのが見えたんです。肉眼で』
「間違いないのか?」
ルナマリアは相変わらず首をかしげているが、アランは思い当たるものがあったらしい。
『は、はい。実態のある影、みたいな』
「すぐに追いかけろ!」
『りょ、了解しました!』
「《ゼロツー》もだ!」
『はあっ!?あ、はい!』
突然指名されたユーリが素っ頓狂な声を上げるが、アランの様子にただならぬものを感じ取ったのだろう、すぐに気を取り直してゴンドワナへと機体を向けた。
それを見送りながら、ようやくルナマリアも状況を理解した。
インカムで待機している《デプスチャージ》のシンへと呼びかける。
「シン、聞こえてた?」
『うん。ミラージュコロイド?』
「多分ね」
ルナマリアがちらりとアランに目をやると、彼も険しい顔で頷いている。
ミラージュコロイドとは、可視光線を歪めてレーダー波を吸収するガス状物質だ。
ファクトリーの原型となっているオーブのモルゲンレーテ社が開発したGのうちの一機、《ブリッツ》はこれを初めて実用化した機体である。
磁気で機体周囲に纏うことで、肉眼でもレーダーでも見えなくすることが可能になったのだ。
しかし、それゆえの欠点も存在した。
展開中はGの最大の強みであるPS装甲が使用できず、結果的に装甲が薄くなってしまうのだ。
さらに電力消費が激しく、時間制限のために隠密行動の時ですらリスクを伴う。
ゆえに戦闘を目的とするMSにとっては高い危険を伴い、滅多に使用されることがなくなった。
代わりに使用されるようになったのがミラージュミストだ。
機体にオプションとして装備するという手軽さで、基本的な能力はミラージュコロイドと大差ない。
ただ持続時間が短く、機体によっては…主にPS装甲やTF装甲の場合が多い…完全に姿を隠すことができないという欠点があった。
偶然とはいえエディが肉眼で見分けられたことを考えると、利用されたのはミストの方だろう。
一時的に姿を消す即席的な装置を使ったのだ。
数も限られているはず、おそらくは《エクスティンクション》や《コンヴィクション》のような単機でも戦況に影響を与えることの出来る高スペックの機体だ。
ミラージュミストが《ゴンドワナ》に辿り着くまで持つとも思えないが、突然敵が現れれば混乱を招くことは間違いない。
「《ゴンドワナ》にこのことを伝えろ。何処まで効果があるか分からないが」
「うちの《ゼロツー》と《ゼロファイブ》が追撃していることもね」
「了解しました」
アランとルナマリアの指示に、オペレーターが硬い表情で《ゴンドワナ》へとチャンネルを繋ぐ。
それを横目に、ルナマリアはシンへと呼びかけた。
「シン、出れる?」
『…』
「艦を護衛して欲しいの」
『分かった。行ってくる』
おずおずとしたルナマリアの申し出に対し、シンの返答はあっさりしたものだった。
彼にとって、ルナマリアの乗る《ヒュペリオン》を守るのは当然のことだ。
「シン、あの、気をつけてね」
『うん』
シンは戦闘中には似つかわしくないほど穏やかな顔つきをしていた。
五年前、息をするのも苦しそうな険しい顔で戦っていた彼を思い出し、急に胸が締め付けられる。
ルナマリアは無意識に腹部に手を当てていた。
「見つけた!」
《ゼロファイブ》のエディは、《ゴンドワナ》に近づく機影を捉えていた。
ブルーアッシュの中でも特にデブリの少ないこの宙域を、即席のミラージュミストのみで突っ切るのには無理がある。
未だレーダーで捉えることは出来ないが、エディの良すぎる視力は二つの不自然な歪みを見極めていた。
間違いない、MSだ。
《ゼロファイブ》が《オルトロス》を構えるのとほぼ同時に、歪んでいた空間が色みをまとった。
輪郭が浮き出て、紫ベースの二つの機体が現れる。
エディが自分たちの存在を的確に見出したことに気付き、姿を隠していても無駄だと即座に判断したのだ。
「こいつらっ!」
ドウッ!!!
《ゼロファイブ》の《オルトロス》が火を噴く。
紫の機体《マンティス・β(ベータ)》と《マンティス・γ(ガンマ)》が左右に分かれてそれをよけた。
忘れようもない。
ジュール隊がプラントを脱出する時に追撃してきた奴らだ。
こいつらのせいでリュカが死んだ。
「エディ、早まるな!」
「ユーリ先輩!」
そこへようやく《ゼロツー》のユーリが追いついてきた。
「落ち着け、こんなすばしっこい連中を二機も《ゼロファイブ》だけで相手できるか!」
「ご、ごめんなさい」
二人はシンのような飛びぬけた超反応や、イザークの大胆とも強引とも言える接近戦術は持っていない。
きちんと自分の能力を自覚している。
かといって、彼らとの距離に絶望しているわけでもない。
未だ自分たちが発展途上と信じ、高みを目指す精神力があった。
「絶対にここでこいつらを食い止めるぞ」
「言われなくてもそのつもりです!」
「面倒臭いのに見つかっちまったな」
こちらに狙いを定める二機のOZ(オズ)に、サスケは舌打ちする。
全く見つからないと高をくくっていたというわけでもないのだが、よりによってジュール隊とは。
近づき過ぎていた自覚はあったが、ミストを使うタイミングを誤ったか。
「何よ、雑魚じゃない」
「まあな」
《デプスチャージ》や《ルージュウルフ》のような厄介な機体でないだけましというものか。
「さっさと片付けちゃいましょ!」
C.E.79 5月6日 1152時(戦闘開始から65分)。
「このぉ!」
エディの《ゼロファイブ》の《オルトロス》が《ベータ》、《ガンマ》に向かって火を噴く。
機動力のある《ガンマ》は滑らかにかわしているが、
《ベータ》は二射目、三射目と、よける度に動きが次第にぎこちなくなっていった。
「やはり水色(ベータ)を先に狙うか」
ユーリの《ゼロツー》は《ゼロファイブ》の斜め前方からライフルで援護射撃をしているが、
一方で敵の隙を油断なく分析している。
「これでっ」
「ちぃ!」
《オルトロス》の五射目。
とうとう避けきれないと判断したのか、《ベータ》はビームシールドの《ツェーンゲボート・ツヴァイ》を展開した。
防御力が高く《アルファ》や《ガンマ》の《ツェーンゲボート》よりも面積が広いが、高出力のビーム砲を無効化できても衝撃まで殺しきれない。
《ベータ》が状態を僅かに崩した時、ユーリの《ゼロツー》はすでにビームランスを構えて突進していた。
「くらえええぇぇえぇ!!」
《ゼロツー》がランスを突き出す。
ガシィンッッ!
《ベータ》はぎりぎりでよけて柄の部分を弾く。
だが、衝撃でさらに大きくバランスを崩した。
「サスケェ!」
「邪魔するなよっっ」
《ベータ》の危機を見て取ったスズネが援護に向かおうとする。
しかしそれは《ゼロファイブ》が投げたブーメランに阻まれた。
こればかりは実体のないビームシールドでやり過ごすことが出来ず、《ガンマ》は動きを止める。
直線的に進むだけのビームと違い、動きも不規則な為に始末が悪い。
「へんだ!バーカ、バーカッッ」
「この野郎!」
スズネはヒステリックな声を上げると、《ガンマ》の脚部に装備されているビームブレードを展開した。
そして戻ってきた《ゼロファイブ》のブーメランの前に立つと。
ガギッッ、ンッッ!
とんでもない反射神経でそれを蹴り付ける。
綺麗に切断とはいかず、右脚のビームブレードも傷ついたようだが、
《ゼロファイブ》の元に戻ってくるはずだったブーメランは真っ二つにされてしまった。
「げー」
おっかない。
そう言おうとしたエディが、自分を無視して遠ざかっていく《ガンマ》に気づいて慌てる。
《ゼロツー》が未だ堕ちない《ベータ》に苦戦していた。
「嘘、は、はやッ!ユーリィ!!」
バチィ!!
「ち!」
「くっ」
《ゼロツー》のビームランスの刃と、《ベータ》の両腕のビームブレードが触れ合って火花を散らした。
さすがに《ベータ》は最新鋭機だけあっていい武器を備えているが、この距離での戦闘の場合、リーチもスピードも《ゼロツー》の方が圧倒的に有利だった。
《ゼロツー》はまるで自分の手足のように滑らかな動作でランスを構え直す。
迷うことなく《ベータ》のコクピットに狙いを定めた。
「これでぇ!」
「先輩、うしろぉ!!!」
「!」
攻撃に移る直前、エディの声が通信機に響き渡った。
同時に後方に供えられているカメラいっぱいに、赤い縁取りをした紫の機体《ガンマ》が映る。
やばいっ!
とっさにユーリは攻撃を止め、《ガンマ》に体当たりするように《ゼロツー》の状態を捻った。
ドゴォ、ガガッッ!
ビームの残影が弧を描いていた。
《ガンマ》がビームソード《アウグスト》を振り下ろしたのだ。
「こいつ!」
「ッッ!」
強力な一撃だったが、それは《ゼロツー》を戦闘不能にすることはできなかった。
《ゼロツー》が《ベータ》に機体を近づけたことで、《アウグスト》を握る《ガンマ》の力が僅かにぶれたからだ。
「ぐッッ」
がんっ!
ユーリは《ベータ》がこちらを攻撃する前に、両足で相手を蹴り付ける。
その反発力とバーニアを全開にしたことで、何とかその場を逃れようとした。
「逃がすか!!」
その背に《ガンマ》が追いすがるが、《ゼロファイブ》が援護のためのミサイルポッドを放っていた。
ドドドドドッッッ!
《ゼロツー》の機影が邪魔をしてよけきれないと判断したスズネはとっさに追撃を諦めた。
「あんの野郎!人を踏み台にしやがって」
「サスケぇ」
「大丈夫だ」
《ゼロツー》にコケにされたことで激高しかけたサスケだが、縋るような妹の声に何とか我を取り戻した。
「よくやった、スズネ。あいつはもうおいそれと接近戦はできないはずだ」
《アウグスト》での一撃は、コクピットこそはずしたものの《ゼロツー》の右アームを肩からもぎ取っていた。
少なくとも先程《ベータ》を混乱させた連続攻撃はもう不可能だろう。
「スズネ、回り込め!片腕(ゼロツー)の方を先に堕とすぞ!」
「分かった」
《ガンマ》が弧を描くようにして後ろに回り込もうとする。
《ゼロファイブ》にかばわれるようにしていた《ゼロツー》はすぐまた体勢を整えた。
「先輩!こ、『こんなもの』渡されても…僕、使ったことが」
「エディ、こっちも分かれるぞ」
「どうすればって、先輩!」
エディが戸惑っている間にも、片腕となってしまったユーリの《ゼロツー》は、
《ガンマ》の軌道と交差するように再び《ベータ》に近づこうとする。
だがその時、《ガンマ》の動きが突然変化した。
エディははっとして《ベータ》の方に向き直る。
《ベータ》が巨大なビームライフルを構え、《ゼロツー》へと向けていた。
C.E.79 5月6日 1151時(戦闘開始から64分)。
ビー、ビー、ビーッ。
「ちぃ」
赤く点滅する機体のパワーの残を示すゲージに、《ゼロフォー》のミンシアは舌打ちした。
「一度戻った方が、いいか?」
《ヒュペリオン》から出撃してから一時間が経過している。
共に出撃した《ディシジョン》、《シルバーボルト》と離れて以来、ミンシアは最前線で飛び出す敵機を撃ち落し続けていた。
戦況に未だ大きな変化はなく、少し離れたところには《ゴンドワナ》からの二個小隊、《アトラス》からも十数機が派遣されている。
ゆえに《ゼロフォー》もここまで最小限の労力を使うにとどめることが出来ていたわけだが、いつ敵が総力戦に持ちかけてくるか分からない…補給をしておいた方がいいだろう。
そんなことを考えていた矢先。
「何?」
友軍機、ディーゼル隊らしい、からの無線が騒がしいことに気付いた。
「敵が動き出したぞ!」
「!」
ミンシアはレーダーとカメラの交互に目を凝らす。
仲間の言葉通り、敵の左翼から中央にかけて展開していた艦隊が一気に動き出していた。
「これは、ヤマト隊」
この規模と事前に確認していたシグナルを見れば間違いない。
ヤマト隊が動いた!!
ミンシアは《ゼロフォー》のエネルギーパックを切り離すと、もともと装備していた予備のものに切り替える。
まだ母艦には戻らない。
あの大艦隊の中にいるはずだから。
《セラフィム》、《ストライクフリーダム》。
そして。
C.E.79 5月6日 1159時(戦闘開始から72分)。
サスケは大型ビームライフルを構え、標準を《ゼロツー》へと向けていた。
このライフルは基本的に後方支援用だが、出力調整によってはかなり精密なターゲティングができる。
ピピピピピ。
スコープをゼロツーの上半身に合わせる。
この距離からなら、コクピットに当たらずとも撃墜することが可能だ。
ピピッ!
画面にロックオンを知らせる文字が点滅した。
同時にサスケはライフルの引き金を引く。
「死ねッ」
キュウッ。
高熱の光線が走った…かと思えば半瞬後。
ドドドゥッッ!
《ゼロツー》の周囲で激しい爆発が起きた。
「やたっ!」
距離を置いていたサスケは撃墜を確信するが、反対側から見ていたスズネは違和感に気付く。
「違う、サスケ!」
「!?」
爆発はライフルのビームが《ゼロツー》に到達する前に起きていたのをスズネは見ていた。
何かで防いだ?
違和感に気付いたサスケが身構えると同時に。
「はあぁぁっ!」
「しつこいんだよ!」
爆煙からぼろぼろの《ゼロツー》がビームランスを構えて特攻してくる。
《ベータ》はビームライフルから躊躇なく手を離し、ビームブレードを展開して迎え撃つ。
見れば《ゼロツー》の唯一残っていた左肩のシールドが、チョコレートのようにでろりと解けていた。
これだけで防いだのか?
それにしてはダメージが少ない。
だがサスケに考える時間は与えられなかった。
《ゼロツー》が左アームに握っているビームランスを突き出す。
状態から見て、これが最後の攻撃。
「おちろぉぉーー!」
「甘いんだよ!」
意表をついたつもりだろうが、攻撃がばればれだ。
サスケは大きく突き出されたランスの刃をかわしてビームブレードを叩き込んでやろうと相手を待ち構えた。
その時。
「サスケェ!!」
ズズ、ン。
敵の接近を告げるアラームには気付いていた。
だがそれは《ゼロツー》のみだと思い込んで、レーダーを確認しないのがいけなかった。
まさか。
「ま、さか…遠距離型の、くせに…こんなに近くまで」
《ベータ》のコクピットの真上を、コンバットナイフが貫いていた。
サスケが《ゼロツー》に意識を向けている間に、いつの間にか《ゼロファイブ》が接近していたのだ。
ナイフは直前にエディがユーリから受け取ったものだった。
バチチチッッ!
あれほどうるさかったアラームより、さらに音量の大きな音が機体を駆け抜ける。
爆発する。
見れば《ゼロファイブ》の動きに途中で気が付いたらしい《ガンマ》もすぐ近くまで来ていた。
必死に自分を助けてくれようとしていたのに。
夢中になって、周りが見えなくなっていたのは自分だけか。
「お、にいちゃ…」
「…」
妹に呼びかけようと兄は口を開き…。
どおぉぉぉん!
推進剤を巻き込んで、《ベータ》が爆散した。
「やった!」
「よしっ」
だが勝利に酔っている暇はない。
まだ一匹いるのだ。
「お前らぁーーーー!!」
《ベータ》が攻撃を受けて爆発するまでの間、
凍ったように動かなかった《ガンマ》がものすごいスピードで《ゼロファイブ》に突進した。
両腕にはビームソードの《アウグスト》を構えている。
「返せ!サスケを返してよぉぉ!」
「!」
「ちぃ!」
直前まで両手にコンバットナイフを持っていた《ゼロファイブ》は逃げるしかない。
すると《ガンマ》は片手でライフルを構えようとするが、《ゼロファイブ》との間に満身創痍のはずの《ゼロツー》が躍り出た。
「先輩ッ?」
「立て直せ!!」
「は、はい!」
エディはナイフで《ベータ》を攻撃するに当たり、身軽になるため《オルトロス》を切り離していた。
左肩のシールドももげている…先程の《ベータ》の高出力ライフルの威力を半減させたのはこれだったのだ。
とっさに機体から外して投げつけたはいいものの、端の方にしか当たらなかった。
まあ、おかげで《ゼロツー》に向けられたビームの軌道をかなりそらすことができたのだが。
ギィンッッ!
ジジィィーーンッ!
《ゼロツー》のビームランスと《ガンマ》の《アウグスト》が激しくぶつかり合う。
一見怒りに燃える《ガンマ》が片腕の《ゼロツー》に対して有利のようだが、相手もしぶとく耐えていた。
「しつこいんだぁ、このお!」
「やっかましい女だな!」
やはり片腕のハンデは如何ともしがたく、《ゼロツー》はじりじりと追い詰められていく。
ズンッッ。
「!!!」
バチチィッ。
突然コクピットのカメラの半数がブラックアウトし、ユーリの目の前で火花が散った。
横からの一閃を避けきれず、頭部を綺麗に持っていかれてしまったのだ。
「野郎!」
腕に次いで頭まで失ってしまった《ゼロツー》はとっさにバランスをとることが出来ずに前に屈みこむような格好になる。
襲ってくれと言わんばかりの相手の姿に、スズネは高笑いをした。
「あははははははっっっ」
敵の相方の《ゼロファイブ》を確認すれば、未だ切り離した《オルトロス》を装備し終えていなかった。
こいつだけでも!
「死ねぇーーーーー!!!」
「なめんなあーーーーーーッッ!!」
ドスン、と。
何か重いものが胸に圧し掛かるような感覚。
「ッッ」
敵の上部から下へと振り下ろすはずだったビームソード《アウグスト》は、途中で動きを止めていた。
《ゼロツー》が前屈みの不安定な体形のまま、持っていたビームランスを文字通り「槍投げ」したのだ。
狙っていたのかはたまた偶然か、それは《アウグスト》の柄と、それを握っていた《ガンマ》の両手に直撃した。
「な、に…」
真っ直ぐに突き立てられたランスの衝撃で、《ガンマ》の両手がばらばらになっていく様がスズネの瞳に映る。
《ゼロツー》のランスもまた《ガンマ》本体まで到達するまでの力を失っていたが。
動きを止めただけで充分だった。
「い、いやっ」
「撃て、エディーーーーー!」
「いあぁぁあ!!!」
ドオォォォオォォッッ!
スズネの《ガンマ》が《オルトロス》のビーム砲に焼かれていく。
少女の体は。
機体もろとも一瞬で蒸発した。
C.E.79 5月6日 1211時(戦闘開始から84分)。
「ユーリ先輩、こっちに移る?」
「いや、大丈夫だろう」
《マンティスβ》と《マンティスγ》を撃破したものの、ユーリとエディは慢心相違だった。
特にユーリの《ゼロツー》は自力で動くことが出来ず、《ゼロファイブ》に支えられて母艦へと急いでいた。
「やっぱり《ゴンドワナ》の方がよかったんじゃないですか?」
「ここまで来たらどっちでも同じだ」
二人が《マンティス》と戦闘したのは、母艦《ヒュペリオン》と《ゴンドワナ》とのちょうど中間地だった。
移動している《ヒュペリオン》より《ゴンドワナ》の方がいいのではないかと思ったが、ここに来てヤマト隊が残存部隊を一気に押し出してきたのだ。
《ゴンドワナ》もこの動きをすでに察しており、周囲の護衛部隊と合わせて臨戦体勢をとっている。
「こんな状態の《ゴンドワナ》においそれと近づけない。多少のリスクを鑑みても、慣れている母艦の方が戻り易い」
「分かってますよ」
そんな会話をしている間に《ヒュペリオン》のコードを発見した。
ヤマト隊とすでに交戦状態に入っているかもしれないから慎重に近づかねばならない。
その時、エディはカメラの端に映った不自然な動きに目を見張った。
「どうした、エディ?」
「あ、あれは…」
流れ星にしては緩慢で、けれど肉眼では追い難いスピードだった。
二つあるその動きは不自然なようでいて、けれど時折激しくぶつかり合い、もつれ合っている。
「MSの戦闘ッ」
「こんなところでか?」
辛うじてだが、もう《ヒュペリオン》は肉眼でも確認できる距離にある。
こんなところで戦闘しているということは、ジュール隊の機体ということか。
その時、機体の一方が何かビットのようなものを本体から切り離した。
「!!!」
四つあるそれから放射線状にビームが走る。
攻撃されたもう一方がそれらをよけきったところで、一瞬両者の動きが止まった。
「《デプスチャージ》と、《フリーダム》!!」
2010/01/16